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第三章

095 ツクロダとの決戦 ④

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 まずはいつも通り鑑定を飛ばすが、当然通らない。

 それは何となく分かっていたので、あせる必要はなかった。

 続いて獣の腕を人型に戻し、取り出した緑斬リョクザンのウィンドソードからウィンドカッターを放つ。

 だが、それも効いた様子がない。

 失敗作EXのような、分かりやすいバリアは見られなかった。

 想像以上に、あのロボットは頑丈なのかもしれない。

 俺がそう思っていると、ツクロダが自慢げに解説し始める。

「うひゃひゃ! このツクロダロボの表面には、失敗作以上の高度なバリアが張られているってわけ。猫耳ちゃんの必殺の一撃でも、突破は不可能だ!」

 なるほど。バリアは表面に張られていたのか。

 一見何もないように思えたが、それは勘違いだったらしい。

 加えて失敗作EX1よりも高度なバリアが張られているとすれば、対処が難しくなる。

 同じように魔充でどうにかしようにも、どこでバリアを発生させているのか検討もつかない。

「おらっ! 強撃ッ! ぐぅ!? 俺の力は元の数倍以上強化されているのに、硬すぎだろ!?」

 ブラッドも攻撃を打ちこむが、びくともしないようだ。

 しかしブラッドの言う通り、先ほどよりも強化率が上がっている。

 だがそれ以上に、目の前のツクロダロボの守りは強固のようだ。

「それでおしまいかぁ? んじゃ、次は僕ちゃんの番じゃんね! フィンガーバルカン起動!」

 するとツクロダロボの両手の指先から、無数の魔力弾のようなものが放たれる。

 速い!

 その弾速と連射速度は、道中壁に設置されていた銃以上だ。

「ぐあぁあ!?」

 俺は何とか回避を続けるが、ブラッドが避け切れない。

 急所は何とか外しているが、手足からは血を流している。

 不味い。

 そう思い、ダークネスチェインでブラッドをこちらへ引き寄せた。

 またツクロダロボの指に巻き付けて、発射先をずらす。

 バリアが表面に張られていても、そうしたことは可能なようだった。

 しかし一度の攻撃で、窮地きゅうちおちいったのには変わりない。

「わ、わりぃ。だが、今のでまた強化されたぜ」
「それよりも、その傷を早く治して」
「すまねえ」

 俺はそう言って、ブラッドにポーションを投げ渡した。

 ブラッドは今ので強化されたらしいが、そう何度も繰り返せるものではないだろう。

 ツクロダロボを超えるより先に、ブラッドが死亡する可能性が高い。

 そうなれば、俺はツクロダの奴隷になってしまう。

 果たしてここを、どう乗り切るべきだろうか。
 
 ホワイトキングダイルを召喚しても、あの威力を考えればやられてしまう。

 ホブンでは、もはや相手にもならないだろう。

 先ほどカード化した失敗作を出しても、おそらく無駄に終わる。

 またザコをいくら召喚しても、意味はない。
 
 リビングアーマー千体でも、時間稼ぎが精々だろう。

 そしてこれまで役に立ってきた生活魔法でも、おそらくダメだ。

 種火・飲水・微風・土塊・光球・暗闇・清潔・氷塊・魔充・植育・修理・調整。

 どれを使っても、勝てるビジョンが想像できない。

 大きなことを下手にしようとすれば、魔力を一気に失ってしまう。

 これは流石に詰んだか? いや、だとしても諦めるわけにはいかない。

 それに、何か弱点がある可能性だってある。

 俺はそう考えダークネスチェインを使い、ツクロダロボによじ登っていく。

「うひょ! パンチラ! 黒いパンティとか、猫耳ちゃん大胆!」

 ツクロダの言葉に不快な気持ちが湧き上がるが、今は無視をする。

 背後や上部、関節などあらゆる場所を観察した。

 しかし、それらしい弱点が見当たらない。

 ツクロダが出入りするようなハッチなどは、なかった。

 関節も弱点に思えるが、ダークネスチェインを巻きつけても引き千切られてしまう。

 そもそもバリアで常に守られており、ダメージが入らなかった。

 だがそうして俺が弱点を探していると、ブラッドが集中して狙われてしまう。

「おらおら逃げろ逃げろ! でないとハチの巣だぞ!」
「ぐぅ! 調子に乗りやがって! もっと強化されれば、こんなオンボロぶっ壊してやるのによ!」

 ブラッドはそう言いながらも、先ほどより動きが良くなっている。

 おそらく、ピンチによって強化率が上昇したからだろう。それによって、どうにか魔力弾を避け続けていた。
 
 だがいずれにしても、このままでは不味い。

 しかしそう思ったところで、ツクロダロボを倒せるだけの力が無かった。

 本当に、これで詰みなのか?

