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第三章

098 ブラッドとの戦い

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「一目ぼれだったんだ、諦められねえ! ジフレちゃんが強いのは十分理解している。けど、今はこれ以上ないくらい消耗しているはずだ! それに引き換え、俺は全く疲れてない! 全力を出せる!」

 それは、俺が死なないように守ってやったからだろ……。

 だが、もはやどうでもいいことか。

 それに俺は決めていた。壁尻以降にどうしようもない事をするようなら、コイツを倒すと。

「賭けの条件、確認した方がいいよ?」
「何だ? 俺が負けたら奴隷にでも……神授スキルの消滅!? え? 負けたら強制決闘が無くなるのか!? 嘘だろ!? どうしてだ? どうしてなんだよ!」

 俺が賭けでそれを望むとは思ってもいなかったか、ブラッドは困惑と怒りをあらわにする。

 だがおかしいな。俺が望んだのは、強制決闘の譲渡だったんだが……まあ、そこまで甘くはないという事だろう。

「どうしてって、神授スキルで悪さしようとするからでしょ? だったら無い方がいいよね?」
「こ、これがなきゃ、俺はどうやって困難を乗り越えればいいんだよ!」
「知らないよ。神授スキル無しで頑張ればいいんじゃない?」
「くそっ! だが、勝てばいいんだ。勝てば、ジフレちゃんは俺の物だ!!」

 ブラッドはそう割り切ったのか、俺に向ってくる。

「上空で待機してて」
「グルル!」

 俺はグリフォンから飛び降りると、そう命令を下した。

 ブラッドはピンチになればなるほど、強化されていく。

 であるならば、高威力の一撃で終わらせるのが手っ取り早い。

 そう思った時、とあるカードが召喚しろと主張してくる。

 ツクロダ戦では出番がなく個を引き上げるサポートに回っただけなので、鬱憤うっぷんが溜まっているようだ。

 まあ、いいだろう。

「現れよ、ホワイトキングダイル!」
「グォオウ!」

 俺が召喚したのは、当然ホワイトキングダイルだ。

「なあっ!? こんなやつ、出さなかっただろ!? だが、俺は負けるわけにはいかねえんだ!」

 ブラッドはホワイトキングダイルを見て驚愕きょうがくするが、果敢かかんに、いや馬鹿正直に突っ込んでくる。

 対してホワイトキングダイルは、タイミングを見計らっていた。

 そしてブラッドが、ホワイトキングダイルに飛び掛かる。

「鉄の拳! そして、強撃だぁうわあ!?」

 けれどもその直前ブラッドの足は、背後から現れたダークネスチェインに引っ張られた。

「本当に、馬鹿だね」
「えっ――」

 間の抜けた顔で俺を見るブラッドは、その瞬間ホワイトキングダイルのあぎとの中に消える。

 ホワイトキングダイルは、【あぎと強化(大)】という種族特性があった。

 魔法系スキルも強力だが、威力だけならこれの方が強い。

「飲んじゃだめだよ。吐き出して」

 俺はそう命令をして、ホワイトキングダイルからブラッドを吐き出させる。

 これは別に慈悲じひではない。

 何となくこういう奴は、無防備な胃袋をぶち破る感じがしたのだ。

 案の定両足と左腕を失っているが、他に外傷はなさそうである。

 悪運の強いやつだ。

「負けを認める? でないと、死んじゃうよ? 最初に言っておくけど、君が死んでも私は構わないからね?」
「ぐっ、うぅうう」

 するとブラッドは、俺の言葉を聞いて涙を流し始めた。

 ポイントの事を考えたら、殺した方が良いのだろう。

 だが一応、ツクロダの逃走を防いだという実績がある。

 それに助けられたのは事実なので、その実績と相殺で一度だけチャンスを与えることにした。

 恩には恩返しを、恨みには復讐をが俺の考えである。

 加えて片腕だけの状態では、この世界で生きて行くのは大変だろう。

 恨みがあることも事実なので、それが罰になる。

 ブラッドには今後、過酷な人生が待っているだろう。

「子供じゃないんだから、泣いても許さないよ? それに私は負けて奴隷になるのは、絶対に嫌だからね。正直、君を軽蔑したよ。もう関わらないでほしい。
 そしてこれは最終通告。負けを認めないなら、死んでもらうよ?」
「うぅうう。わ、わがっだ。俺の負けだ」

