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第三章

091 ツクロダダンジョン ⑤

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 そうして無事に壁尻とか呼ばれる最悪な罠から、俺は抜け出した。

 ブラッドに思うところはあるが、今は我慢する。

 それよりも、なぜこの罠が発動したかだ。

 まずブラッドは罠感知のスキルを持っていたはずだが、それをすり抜けるほどに隠蔽いんぺいされていたのだろう。

 次にブラッドには発動せず、俺だけが罠により捕らわれている。
 
 考えられるとすれば、違いは性別だろうか。

 今の俺はレフと融合したことにより、なぜか少女になっている。

 そしてこの罠はブラッドの行動からかんがみて、卑猥ひわいな目的で設置されている気がした。

 であるならば、性別差による発動条件をつけられていても不思議ではない。

 ツクロダも、ブラッドの壁尻など見たくはないだろう。

 当然、俺も見たくはない。

 加えてもしかしたらだが、一つ前の階層の罠が絶妙なタイミングで発動したのは、これが関係していそうだ。

 いや、ツクロダがあの罠で、女を狙うとは考えづらいな。

 そういえばあの時は、ブラッドを宙に浮かせていた。

 おそらく反応したのは俺ではなく、ブラッドだったのだろう。

 そう考えると、腑に落ちる。

 だとすればブラッドが罠を発動させた結果、自爆ネズミが死亡したことになるな。

 俺がカード化できたのは、なぜだろうか?

 おそらく罠の発動した者は関係なく、自爆による自害が影響している気がする。

 つまりカード化は、自害した個体も対象になるということだ。

 意外なところで、カード化の更なる条件を知ることができた。

 とりあえず、罠についてはもういいだろう。

 それよりも、さっさと次の階層に行くことにする。

 縮小解除して元の大きさに戻ると、俺は歩き出す。

「ま、まってくれよ!」
「……」
「む、無視か!? いや、あれは助けるためで、下心は……あんまなかった! 本当だ!」
「少し黙ろうか?」
「……はい」

 俺はブラッドにそう言うと、五階層目に下りた。

 ここが五階層目か。一見すると、特に変わったところはなさそうだ。

 相変わらず、灰色の壁と光源となる石が天井に埋め込まれている。

 他に変わったところは、見られない。

 しかし油断はできないので、慎重に進んでいく。

 すると少しして、嫌な予感がした。

 だが通路の先には、何も見えない。

 こういう時は、モンスターに先行させよう。

 俺はそう思い、ホブゴブリンを召喚して歩かせた。

「ピピピッ」
「ん? 何の音だ?」
「電子音?」

 どこからともなく、そんな音が聞こえた直後にそれは起きる。

 壁の一部が開き、銃のようなものが現れた。

 そして当然、思った通りのことが起きる。

 ズガガガガガガッ!

「ごぎゃぁ!?」

 ホブゴブリンは無数の弾丸により、ハチの巣になってやられてしまった。

「おいおいおい、ここはファンタジー世界だぞ!? SFに出てくるラボかよ!?」
「これは、酷いね……」

 銃を破壊すればいいかもしれないが、それによってスタート地点に戻される可能性もある。

 加えてどうやら、あの銃に罠感知は発動しなかったらしい。

 あれは罠ではなく、防衛装置的な感じだろうか?

 それとも、それだけ高度な隠蔽がされているのかもしれない。

 ちなみに銃を鑑定してみると、リビングアーマーが持っていた物よりもランクの高い物のようだった。

 つまり、威力もその分高いことになる。

 俺は何とか耐えられそうな気がしたが、ブラッドは無理だろう。

 途中で力尽きるのは、目に見えていた。

 それに俺も銃撃を受け続ければ、流石に厳しいかもしれない。

 また凍らせたダークネスチェインを近づけてみたが、簡単に貫通されてしまった。

 罠ゾーンのような強引な突破は、できそうにない。

「こりゃ、どうするんだ? たぶん俺にはどうしようもないぞ?」
「うーん。どうしよっか」

 とりあえず、もう一度観察してみることにした。

 今度はスモールマウスを向かわせる。

 だが一定の箇所かしょを通過すると、やはり電子の後に銃が現れた。

 当然、スモールマウスはやられてしまう。

 電子音がしてから、数秒だけ時間があるようだ。

 それと銃は、壁が開くようにして現れる。

 構造からして、後ろへと撃つことはできない。

 なので銃のある壁を過ぎれば、撃たれることはないだろう。

 しかし第二第三の銃が現れると思うので、それも難しい。

 であれば、開くよりも先に駆け抜ければ大丈夫だろうか?

 いや、そんなことは想定されているはずだ。

 走っても間に合わない位置に、銃が設置されている気がする。

 だとすれば、壁が開くのを物理的に防ぐのはどうだ?

