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第三章

086 ツクロダの登場

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 ツクロダは来ると言っていたが、中々来ない。

 てっきり突然転移してきてもおかしくないと思っていたのだが、違ったのだろうか?

 それとも、他の仲間を集めている可能性もある。

 加えてあれから、目の前の少女とツクロダは連絡を取っていない。

 また少女たちは、気絶させないでこのままにしている。

 盗み聞きをするためと、ツクロダを警戒させないためだ。

 しかし連絡はしていないし、今更ツクロダがやってこないとは思えない。

 話を聞く限り、ツクロダはかなり俺への執着を見せていた。

 であれば、この少女たちをこのまま気絶させても問題はないだろう。

 最善を考えるならば殺した方がいいのかもしれないが、その場合ブラッドが騒ぐので止めておく。

 そういう訳で、俺はダークネスチェインを操って少女たちを気絶させた。

「お、おい、殺したのか!?」
「いや、ただ気絶させただけだよ」
「そ、そうか。流石に美少女を殺すのは反対だったから、よかったぜ」

 うーん。兵士たちを殺した時は何も言わなかったのだが、ブラッドにとってやはり美少女は別だったようだ。

 俺も人族で異性に興味があったのなら、同じように思ったのだろうか?

 この感覚のずれは、誰かと組む際は気を付けた方がいいかもしれないな。

 些細ささいなことで、言い合いに発展するかもしれない。

 そんなことを思いながら、俺はツクロダを待つ。

 ブラッドにはその間に、少女たちを縄で縛るように言っておいた。

 ツクロダが来ることを話した場合、心が読める事も知られてしまう。

 これはツクロダにも現状数少ない有効な事なので、ブラッドにも内緒にしておく。

 何が切っ掛けで、知られるとも限らない。

「へへ、これは縛るためだから、仕方ないよな?」
「ねえ、状況分かってる? 変な事してる場合じゃないでしょ?」
「っ!? あ、ああ。分かってるって」

 ブラッドはこんな時にもかかわらず、少女たちを縄で縛る際にイタズラをしていた。

 これには、正直呆れる。

 ツクロダとの戦いに必要だから共にいるが、全て終わったらあまり関わりたくはない人物だ。

 そうして美少女たちを縛り終えて数分後、変化が訪れる。

 突如として、目の前に黒目黒髪をした少年が現れた。

 髪型はキノコのようであり、細い目と丸眼鏡。また特徴的な出っ歯をしており、ひ弱そうな細身をしている。

 その特徴から、ツクロダだと判断した。

 俺はその瞬間、両腕を獣に変えて襲い掛かる。

『おおっ、本当に猫耳美少女じゃ――うわっぁあ!?』
「な!?」

 しかし俺の攻撃は空を切り、全く当たる気配が無かった。

『い、いきなり何をするんだ! ホログラムじゃなきゃ死んでたぞ!! お、お前、僕ちゃんの物にしたら覚悟しておけよ!!』

 どうやら目の前のこれは、ホログラムらしい。

 つまり、ツクロダはここに来ていないことになる。

「いきなりなんだ!? お前、一体何者だ!」

 ツクロダがやって来ることを知らなかったブラッドが、そう誰何すいかした。
 
『はぁ? 犬畜生が頭が高いんだが? 僕ちゃんはこの国、いや大陸の神、ツクロダ様だぞ? お前はいらないし、殺したら剥製にするからな』
「何だと! てめぇ、出てきやがれ! 怖くて出てこれないのか!!」

 ブラッドはツクロダの言葉に激高して、ホログラムに殴りかかる。

 だが当然、その攻撃は意味がない。

『うひゃひゃ! こいつ間抜け過ぎるだろ! ホログラムだって言ったばかりなのに攻撃してるとか!』

 対してツクロダは、ブラッドを指さして笑い声を上げる。

 俺はその隙に、鑑定や以心伝心+を発動させた。

 しかしホログラムだからか、全く通じる気配が無い。

 これは困ったな。コイツの狙いはなんだ? いったい本人はどこにいる?

