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第三章

087 ツクロダダンジョン ①

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 このダンジョンの造りは、コンクリートのような灰色の壁をしている。

 天井には光る石が埋め込まれており、意外と明るかった。

 最初にいた場所は小部屋になっており、出ると迷路のように入り組んだ通路が続いている。

 俺とブラッドは、その通路を進んでいた。

 ちなみに隊列は先頭に召喚したゴブリン、俺、ブラッドである。

 今のところ特に変化はないが、ブラッドの視線が何だか嫌な感じがした。

 なので途中から、俺とブラッドは場所を入れ替えている。

 最初は一番後ろが危険だと言っていたが、尻ばかり見るお前が一番危険だと言ったら黙った。

 そうしてゴブリンを先頭にして進んでいると、何か嫌な予感がする。

「止まって、何かあるかもしれない」
「ん? あっ、ここに罠があるぜ」

 すると俺の言葉に反応したブラッドが、罠のスイッチらしきものを見つけた。

 よく見れば床に四角く切れ込みが入っており、踏めば作動するようである。

 ブラッドは義賊として活動をしているので、罠の感知や解除ができるみたいだ。

 金持ちの家には、罠などがあるからかもしれない。

 しかし今回は、どのような罠なのか確かめるためにわざとゴブリンに踏ませることにした。

 もちろん俺とブラッドは、距離をとる。

「なあ、そんなことしてゴブリンは大丈夫なのか?」
「問題ないよ。私の召喚術は少し特殊で、瀕死になると自動的に送還されるから」
「なるほど」

 そう言った後ゴブリンに罠を踏ませると、何の変哲もない壁の一部がスライドして、そこから矢が放たれた。

「ごぎゃ!?」

 ゴブリンはそれを避けることができず、矢によって倒れる。

 シンプルだが、気づかなければかなり危ない罠だな。

 俺には一応直感のエクストラがあるし、それでブラッドよりも早く気づくことができたのだろう。

 少し忘れがちになるが、俺はキャラクターメイキングの時に、直感のスキルを取得している。

 直感は様々な場面で役に立つ、かなり使えるエクストラスキルだ。

 それと何気に、宝箱以外で罠を見るのは初めてだな。

 ここは、ツクロダの人工ダンジョンだからだろうか?

 何はともあれ、先に罠の存在に気づけたのは僥倖ぎょうこうだ。

 これまでのダンジョンの経験から、完全に罠について失念していた。

 俺は新たなゴブリンを召喚して歩かせながら、そんなことを思う。

「次からは俺に任せてくれ! 大抵の罠なら解除して見せるからな!」
「うん。お願いするよ」

 現状俺がする罠への対応方法は、モンスターを犠牲にしたものになる。

 毎回それでは消耗が激しくなるので、ブラッドの言った通り少しは役に立ってもらおう。

 今のところ、あまりブラッドは役に立っていない気がするしな。

 なので罠の解除は、任せることにした。

 それから俺たちが通路を進んでいると、ようやく目の前に敵が現れる。

 あれは、スケルトンか?

