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第三章

099 白い球体

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 俺は熟考の末、カード召喚術を強化することを決める。

 理由としては、その方が将来性が高い気がしたからだ。

 どのような強化がされるのかは不明だが、二重取りの場合は少しは予想ができる。

 おそらく発動条件の緩和か、凄くて三重取りになるかだろう。

 それによって得られるものは、スキル取得時により高位のスキルになることだろうか。

 一見良さそうだが、しかしスキルには前提として容量の限界がある。

 自分の容量がどれくらいか不明だが、ツクロダのスキル欄は参考になった。

 ツクロダは(大)を七つに、他五つのスキルで容量限界になっていたはずである。

 俺のスキルに(大)は無いが、いずれも二重取りで進化したものだ。

 それを考えるともしツクロダと同じ容量だった場合、俺がスキルを覚えられる数は残り少ないことになる。

 であれば、二重取りを強化しても結果的にすぐに限界が来るかもしれない。

 またスキル自体は、転移者を倒したポイントでランクアップできるという点もある。
 
 もちろん称号という例外はあるが、アレは狙って取れるものではない。

 それに早い者勝ちな気がするので、今後俺が取得できるとは限らなかった。

 ちなみにギルドの貢献度や、金銭報酬が増えるのはどうでもいい。

 あれは時間があれば、どうにかなるものだ。

 なのでそうした理由から、カード召喚術を強化した方が良いと思った。

 加えて今回ツクロダとの戦いで、配下がもっと強ければ取れる手段も変わったはずだ。

 数は力だが、強力な敵の前ではザコモンスターは時間稼ぎが精々である。

 俺の背中を預けられる個体が、数体欲しいところだ。

 いわゆる、四天王的な配下が欲しい。

 そういう訳で俺は白い球体を使い、カード召喚術を強化する。

 念じると白い球体は姿を消し、一瞬俺の身体が光った。

『神授スキル【二重取り】が発動しました。神授スキル【カード召喚術】を追加で強化します』

 するとこれに対しても二重取りが発動したことで、カード召喚術が更に強化される。

 一瞬二重取りを強化して、この白い球体を手に入れることができればとも思ったが、今回手に入れたのは偶然に過ぎない。

 なので、その考えはすぐに消える。

 さて、これで強化されたみたいだが、ステータス上では特に変化はないな。

 カード召喚術の名称は、何も変わっていない。

 しかし何が強化されたのかは、実はよく分かっている。

 強化された瞬間に、脳内に情報がインストールされたのだ。

 まず最初に強化されたことで増えたのは、オーバーレボリューションという隠し能力である。

 これは複数枚の同じカードを一枚に融合させて、高位の存在に進化させることができるようだ。

 例えるなら複数のゴブリンを融合させて、ホブゴブリンに進化させるような感じだろう。

 しかしその代償として、進化させるための力が満ちるまで、カードを新たに用意してそれを生贄に捧げなければならない。

 つまりカードを大量消費して、強力な一体を生み出す能力なのである。

 俺が欲しいと思った能力が、ピンポイントで増えた。

 おそらく、強化は使用者の望みをある程度反映させるのだろう。

 ちなみにこのオーバーレボリューションを使用すると、再使用まで指定した同じカードの枚数分の日数がかかる。

 だがこれは次の強化により、半減されることになった。

 二重取りによって増えた強化は、カード召喚術のあるゆる効果によって生じた、時間的制限を半減するものである。

 つまり幻影化発動後にそのカードが使用できなくなる期間や、カード化不可能期間を半減するということだ。

 完全に無くならなかった事は残念だが、個人的にはとてもありがたい。

 そしてこの恩恵を一番に受けるのは、おそらくこれだろう。


 名称:カード召喚術
 効果
 ・自身や召喚モンスターが倒したモンスターをカード化することができる。
 ・カードからそのモンスターを自由に召喚することができる。
 ・召喚したモンスターが死亡した場合、そのカードは12・・時間使用できなくなる。
 ・カードの所有上限は、所持者の魔力量によって決まる。