 少女たちを気絶させたのは、間違いだったかもしれない。

 しかし今から起こすのは不自然だし、この状況でどうにかする必要がある。

「笑っているところ悪いけど、いったい何の用かな? もしかして、もう逃げちゃった?」
『ん? ああ、そうだった。こんな犬畜生に構っている場合じゃなかったな。どうやら猫耳ちゃんも、転移者なんだろう? 僕ちゃんには分かるぜ』

 分かるも何も、おそらく少女たちから伝えられていたに過ぎないだろ。

「そうだけど、それで?」
『ああ、転移者だとほら、神授スキルを持っているだろ? 僕ちゃんも流石に警戒せざるを得ない訳じゃん? 
 だからさ、今僕ちゃんに絶対服従を誓うなら、お嫁さんの一人として一生かわいがってやるけど、従う気ある? ちなみに断ったら、奴隷だから』
 
 それを言うために現れたのか? 従う訳ないだろ。

「当然断るよ」
『あっそう、じゃあ奴隷決定な』

 断ることは織り込み済みだったのか、ツクロダがそう答えた瞬間、俺の足元に穴が現れる。

 ブラッドも同様のようで、現れた穴へと落下していった。

 対して俺は何かしてくるとは思っていたので、壁の燭台にダークネスチェインを引っかけて落下することを防いだ。

 そしてダークネスチェインに引っ張らせて、俺は穴から脱出する。

『はぁ!? そこは普通落ちるだろ!? 空気読めよ!!』
「残念だったね?」
『くそが!』

 思い通りにならなかった事に腹を立てたのか、ツクロダが地団駄を踏む。

「それでどうするの?」
『ちっ、早く落ちろよ! あの犬畜生がどうなってもいいのか?』
「別にいいけど?」
『はぁ!?』

 ブラッドがどうなろうと、正直どうでもいい。

 ただツクロダがブラッドを殺して、ポイントの事に気が付くのは少しやっかいだった。

「ウルフは今回限りの共闘だし、自分の命をかけるほどじゃないかな」
『何て薄情な奴だ! けど落ちなければ、僕ちゃんの元には辿りつけないぞ!』
「ん? それってどういう意味?」
『簡単な事だ。その穴の先は僕ちゃんが造った人工ダンジョンになっているんだ! 僕ちゃんはその最奥にいる!』

 なるほど、そういうことか。しかし、それが事実かどうかは分からない。

「それを信じる理由がないかな。明らかに罠っぽいし」
『なっ!? 嘘じゃない! それにダンジョンには、僕ちゃんの作った魔道具もあるぞ! 中には金貨百枚を余裕で超える物もある! どうだ! 欲しいだろ?』
「別にいらないけど……」

 どうせ、ツクロダが死んだら壊れるか爆発する魔道具だろ? それなら持っていても意味がない。
 
『はぁ!? お前いい加減にしろよ! 空気読めよ!』
「貴方こそいい加減にしてくれない? 出てこないなら、この城を破壊しつくすけど?」
『おまっ、悪魔か!! 城には貴族の令嬢やメイドたちもいるんだぞ!!』
「うーん。結局この国は悲惨なことになるし、犠牲と割り切るしかないかな?」

 ツクロダを失えば、この国もお終いだろう。

 洗脳されていたという言い訳は、通用しない。

 オブール王国とドラゴルーラ王国に、おそらく滅ぼされるだろう。

 だとすれば、この国の貴族や王族には破滅しかない。

 兵士やメイドもいるが、仕方がないだろう。

『く、くそがぁあ! いい加減にしやがれ!』
「え!?」

 するとツクロダがとうとうキレたのか、俺は直接転移させられてしまった。

「お? ジフレちゃんも来たのか。もしかして一人になるかもって、少し心配になっていたところだ」

 そんな悠長なことを、ブラッドが言ってくる。

 周囲は、石壁に囲まれた部屋のようだった。

 おそらく、ここがツクロダの造ったダンジョンなのだろう。

 それにしても直接転移をさせられるなら、最初からすればよかったのに、なぜ行わなかったのだろうか?

 いや、たぶんかなり無理をしたに違いない。

 一瞬だったから抵抗しきれなかったが、かなりあらがった感じはした。

 おそらくツクロダは、かなり消耗しているだろう。

 もしかしたら、気絶しているかもしれない。

 抵抗した俺を転移させるには、かなりの魔力を消耗したはずだ。

 ツクロダは人族だろうし、魔道具で魔力を底上げしていても限度がある。

 つまり今は、かなりのチャンスという訳だ。

 このダンジョンがどこまで続いているかは分からないが、短時間で攻略すればかなり有利な状態で戦える。

 まあ前提として、ツクロダの言った通り最奥に居ればの話だが。

 しかし脱出するという事も考えれば、進むしかない。

「ここはツクロダの造ったダンジョンで、最奥にいるらしいから今から攻略するよ」
「お、おう。分かったぜ!」

 そうして俺とブラッドは、ツクロダの造ったダンジョン、ツクロダダンジョンに挑むのであった。

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