上 下
94 / 203
第三章

092 ツクロダとの決戦 ①

しおりを挟む
「ははは! よくぞここまで来たな! ぼくちゃん感動したよ!」

 ボスエリアに入って早々、そんな笑い声が聞こえてくる。

 当然その人物は、ツクロダだ。

 ボスエリアは広く、奥には階段がある。

 そして階段の上で、ツクロダが玉座に座り見下ろしていた。

 またその背後には二本の柱があり、上部には紫の水晶が乗っている。

 他にもツクロダの頭上には、青色のキューブのような物が浮いていた。

 しかしそれ以外、変わったところは見られない。

 俺を転移させた時に魔力を相当消費したはずだが、そうした影響もなさそうだ。

 加えて、敵のような存在もいなかった。

 俺はその直後に鑑定を飛ばすが、それも見事に防がれてしまう。

 無理をすれば通りそうだが、莫大な魔力を消費してしまう予感がした。

 鑑定対策は、バッチリという訳だろう。

「おいおい猫耳ちゃん、そう急かすなって。口上を聞くのはマナーじゃん?」

 鑑定されたのを感じ取ったのか、ツクロダはヤレヤレと言う雰囲気を見せる。

「うるせえ! お前は許されねえことをした! ここで決着をつけさせてもらうからな!!」
「あん? 犬畜生ごときに何ができるっていうんだ? 攻略を見ていたが、お前役立たずだったじゃん。ここまで連れて来るとか、猫耳ちゃん優しすぎっしょ」

 するとツクロダがそう言った時だった。ブラッドが、神授スキルを発動させる。

「喰らえ! 強制決闘!」

 その途端、辺りはまるでブラックライトに照らされたように、青暗くなった。

 これが、強制決闘が発動した状態か。

 俺の予想だとこれでツクロダは逃げられなくなったはずだが、果たしてどうだ?

「ざまあみやがれ! 決闘の賭けに俺は、お前の命を求める! これでお前の死は、確実だ!」

 どうやら強制決闘の効果には、相手の賭けるものも強制できるようだ。

 これはその賭けの範囲次第では、かなりチートになりそうな気がする。

 しかしツクロダに命を賭けさせた訳だが、ブラッドは代わりに何を賭けたんだ?

 俺がそう思った時だった。

「は、ははは! こいつマジで使いやがった! 僕ちゃんがお前の神授スキルを知らないわけがないだろ! お前この王都で何回使ったか思い出してみろ! そして賭けの対象を見て絶望するんだな!!」

 ツクロダが額に手を当て、玉座のひざ掛けを叩きながら爆笑する。

「は? ……か、賭けの対象、俺の命とジフレちゃんの隷属化!? な、何でだ!? 賭けの対象は自動的に、同等なものになるはずじゃ!?」

 ブラッドが、そんな驚きの声を上げた。

 俺の隷属化? いったいどういうことだそれは!?

 それを聞いて、俺も動揺を隠せない。

「お前、自分の神授スキルなのに、そんなことも知らなかったのか? 以前美少女を助けたことがあっただろ? それで、美少女の為にある男をその神授スキルで倒した。
 その時男は、美少女が永遠に自分の物になることを望んだはずだ。つまり、そういうことってわけ」

 どうやらブラッドは、神授スキルの効果を分析されたらしい。

「は? そいつは、自分の死よりもあの子の方が大事だったからだろ? だから、そうなったはずだ!」

 ブラッドはそう言うが、仕込みだったことに気が付いていないようだった。

「お前、やっぱり犬畜生だな。男も美少女も、俺の手駒に決まっているだろ? ようするにお前の神授スキルの賭けの対象は、事前に願っていればそれが通るわけだ。
 僕ちゃんの魔道具じゃ転移者をまだ洗脳できないから、助かったぜ。これで、猫耳ちゃんは僕ちゃんのものってわけだ!!」

 これは、不味いかもしれない。

 ツクロダの言葉は、勝つという前提で成り立っている。

 つまりそれだけ自分の勝利を、やつは疑っていない。

 だがここで、ブラッドが思いがけないことを言う。

「くっ、だが強化自体はされた。俺の強制決闘は、相手が強大であればあるほど、俺を強化する。お前は世界征服を企むマッドサイエンティストだ。その強大さは、嫌でも分かる。ここまで強化されたのは、初めてだぜ」