 現れたのは、歩く骸骨がいこつだった。

 装備品らしきものは、一切身につけてはいない。


 種族:スケルトン
 種族特性
【生命探知】


 鑑定してみれば、明らかに弱かった。

 ゴブリン以下の強さだ。

 動きも遅く、正に動いているだけの骸骨である。

 だが種族特性に載っていないだけで、痛覚や恐怖心はないだろうし、大抵の状態異常も効かない気がする。

 モンスターには、こうした種族本来の能力もあるのだ。

 例えるなら人間、人族は長距離移動に適した生き物だが、それが種族特性に出ていないようなものである。

 いわゆる種族特性の裏、隠し種族特性といえるかもしれない。

 そんなこと思っている内に、ブラッドがスケルトンを倒した。

「ふん、この程度楽勝だぜ」
「ごぶぶ!」

 ブラッドは得意そうに声を上げると、それにつられたのかゴブリンも鳴く。

 俺はそれをスルーしながら、倒されたスケルトンをカード化しようと試みる。

 だがやはりブラッドが倒したため、カード化することはできなかった。

 これがあるから、他人と行動するのが面倒なんだよな。

 まあこの機会だし、他人と協力した際のカード化の判定を調べよう。

 スケルトンじゃ判断が難しいが、奥に進めばそれなりのモンスターが出ると思われる。

 ちなみにスケルトンは、俺がストレージに収納することになった。

 ブラッドも収納系スキルを持っているようだが、容量が小さいらしい。

 おそらく、アイテムポケットのエクストラを所持しているのだろう。

 なおアイテムポケットはアイテムボックスの下位互換であり、アイテムボックスはストレージの下位互換だ。

 そうして探索も進むが、この階層にはスケルトンしかいないようである。

 ただその理由は、何となく理解した。

 スケルトンも、ダンジョンの罠を発動させてしてしまうのである。

 しかしスケルトンは見た目通り罠の矢を回避しやすいし、毒ガス類なども効かない。

 今のところ、この二種類がこの階層の罠のようである。

 これがもしゴブリンであれば、ダンジョンの罠で数を大きく減らしていたことだろう。

 また俺もスケルトンを倒し、数体カード化している。

 もちろんカード化には工夫を凝らし、ストレージに収納するように見せかけたカード化にも成功した。

 ブラッドも気が付いていないようだし、問題はないだろう。

 ただここで手に入れたモンスターを召喚すれば、流石に怪しまれるかもしれない。

 倒したモンスターをカード化できることは、知られるわけにはいかなかった。

 知られてしまえば、おそらく面倒なことになるだろう。

 同じ理由から、リビングアーマーもあまり出すのは難しいと思われる。

 おそらくこの攻略風景をツクロダは見ることができるだろうし、こうした事は意識しておいた方がいい。

 予想では魔力切れで気絶しているだろうが、これはあくまで予想である。

 気絶せずに、今も俺たちを何らかの魔道具で見ているかもしれない。

 警戒は続けるべきだろう。

 また以上の理由から、攻略方法も考える必要がある。

 壁や床を破壊してショートカットをしたり、モンスターを大量に召喚して強引に攻略することはしない方がいいだろう。

 それによって、ツクロダがどのような行動に出るか判断がつかない。

 製作者側とすれば、正攻法で攻略してほしいと思うはずだ。

 邪道な攻略をすれば、やっかいな事になる気がする。

 なのでここはおとなしく、正攻法で最奥を目指すべきだろう。

 またモンスターに道案内させるのも、危ないかもしれない。

 明らかに正解のルートを当て続ければ、流石にツクロダも気がつくと思われる。

 加えてここは人工ダンジョンだし、本来のダンジョンとは違い、モンスターが構造を把握していない可能性もあった。

 なるべく急ぎたいところだが、そう簡単にはいかないようである。

 だからブラッド、いきなり壁を破壊しようとするんじゃない!

 俺がそんな事を考えていると、ブラッドが安易な手段に出ていた。

 壁を殴りつけ、破壊していく。

「待って、壊さないで!」
「え? こうした方が近道じゃ――」

 すると案の定、突然足元に魔法陣が現れる。

 回避しようとしても、魔法陣がピッタリついてきた。

 そして俺とブラッドは気が付けば、最初の小部屋に転移させられてしまう。

「嘘でしょ……」
「うおっ!? まじか!?」

 ブラッド、罠の時は少しは役に立つと思ったのに、これは組まない方がよかったかもしれない……。

 せめてツクロダとの決戦の時は、本当に頼むぞ……。
 
「ズルはダメみたいだね……」
「す、すまねえ!」
「次からは、何か気が付いたら先に相談してよ……」
「あ、ああ。次からはそうする!」

 俺はため息を吐くと、また最初からダンジョンの攻略を始めるのだった。

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