 見て分かる通り、モンスターの復活が24時間から12時間へと半減しているのだ。

 これを見れば、時間的制限をゼロにできなかった理由がよく分かる。

 死亡しても即復活では、チートすぎるのだ。

 白い球体の強化でも、そこまではできないという事だろう。

 望みをある程度反映するとはいえ、限度があるようだ。

 しかしそれでも、時間的制限が半減しただけで十分に凄い。

 それに強化されたことで、なんと現状の時間的制限が一度リセットされていた。

 要するに幻影化の反動も無くなり、カード化ができるのである。

 ツクロダ戦でやられたモンスターたちも、復活していた。

 先に分かっていたらレフとの融合を解除していたのだが、これは気づけるものではないので仕方がない。

 それよりもカード化ができるようになったという事は、試せることが一つある。

「ブラッドのカード化か……正直、いらないんだよね……」

 思わず口に出すほど嫌だが、実験的な面から必要な事だった。

 そもそもブラッドの種族はウェアウルフであり、当初からモンスターではないかと思っていたのである。

 人に属するのであれば、普通は獣人である気がした。

 なので、カード化自体はできるはずだろう。

 加えてこれにより、転移者のカード化を試すことができる。

 おそらくブラッドのように、人ではなくモンスターになった転移者もいるだろう。

 そうした転移者と出会った時、このカード化できるかどうかの情報は大いに役に立つ。

 しかし問題は、個が残っている可能性だ。

 転移者であれば、何となく個がそのままの状態で召喚される気がする。

 だとすれば、面倒なこと極まりない。
 
 ゆえに俺はブラッドをそのまま使う気にはなれないので、他のことで有効活用しようと思う。

 既に死亡しているわけだし、問題はない。

 そう言う訳で、俺はブラッドのカード化を試みる。

 するとブラッドが消えた場所から光が発せられて、俺の手にカードが現れた。

「うわ……ブラッドを、本当にゲットしちゃったよ……」

 正直俺が倒したという判定がなされるのか微妙だったが、問題なくカード化できてしまう。

 またブラッドが光の柱に撃たれる直後、資格を失ったことによる退場がどうとか言っていた。

 なので魂自体が無くなっていてもおかしくないと思ったが、カード化できたことでそれはおそらく否定される。

 退場とは、強制的に殺されるだけのようだ。

 まあ、それについては今考えても仕方がない。

 とりあえずブラッドのカードは、近いうちにアレで使うことになるだろう。

 なので、召喚はしないでおく。

 しても面倒になるだけだ。

 それと今の内に、レフとの融合を解くことにした。

 ツクロダやブラッドを倒したし、流石にもういいだろう。

 レフが心の中でイヤイヤと叫ぶが、無視をした。

 そうして俺はメイド服を着た猫耳美少女の姿から、元の少年の姿に戻る。

 服装は以前と同じ、ブラックヴァイパーの装備一式だ。

「ああ、やっと男に戻れた……」

 思わず、そう声に出してしまう。

 レフのカードを見れば、案の定灰色になって召喚できなくなった。

 融合していたのはおよそ一週間ほどなのに、長い間女になっていた気がする。

 今後融合する時は、状況をよく考えて行うことにしよう。

 でなければ、また長いこと融合したままになる可能性が高い。

 何となく長引けば長く程、精神に影響が出てしまう気がする。

 今のところ違和感は無いが、気が付いていないだけで何か変わってしまったのだろうか?

 融合は強力だが、頻繁に使わない方がよさそうである。

 これは俺が思っている以上に、危ない力かもしれない。

 俺はそんなことを考えながら、グリフォンに乗る。

 さて、今回のことをハパンナ子爵に報告しにいこう。

 あとは一応念のため、ラブライア王国の王都を上空から少し観察していくか。

「頼むぞ」
「グルルゥ!」

 そうして俺はツクロダやブラッドとの戦いを乗り越えて、帰路につくのであった。

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