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第四章

141 フェアリーと森の事情

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「ごちそうさまぁ!」

 トーンシロップを堪能したフェアリーに、俺は生活魔法の清潔を発動させる。

 それによってベタベタだったフェアリーから、トーンシロップが綺麗に消えた。

「それで訊きたいことがあるのだが、いいか?」
「うん! やくそくだもんね! 何でも話すよー」

 すっかり機嫌が良くなったみたいなので、正直ホッとした。
 
「じゃあまずは、何で隠れてこちらを覗いていたんだ?」
「えっとね。悪いフェアリーから逃げている途中で、疲れてたから休んでいたの! そしたら君が突然現れたんだよー」
「ん? 悪いフェアリー?」

 それを聞いた途端、まるでタイミングを図ったかのようにそれが現れる。

「見つけたぞ!」
「捕まえろー!」
「女王様のためにー!」

 前方から、三匹のフェアリーが飛んできた。

 手には槍を持っており、このフェアリーを狙っているみたいだ。

 念のため鑑定を飛ばしてみるが、スキル構成に変わりはない。

 言葉を話すから人類系かと慎重になったが、やはりフェアリーはモンスターなのだろう。
 
 今思えば人族やエルフなどの人類は、大抵の場合十歳の時にスキルを授かる。

 けれどもモンスターには、おそらくそれが無い。

 合計四匹のフェアリーにスキルが無いということは、もう確定だろう。

 まあ目の前のフェアリーが軒並み十歳以下という可能性もあるが、それもカード化すれば分かることだ。

「あれは、倒しても構わないか?」
「う、うん! 裏切者の悪いフェアリーだから、お願い!」
「わかった」

 そう言って俺は緑斬リョクザンのウィンドソードを素早く抜くと、フェアリーに向ってウィンドカッターを飛ばす。

「ぐげぇ!?」
「ぶげばっ」
「だばぼっ!?」

 直線にいたからか、呆気なくまとめて両断された。

「ひぃ!?」

 あまりの光景に、フェアリーは青い顔をして怯える。

 ミスったか? これでまた警戒されないといいのだが……。

 そんなことを思いながら、俺はカード化を試みる。

「よし、フェアリー、ゲットだ」

 無事に、三匹ともカード化できた。

 これでフェアリーが、モンスターだと証明されたな。

 それとこいつらは普通に喋れるみたいだし、カード化してから情報を得る事も容易たやすいはずだ。

 カード化したモンスターは、生前の記憶が残る。

 なので、直接訊けば早い。

 先ほどはモンスターだと確証が無かったから、安全策で臨んだ。

 けれどもモンスターと分かった以上、コイツのご機嫌を取る必要が無い。

 だがまあ今更始末して情報を得るのは、流石に気が引ける。

「あ、ありがとぅ、ご、ごじゃいましゅ……」

 それに一応、感謝はしているみたいだ。

 当初こそ攻撃をされたが、状況が状況だったし、友好的になったのであればわざわざ倒す必要もないか。

 それと嘘かどうかは、以心伝心+で分かる。

 加えて悪いフェアリーとやらを倒せば、カードも集めることができるしな。

 そういう訳で、俺は再びフェアリーから直接情報を訊くことにする。

「それで話の続きだが、どうして追いかけられていたんだ?」
「え、えっとね、それは――」

 ◆

 それから話を訊いたことで、様々な事が判明した。

 もちろん以心伝心+で全て真実だと確認したし、心を読んで言葉足らずのところも概ね理解している。

 それでまず前提としてこの森は妖精の森といい、元々フェアリークイーンが治めていたようだ。

 エルフとも友好的であり、エルフの国にある自治区の一つでもあったらしい。

 だがそんなある日、ハイエルフを自称するエルフ達が森にやってきた。

 そしてフェアリークイーンを倒すと、その力を奪ったらしい。

 どうやらフェアリークイーンは、契約魔法という特殊なスキルが使えたようだ。

 それがあるため、エルフとも対等に取引ができていたのである。

 だがその力は奪われてしまい、悪用され始めたようだ。

 またフェアリーの中から裏切者も現れ、善良なフェアリーを捕らえているらしい。

 捕まったら恐ろしい目に遭うと噂されており、残った善良なフェアリーたちは森の中を逃げ回っているようだ。