 そしてブラッドが負けを認めた瞬間、空間が元に戻る。

 これでようやく、コイツともおさらばだ。

 そう思った時だった。

「なっ!? 資格の消失により、強制退場!? なんだこ――」

 するとそんなブラッドの声が聞こえるのと同時に、天から白い光りの柱がブラッドに直撃する。

「嘘でしょ……」

 そして気が付けば、ブラッドは跡形もなく消え去っていた。

 続けてブラッドが死亡したのか、あの声が聞こえてくる。

『転移者を殺害したことにより、20ポイント獲得しました』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。追加で20ポイント獲得します』

 今のは俺が殺した訳じゃなかったが、間接的に殺したということだろうか。

 最後にチャンスをやったのに、あわれな奴である。

 そう思うのも束の間、追加で声が聞こえる。

『転移者初の他者の神授スキルの消滅を達成いたしました。称号【神授スキルを滅する者】を獲得します』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。称号【神授スキルを滅する者】を獲得します』
『称号が重複しているため、称号が統合されました。称号【神授スキルを滅する者】は、称号【神授滅師】に進化しました』

 転移者を初めて殺害した時と同様、俺は新たな称号を手に入れた。

 どうやら転移者の中で、俺が神授スキルを消滅させた最初の転移者らしい。

 多くの転移者同士が既に出会っている気がするが、神授スキルを消滅させる者はいなかったようだ。

 それだけ、神授スキルを消滅させるのは難しいのかもしれない。

 だとすれば、ブラッドの神授スキルは実はかなり凄かったのだろう。

 神授スキル自体を賭けで奪うことはできなかったが、エクストラくらいならいけたのかもしれない。

 しかしブラッドのスキル構成を考えれば、それは違う可能性もある。

 それとも簡単に思いつきそうなことだが、ブラッドはそれに気が付かなかったのだろうか?

 相手も賭けの対象を選択できることを知らなかったくらいだし、無くはない。

 それ以外だと、何か条件があった可能性もある。

 まあ、今更考えても仕方がないことか。

 あとはブラッドが謎の白い光の柱により死亡したが、何とも思わないな。

 むしろ、いなくなって清々したかもしれない。

 そう思いながら何となくブラッドが消えた場所に近付くと、地面にビー玉ほどの白い球体を見つける。

 なんだこれ?

 気になって拾ってみると、その瞬間それが何かを理解する。

「こんなものが現れるなんて……」

 どうやらこれを使うことで、自身の神授スキルを強化することができるようだ。

 しかしなぜ、このような物が落ちていたのだろうか?

 あの白い柱が原因だとは分かるが、都合が良すぎる。

 おそらく神授スキルを消滅させるというのは、並大抵のことではない。

 それを成し遂げた褒美ということだろうか?

 であれば、神授スキルを消滅させることができる者が有利すぎる。

 今はできなくても神授スキルの隠し効果が判明することで、可能になる者がいるかもしれない。

 神授スキルにも差があるし、それも差の一つなのだろうか? 何となく、違う気がする。

 これまでの出来事から神は争いを望んでいると思われるが、圧倒的な強者による一人勝ちは望んでいない気がした。

 しかしそれは俺の憶測だし、単なる直感だ。

 実際には、そこまで深い意味はないのかもしれない。

 だがもしも俺の予想通りだとすれば、いずれ神授スキルを失う何かが起こる予感がした。

 そしてそれは、転移者の手によって行われる。

 この白い球体は本来それによって、手に入る物だとしたらどうだ?

 深読みが過ぎるだろうか? けれども、可能性はゼロではない。

 転移者のしたいことをすがよいとは言っていたが、安住あんじゅうできる事が約束された訳ではなかった。

 中には争いを好まず、平和に生きる弱い転移者もいるだろう。

 そうした者も、争いを強制させられるのかもしれない。

 だとすれば、この転移はそう甘いものではなかったという事になる。

 神によって簡単に神授スキルという力を与えられた訳だが、それが代償なのだろうか。

 もしかしたら最終的に生き残れる転移者の数は、少ないのかもしれない。

 それにブラッドが最後に言っていた、資格の消失というのも気になる。

 神は神授スキルを持つ転移者に、どのような資格を与えているのだろうか?
 
 現状分からない事が多いが、どちらにしても力が必要になりそうだ。

 俺の思い過ごしならいいが、備えておくことに越したことはない。

 なので、この白い球体をさっそく使うことにする。

 問題は、カード召喚術と二重取りのどちらを強化するかだ。

 自身を強くするなら二重取り、配下を強くするならカード召喚術という感じがする。

 さて、どうしたものか。

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