 壊すわけではなく、開くのを押さえる感じだ。

 けれども銃が現れる壁の位置は、かなり高い。

 ホブゴブリンでは、届かないだろう。

 なら飛行可能なモンスターならとも思ったが、城への侵入の際に囮として使ってしまった。

 またそうしたモンスターの力では、壁を押さえきれないだろう。

 飛行可能で、壁を押さえられる程のモンスター……いることにはいるんだよな。

 ちょうどこのダンジョンで手に入れた、ロックハンドとロックフットが正にピッタリなのである。

 しかし召喚すれば、流石に怪しまれるだろう。

 俺が倒したモンスターをカード化することが、バレるかもしれない。

 さて、どうするべきか……。

 そう頭を悩ませていると、ブラッドがふとこんなことを言った。

「なあ、あの壁、凍らせられないのか? 凍らせれば、たぶん開かないと思うんだが」
「あっ……」

 なぜそれに気が付かなかったのかと、俺はつい声をもらしてしまう。

 そして実際試してみると、氷に阻まれて壁が開くことはなかった。

 難しく考え過ぎたな。こんな簡単なことが思いつかないとは……。

 このダンジョンで色々考えすぎた結果、思考にかたよりができていたようだ。

 もう少し頭を柔らかくした方が、良いのかもしれない。

 そうして俺は銃が出る壁を凍らせながら、少しずつ前進していくのだった。
 
 ちなみにこの方法は合法と判断されたのか、スタート地点に戻されることは無さそうである。

 また壁だけではなく、床や天井からも銃が飛び出てくる。

 しかしモンスターを囮にすることで、場所の確認は容易だった。

 加えてこの階層には、モンスターがいないようである。

 壁の銃だけで、十分だと思ったのかもしれない。

 実際壁が開くのを阻止できなければ、攻略は難しいだろう。

 そして順調に進み続け、俺たちは一つの扉を発見する。

 ここまで扉などを見たことがなかったので、当然警戒した。

 だが中に気配があるので、開くことを選択する。

 一応ホブゴブリンに開けさせると、中には思いもよらない光景が広がっていた。

「ア”ア”ア”」
「うぅうう」
「ぐヴぁ……」

 これは、酷すぎる……。

 部屋の中には、様々なモンスターと融合させられた少女たちがいた。

 しかも体が部分的に溶けており、筋肉や骨があらわになっている。
 
 人工モンスターの失敗作、やっぱり思った通りだったか。

 鑑定してみると少女たちには、人工モンスターのエクストラがあった。

 人工モンスターは、改造に失敗すると自壊するという効果内容がある。

 つまりツクロダは改造に失敗した少女たちを、ここに押し込めているようだった。

 見れば、獣と融合させられた少女が多い。

 ツクロダが俺に執着した理由の一つは、ここにありそうだな。

 人工的に、獣人を作ろうとしたのだろう。

「こ、こんなのは、許せねえ。人間のすることじゃねえよ!」
「そうだね。私もこれはあんまりだと思うよ」

 ブラッドも、これには怒りを抑えられないようだった。

 そして俺たちにできることは、少女たちを楽にさせるくらいである。

 なるべく痛みのない方法で楽にさせ、遺体は生活魔法火種で骨も残さず焼きつくした。

 小部屋で煙などが充満するかと思ったが、不思議なことに煙はどこかへ消えていく。

 どうやらこのダンジョンは、換気能力が優れているらしい。

 見れば壁の一部がいつの間にか、換気扇になっている。

 こちらに危険が無かったからか、直感も働かなかった。

 まあ、そんなことはどうでもいいか。

 それと、彼女たちのカード化はしない。

 ツクロダに復讐をさせる機会を作るよりも、早く楽にさせた方がいいと思った。

 そもそも人工モンスターは、個を失う。

 つまり彼女たちに、復讐をどうこう思うような気持ちは既に存在しないのだ。

 加えてカード化すれば、終わらない地獄が始まる。

 彼女たちは自壊しており、いずれ死亡していただろう。

 だがそれでカード化してしまうと、例え自壊で死亡してもカード化直後に戻ってしまうのだ。

 なので俺は、カード化をしなかった。

 例えカードを後から処分できるとしても、その考えは変わらない。

「なあ、何でツクロダは、あの子たちを楽にさせなかったんだろうな」
「たぶん、観察するためだったり、何かに使えると思ったんじゃないのかな」
「そうか。とんだマッド野郎だな」
「そうだね」

 胸糞悪い気持ちをいだきながら、俺たちは部屋を出る。

 その後は似たような部屋や卑猥ひわいな罠類などは無く、通路を進んでいく。

 もはや銃の防衛装置など、意味はない。
 
 するとしばらくして最奥に辿り着いたのか、大きな扉が現れる。

「やっと着いたみたいだね」
「ここが、そうなのか」
 
 俺たちはついに、目的の場所に辿り着いた。
 
 目の前には、ボスエリアへと続く扉がある。

 つまりこの先に、ツクロダがいる可能性が高かった。

 ようやくだ。この戦いに、決着を付けよう。

「ツクロダを見つけ次第、頼んだよ」
「ああ、分かっている。俺も逃がす気はねえ」

 そうして俺とブラッドは、ボスエリアへの扉を開くのだった。

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