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第四章

133 依頼の帰り道

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 あれから無事に、コボルトの殲滅作戦は終了した。

 ちなみにCランク冒険者たちは、数匹のハイコボルトを狩ったようである。

 だが群れの規模にしては、上位種が少ないことに対して頭を捻っていた。

 結果として上位種が生まれる前に狩れたのだと、そう判断したようである。

 また数人の冒険者から、俺は声をかけられた。

 内容はだいたい、パーティに入らないかという勧誘である。

 当然だが、俺は断った。

 最初は先ほどの跳躍を絶賛し始めて、俺がソロかどうか探りを入れてきた感じだ。

 やはり、あの跳躍は目立ったらしい。

 だがまあ、モンスターをカード化する為だったので、仕方がなかった。

 どうしても、直線距離で近づく必要があったのだ。

 高さの実験をしていない以上、跳躍は必須だったのである。

 その後は冒険者を仕切るボーボスのパーティが、コボルトを一か所に集めるように指示した。

 事前にギルドから渡されていた大型のアイテムバッグに、集めたコボルトを詰めていく。

 ちなみに討伐計測の腕輪は、ギルドで直接返却するようだ。

 それと帰りの道中で狩ったモンスターは、計測されても無いものとして扱われるらしい。

 もしコボルトが現れた場合は、基本的にボーボスのパーティが処理することになっているようだ。

 まあ依頼は北の渓谷での殲滅なので、仕方がないだろう。

 そして最後に北の渓谷を軽く探索して、異変が無いか調べる。

 モンスターの異常発生は、見つかっていないダンジョンから溢れ出ている場合があるからだ。

 しかし結果として、洞窟に数多くの幼体がいたことでその説は無くなる。

 ダンジョン産のモンスターは、基本的に子供を作らないからだ。

 もちろん、幼体はその場で始末することになった。

「分かっているけど、何だか、かわいそうだわ」
「うん。見た目は子犬に見えるもんね」
「だがここで始末しないと、後々面倒になる」

 見つかったコボルトの幼体は、四足歩行の子犬にしか見えない。

 だが、成長すれば大きな群れを作り、人々に危害を加える。

 それにモンスターは、自然発生もするのだ。

 ここで数を減らさなければ、群れの形成速度が上がってしまう。

 なので、始末するしかない。

 カード化もすることはなかった。

 そうしてやるべきことを全て終えた後、俺たちはゲッコー車の元まで戻る。

 北の渓谷の探索が終了したので、あとは帰るだけだ。

 行のようにゲッコー車に乗ると、同時に何かが俺の膝の上に乗る。

 はぁ。やっぱり我慢できなかったのか……。

 俺は思わず、心の中でため息をついてしまう。

「わっ、なにその子! 可愛い!」
「コボルトの幼体とも違いますね。黒く長い毛のモンスター。思い当たりませんね」
「いつの間に召喚したんだ? というか、何で膝に?」

 荒野の闇の面々が、それぞれ反応を示す。

 本当は、依頼を終えた後に合流する予定だったんだがな……。

「にゃ~ん!」

 そう鳴いて、俺に体をすり寄せてくる。

 仕方がなく、俺はコイツを紹介することにした。

「あぁ、コイツは、レフという。普段はこうして出しているんだが、少し前まで体調が悪かったから召喚していなかったんだ。まあ、俺の相棒みたいなものだ。それと、何のモンスターかは秘密だ」

 とりあえず、無難にそう言っておく。

 冒険者は秘密の一つや二つはあるので、逆にそう言った方がスムーズだ。

「へぇ、レフちゃんっていうんだ。小さくて可愛いわね」
「秘密ですか。どこかのダンジョンにしかいない、希少モンスターでしょうか?」
「なるほど。相棒か。見た目は弱そうだが、戦えるのか?」

 レフというよりも、どうやら猫自体知らないようだ。

 確かに、この国に来てまだ一度も猫を見かけていない。

 もしかして、この国には猫がいないのだろうか?