 どうやらブラッドの神授スキルには、まだ隠された効果があったらしい。

「はぁ? そんなの聞いてないぞ!! ちゃんと調べてから報告しろって言ったのに、あいつらふざけるなよ!」

 すると途端に、ツクロダが慌てだす。

 どういうことだ? いや、状況から察するに、ブラッドの神授スキルを調べたのはツクロダの信者だったのだろう。

 つまりツクロダは信者が調べたことを、あたかも自分が調べたかのように言っていたことになる。

 今思い返せば、スラムの小屋にリビングアーマーを送り込んだり、指名手配したのもメイドたちだった。

 それを考えると、他にもツクロダの腑に落ちなかった点が分かってくる。

 ツクロダがこの国に来たのは、およそ一ヶ月という情報を得ていた。

 だがそれにしては、ツクロダの手が広すぎる。

 短い期間で、出来過ぎているのだ。

 国の掌握や他国の侵略、テロ行為に加えて魔道具・モンスター・ダンジョンまで作っている。

 それなのに貴族の少女たちを集めて、パーティをしていた。

 なのでおそらくツクロダは、要望だけ出して信者にほとんどのことを任せていたのだろう。
 
 言動と有能さの乖離かいりは、ここなのかもしれない。

 たぶん頑張ったのは最初だけで、今は好きな事だけをして暮らしていると思われる。

「ま、まあいい。どうせお前は僕ちゃんには勝てない。猫耳ちゃんだってそうだ。ここまで来るのに消耗しただろう? 
 それにお前たちの戦う様子は、既に観察済みだ。僕ちゃんが100%勝つに決まっているっしょ!」

 俺はツクロダが何か言っているうちに、自動的に収納されていた緑斬リョクザンのウィンドソードを取り出す。

 そしてウィンドカッターを、ツクロダに飛ばした。

 しかし透明な壁のようなものに防がれて、消えてしまう。

「無駄無駄! 僕ちゃんに攻撃が届くはずないじゃん! 猫耳ちゃん流石に話の途中でうざすぎ! 飽きたら改造して別の美少女にするからな! それに我慢できないなら、もう始めてやんよ!」

 そう言って俺たちの目の間に、何かが召喚される。

「何だコイツ!」
「これは……」
「ヴヴぁあああ!!」

 目の前に現れたのは、巨大な四足獣。だが、普通ではない。

 全身が絶え間なく溶けており、床へとドロリとした液体が広がる。

 しかし不思議なことに、一定の範囲以上には広がらない。

 まるで、それが循環しているようにも見える。

 その中で赤く光る目と、先の鋭い四本の尻尾が唯一元々の特徴だと思われた。

 他には何かの魔道具のようなものが、体中に埋め込まれている。

 一番目立つのは、背中にある巨大な大砲のような物だろう。

 明らかに、ツクロダの手が入っている。

 そう思いながら反射的に、俺は鑑定を行う。

 するとこのモンスターに対しては、すんなりと鑑定が通った。


 種族:失敗作EX1
 種族特性
【超再生】【吸収】【魔力回復力上昇(大)】
【魔道具操作】

 エクストラ
【イレギュラーモンスター】
【人工モンスター】


 マジか……。

 どうやら目の前のこれは、イレギュラーモンスターの成れの果てのようだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学
ファンタジー
 馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。  テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。  無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

夜明けには程遠い【完結】

米派
BL
古くから、人と魔族は大陸の支配者になろうと争い続けてきた。勇者の剣に選ばれたことで泥沼化した戦争に巻き込まれ、ただの高校生が役目から逃げられなくなる話。 復讐者×剣に選ばれてしまった高校生がメインです。 途中で、主従の脇CPのお話が入ります。 ※所々、倫理観を捨てている部分がありますので、ご注意ください。立場上、主人公が人を殺す場面があります。 こちらは他サイトにも置いてあります。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...