 ツクロダの奴隷になるくらいなら、死んだ方がましだ。

 けれども一度隷属してしまえば、死ぬことはできないだろう。

 死よりも苦しい日々が、永遠に続く。

 しかしだからといって、ここで自死する訳にはいかなかった。

 であれば無理を通してでも、アレを試すしかない。

 ホワイトキングダイル、この光景を見ているんだろう? なら、力を貸してくれ。

 幻影化だ。レフとの融合状態を維持しながら、幻影化するしかない。

 二重発動ができれば、ツクロダロボへの勝機が生まれる。

 この一見簡単に思える事だが、都合よく発動することは難しい。

 本能的に、現状できないことが分かるのだ。

 だがこれができなければ、ツクロダに勝つことは不可能である。

 どのような代償を払ってでも、この場を乗り切る必要があった。

 するとそんな俺に、とある声が聞こえてくる。

 “我が何とかしよう。その代わり取引だ、我と我に似た子らを解放して欲しい”

 誰だ?

 ”我は先ほど戦っていた、成れの果てだ。ホワイトキングダイル殿のおかげで、こうして出てくることができた”

 この声はまさか、失敗作EX1か?

 それに、ホワイトキングダイルのおかげ?

 “そうだ。我の個を暗き底から一時的に引き上げてもらった。同じ存在であり、またお主の力で繋がっていることが要因だろう”

 どうやら俺のカード召喚術には、そのような隠し効果もあったようだ。

 そうと分かれば、その取引とやらを受けよう。

 俺に断る選択はない。

 ”それはありがたい。我は、もう疲れたのだ。この魂を失ってでも、解放されたい。故に一度限りだが、我の全てを使って、お主の望みを叶えよう”

 その声が聞こえた瞬間だった。

 目の前に失敗作EX1のカードが現れ、光を発する。

 そして気が付けば、俺の背後に幻影として現れていた。

 見た目は先ほどと同様に溶け続けている姿だが、その赤い瞳には強い意思を感じる。

「な、何だよそれ! 僕ちゃんの失敗作じゃん! どういうことだよ!」

 ツクロダが驚愕きょうがくの声を上げるが、俺はその時既に動き出していた。

 左腕には幻影の大砲。右手には鋭い四本の尻尾の先端が爪のように重なっている。

 これなら、いけるはずだ。

「喰らえ」

 俺は大砲を向けると、ツクロダロボに向けて発射した。
 
 近距離から放たれた炎の玉は、着弾すると一瞬で全身へと燃え広がる。

「うぉお!? 何でそれが使えるんだよ! けど無駄無駄! ツクロダロボのバリアは無敵……なんで消えない!? ふざけるな!」

 余裕を見せていたツクロダだが、消えない炎にあせりだす。

 おそらくバリアで絶えず炎を防いでいることで、馬鹿にならない魔力が消費されているのだろう。

 また炎が消えないのは、俺が魔力を送り続けているからだ。

 しかし、魔力の消費を考える必要はない。

 むしろ、魔力の回復速度の方が上回っている。
 
 超再生・吸収・魔力回復力上昇(大)のコンボ効果は絶大だ。

 幻影状態でも絶えず溶け続けながら、魔力回復の永久機関が続いている。

 加えて、それだけじゃない。

「いい加減にしやがれ! フィンガーバルカン!」

 ツクロダロボが放つ魔力弾の雨を、俺はバリアで耐えきった。

「はぁ!? それは壊れたはずだろ! なんでだよ!!」

 ツクロダの言う通り、このバリアを発生させる魔道具は俺が破壊している。

 だが、カード化した時には直っていた。

 埋め込まれた魔道具は、体の一部だと判断されたのだろう。

 カード化すれば、倒したモンスターは無傷の状態になる。

 しかしカード化しても、改造失敗による自壊状態までは解除されていない。

 これが通常時だと、カード召喚術が認識したからだろう。

 だが結果として、それが良い方向に働いている。

 コイツには悪いが、持続的な魔力回復は魅力的だ。

 俺は幻影に埋め込まれている魔道具の一つを操作して、衝撃波を放つ。

 その勢いを利用して、ツクロダロボから一度距離を取った。

「ジフレちゃん、そんな切り札があったんだな! ならもっと早く出してくれよ! 流石に死にかけたぞ!」
「悪いけど、さっき偶然できたばかりなんだよね。ここからは邪魔になるから、死なないように離れてて」
「えっ……? けど俺も――わ、わかった。ジフレちゃんに任せる……」
「ありがとう」

 戦いに混ざろうとしたブラッドには悪いが、本当に邪魔になる。

 また感覚としてだが、この幻影化は長くは持たない。

 なので戦闘は、激しくなるだろう。

 ゆえにブラッドがそれに巻き込まれて死亡したら、幻影化を発動した意味がなくなる。

 そんな負け方は御免なので、戦おうとしたブラッドを威圧して黙らせた。

 だが何はともあれ、ここからは反撃の時間だ。

 融合と幻影化の二重発動で強化された今なら、ツクロダロボが相手でも十分勝てるはずである。

 俺は全身に漲る力を感じながら、ツクロダロボと対峙するのであった。

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