 森を出ないのは、モンスターの習性もあって難しいのだろう。

 モンスターは基本的に空気中の魔素濃度の関係で、自身が生まれた場所からあまり出ない。

 しかし中には、エルフの元へ助けを求めた個体もいたようだ。

 そこから、自称ハイエルフとエルフの争いが始まったようである。

 このフェアリーは、偶然森の外周にいて難を逃れたみたいだった。

 詳しいことは、逃げてきた他のフェアリーから聞いたらしい。

 だがそうしたフェアリーたちも、今はほとんど捕まってしまったようだ。

 なのでこの森に善良なフェアリーは、最早ほとんどいないとのこと。

 ちなみに自然発生したフェアリーは教育ができていないので、見かけたら気をつけた方がいいと言われた。

 またあの巨大な木も、自称ハイエルフが来てから現れたらしい。

 なぜ現れたかは、フェアリーも知らないようだ。

 それと巨大な木へと一定距離近づくと、精神に作用するスキルや補助系スキルなどが使え無くなったり、効果が著しく低下するとのこと。

 対して敵は、普通に使えるみたいである。

 ゆえに善良なフェアリーたちは、森の外周にいるしかなく、敵から見つかりやすいという。

 配下のモンスターと全感共有が切れたのには、そうした絡繰からくりがあったみたいだ。

 このフェアリーから訊けた内容は、概ね以上である。

 思った以上に、面倒だな。

 自称ハイエルフの中に、倒したモンスターからスキルを奪う転移者がいるみたいだ。

 おそらくそれが、自称ハイエルフの女王だろう。

 あのボンバーが従っていたのにも、納得できる。

 スキルの習得は容量の関係上無限ではないと思われるが、強力なスキルをいくつも所持しているのだろう。

 つまり、自身の質を伸ばしていくタイプだ。

 どちらかと言えば質より量の俺とは、正直相性が悪い。

 ゲヘナデモクレスという切り札が無ければ、戦うのを諦めていただろう。

 自称ハイエルフの女王は、国を手に入れて複数の転移者まで従えている。

 結果として質だけでなく量までも、手に入れているのだ。

 そう考えると、恐ろしい人物である。

 だが逆に、倒すなら今しかない。

 この機会を逃せば、俺には手に負えない相手になるだろう。

 ツクロダもやっかいだったが、コイツはそれ以上だ。

 もしかして本来転移者とは、勢力を得て他国に挑むのが通常ルートなのだろうか?

 俺のように頻繁に国境門を通る方が、少数派なのかもしれない。

 あと気になるのは、補助系スキルが使えなくなる可能性だろうか。

 俺のスキル構成には、補助系スキルが多い。

 使えたとしても、効果が低下するようだ。

 これで肝心な時にゲヘナデモクレスが召喚できなければ、正直詰む。
 
 想像以上に、やっかいだった。

 何か対策は無いかと訊いても、フェアリーは知らないようだ。

 であるならば、知っていそうな者に訊くしかない。

 先ほどカード化した悪いフェアリーなら、何か知っている可能性がある。

 ならここでこのフェアリーとは、別れた方がいいな。

 モンスターといえども、力を知られない方が良い。

「情報提供に感謝する。では、俺はこれからやることがある。お前も達者でな」
「にゃーん」

 そう言ってレフと共に、その場を去ろうとしたその時だった。

「おいてかないでよぉ! 私もいくぅ!」
「は?」

 何故か、フェアリーが追いかけてくる。

「何でもいうことを聞くから! 私も連れてってぇ!」
「はぁ……」

 これは断ってもついてきそうだ。邪魔になるし、始末するか? いや、そこまでするのは、なんか嫌だな……。

「このままじゃ、私捕まっちゃうよぉ! おねがぃ!」

 そう言われてどうしたものかと頭を悩ませていると、それは起こる。

「ふぇ? なにこれ? え? なるぅ! なりましゅぅ!」

 フェアリーがそんな声を上げた途端、体が光るとその場から消え去った。

 そして気が付けば、俺の手元にカードが現れる。

「まじか……」

 ジョンの時は俺から問いかけたが、まさか向こうから勝手にカード化するとは……。

 また新たな隠し効果が、判明したな。

 とりあえずは、これで問題が解決したとしよう。

 けれども騒がれると面倒だし、しばらくカードのままにしておく。

 さて気を取り直して、悪いフェアリーたちを召喚して話を訊こう。

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