 そんなことを思いながら、適当に質問へと答えていく。

 またルビスがレフを抱っこしたいと言ったが、レフは意地でも俺の膝からどかなかった。

 加えてレフはルビスには撫でさせたが、ギルスとダンリが撫でるのを凄く嫌がる。

 手が伸びれば、その都度尻尾で叩き落とす感じだ。

 以前から思っていたが、レフは男に触られるのを極端に嫌がる。

 どうやらそもそもとして、俺以外に触られることに対して拒否反応があるようだ。

 女や子供の場合は、仕方ないと諦めている感じである。

 そしてこれまで変化のなかったゲッコー車内は、レフの話で持ちきりになった。

 他のパーティの冒険者たちも気になり、話しかけてくるほどだ。

 また道中の戦闘では、レフにはシャドーニードルだけを使わせる。

 存在を隠せない以上、強さは誤魔化す必要があった。

 ちなみにこの国に来た時にレフを見られたことに対しては、既にほとんど警戒はしていない。

 仮にここまで情報が伝言ゲームのように回って来ても、元の情報から多少は変化していると思われる。

 それでピンポイントにレフだと気が付く者など、ほとんどいないだろう。

 もしいたとしても、対処方法をいくつか考えている。

 何より、ダークエルフとエルフの関係性も考慮した上での判断だ。

 なので俺は、レフを召喚することにしたのである。

 最も召喚理由は、コボルトの上位種をカード化するためだった。

 あの時カード化出来たのは、事前にレフがコボルトの上位種を捕まえていたからだ。

 隠密と、ダークネスチェインの組み合わせである。

 もちろんレフだけではなく、無数のアサシンクロウも動いていた。

 結果タイミングを合わせて倒してもらい、カード化したのである。

 その作戦を実行してもらう対価として、依頼後に合流する手はずとなっていた。

 だがこうして、レフは我慢できずに現れた訳だが。

 まあ薄々そんな気はしていたし、周囲からは受けがいいみたいなので良しとしよう。

 そうして問題なくゲッコー車は進み、中間にある村まで戻ってきた。

 前回同様、夕方まで待機する必要がある。

 今度は帰りということもあり、荒野の闇の面々も起きているようだ。

 なので四人で村へと繰り出そうと話していたのだが、それは突然起きる。

『デグル大長老国所属の【端の荒野】が離反いたしました。新国家【ラズン族長国】が樹立されます。宗主は【ダザシャ・ラズン・フィルスール】です』

「は?」

 いったい、何が起きたんだ?

 脳内に聞こえてきた声は、称号を与えられた時を彷彿とさせる。

 周囲を見れば、荒野の闇の面々も聞こえていたようだ。

「独立? え!? 私たちエルフから独立したの!?」
「みたいだね。族長国……なのに宗主は族長の妻、ダザシャさんというのはなぜだろう?」
「というか、この声はなんだ!? どこから聞こえてくるんだ!?」

 どうやら独立したことは、寝耳に水のようだ。

 他のダークエルフたちも、概ね似たような反応である。

 この世界には、まだ俺の知らないシステムがあったみたいだな。

 だがまあ、離反からの国家樹立の機会に立ち会う方が、珍しいだろう。

 気になるのは離反から樹立するまでの流れだが、何かエルフと取引でもあったのだろうか?

 それともエルフとは何も取引をせずに、一方的に成し遂げたのだろうか?

 前者と後者では、今後の展開が大きく変わる。

 もし後者であれば、エルフの国が怒り軍を差し向けてくる可能性があるかもしれない。

 そうなればダークエルフ、エルフ、自称ハイエルフの三つが争うことになる。

 下手に動けばどの陣営も二勢力から狙われることになるので、動くのが難しくなるだろう。

 もしかして、これを狙ったのか?

 いや、まだ確証が無い。

 どちらにしても、事態が大きく動きそうだな。

 国境門が開くまでの間は、とりあえずダークエルフ陣営で動くことにしよう。

 もちろんなるべく、動きは最小限にとどめる。

 それでも何か起きる時は起きるので、その時は覚悟を決める必要があるが。

 あと気になるのは、塩の問題だろう。

 確かダークエルフは、エルフに塩を握られていたはずだ。

 可能性としては、塩を手に入れる算段がついたのだろうか?

 塩が手に入るダンジョンが、生まれたのかもしれない。

 それをこの日のために、おそらく隠していたのか?

 情報が少ないから、憶測しかできないな。

 とりあえずはこのまま依頼を熟し、再度情報収集に努めよう。

 今回は皆が突然の出来事であるようだし、情報は案外簡単に手に入るかもしれない。

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