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第三章

081 王都へ

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 演習場に下りるために近付くと、十メートルほど離れた場所に下りるように指示をされる。

 特に逆らう必要はないので、俺は指定された場所に下りた。

「なに!? 獣人だと!?」

 すると男から、そんな驚きの声が出てくる。

 現在はレフと融合した猫耳メイド状態なので、獣人に見えても仕方がない。

 というよりも、獣人という言葉を初めて聞いた。

 もしかして、獣人を見たことがあるのだろうか?

 そんな風に思っていると、男は落ち着きを取り戻してこちらに声をかけてくる。

「おかしなことをすれば容赦しないからな。まずは所属と名前を言え」
「所属は、一応ハパンナ子爵の客人かな? 名前はジフレだよ」

 現状だと、所属はそうなるだろう。

「ハパンナ子爵だと? ハパンナ子爵にグリフォンを使役する獣人がいるなど、聞いたことがないぞ!」

 まあ、そうだよな。

 レフと融合したのとグリフォンを召喚したのは、襲撃の時が初めてだからな。

「ハパンナ子爵家のメダルを持っているよ。でも、これじゃあ信じてくれないよね?」

 俺はそう言ってストレージから出したメダルを見せるが、男は怪しむばかりだ。

「当然だ。それを盗んだとも限らないからな。そもそも、このような時にこの大陸にほとんどいないはずの獣人が現れるなど、怪しさしかない」

 これには困った。たぶん先に俺の姿を見ていたなら、有無を言わさず攻撃してきたかもしれない。

 グリフォンは高ランクモンスターだし、使役している者のことはだいたい知っていたのだろう。

 だからこそ、最初は攻撃をせずに念話を飛ばしてきたのだと思われる。

 一応説明だけして、さいあくの場合は離脱するしかないか。

「まあそうだろうね。けど、ここに来たのは重要な情報を持ってきたからなんだ。これを聞いてくれれば、私はすぐに去るよ」
「ほう? 重要な情報か? 言ってみろ」

 どうやら、最低限聞くことくらいはしてくれるようだ。

「まずこの襲撃は、ラブライア王国にいるアソブ・ツクロダという男が主導で行っているんだよね。リビングアーマーが持っていた武器と輪は、その男が作った物なんだ。
 加えてこの襲撃は、オブール杯の二次予選が行われた全ての街で起きたんだよ」
「なんだと!? やはり、そうなのか!」

 ある程度事前に情報を得ていたのかもしれないが、俺からもたらされたことで確信を得たようだ。

「そうだよ。どこも優秀なテイマーやサモナー、その使役しているモンスターはやられていたね。一般人の多くは無事だけど、建物も含めて被害はそれなりだったよ」
「くっ、それが本当だとすれば……いや待て、貴様、なぜそこまで詳しい?」

 まあ、当然それが気になるよな。

「それは、既にこの国の街を全て解放したからだよ? 襲撃者とリビングアーマーを全て倒したから、安心してね」
「ばっ、馬鹿な。ふざけているのか? そんなこと有り得るはずが……」

 男がそう口にした瞬間、ストレージから大量のリビングアーマーの残骸を取り出す。

「これは街で倒してきたリビングアーマーの一部だよ。別に私の事を信じなくても構わない。元々ここに来たのは、もし王都が占領されていたら解放しようと思っただけだからね」

 そう言って男が残骸を見て呆けているうちに、俺はグリフォンに乗る。

「ま、待て!」
「詳しいことはハパンナ子爵に訊いてほしいな。私はこれでも忙しくてね。その残骸は他の人に説明するためか、他の何かに活用していいよ」

 俺は言いたいことだけを口にすると、その場から飛び立つ。

 男が念話で戻ってくるように何度か言ってきたが、構わず無視をした。

 幸い攻撃してくることもなく、俺は無事に王都を後にする。

 ここで去るのが、おそらくベストだろう。

 あの男は地位が高いと思われるし、情報の共有は問題なく行われるはずだ。

 それと演習場にいたのは、たぶん俺を上空からそこに呼び出すためだったと思われる。

 グリフォンは目立つので、誰かがあの男に知らせたのだろう。

 まあ今更そんなことは、どうでもいいことだが。

 とりあえずハパンナ子爵にはまた迷惑をかけるが、俺が話すよりは信用されるはずだ。

 さて、何はともあれ、これでオブール王国内の問題は解決した。

 今度こそ、ツクロダを倒すためにラブライア王国を目指そう。

 時間は消費してしまったが、戦力を補充したと考えれば問題ない。

 そもそも、直接ツクロダがいるところに乗り込んで、戦う訳でもなかった。

 魔道具を作れる者の本拠地だ。下手に挑めば、返り討ちに遭うかもしれない。

 なのでまずはラブライア王国の王都で情報収集をしつつ、チャンスをうかがう必要があった。

 幸い襲撃犯のミシェルなどから、ツクロダが王都にいる情報は得ている。

 時間こそ多くはないが、慎重に事を運ぼうと思う。

 急いては事を仕損じるというし、失敗は許されない。

 それに、今はドラゴルーラ王国に集中しているはずだ。

 すぐにどうにかなるとは思えない。

 先ほどの男が強いモンスターを連れていたように、ドラゴルーラ王国にもいるはずだ。

 そう考えると、短くても数週間くらいは余裕があるかもしれない。

 今からでも、十分に間に合うはずだ。

 俺はそう考えながら、ラブライア王国の首都を目指して進んでいく。

 国境付近では距離を取り、人目のない場所から入国をする。

 道中のモンスターは、極力無視をした。

 そもそも、グリフォンの飛んでいる高度にモンスターは現れない。

 またグリフォンの高速飛行のスキルにより、あっという間に景色が流れていく。

 いちいちモンスターを倒すために、止まっている余裕はない。

 このスキルは、発動する時が一番魔力を消費するのだ。

 そこからは、少しずつ魔力が減っていく。

 幸い俺が魔力を供給しており、高速飛行を解かずに発動を続けられる。

 これなら、ラブライア王国の王都に着くのもすぐだろう。

 またカード化したモンスターは、カードに戻せば疲労くらいならすぐに回復する。

 睡眠時間と食事の時にカードに戻していれば、問題はない。

 そうして数日ほどで、目的地の近くまでやってくる。

 オブール王国とラブライア王国の首都はかなり離れているので、それを考えると驚異的な速さで辿り着いた。

 だが流石にグリフォンのまま王都に近づく訳にはいかないので、人気ひとけがない場所に下りると、ここからは一人徒歩で行く。

 加えてこの姿は目立つので、服装などを変えることにした。

 元々このメイド服はシャドーアーマーで作られているので、意識すれば服装は自由に変えられる。

 ただ男物にしようとすると、なぜかレフが全力で抗った。

 なので仕方がなく、長いスカートの街娘を意識した服装になる。

 ただどうやっても猫耳と尻尾は消せなかったので、隠す事にした。

 尻尾は長いスカートの中に隠し、頭には白い布を巻くことで耳を隠す。

 これで何とか、誤魔化すことができるだろう。

 そうしてグリフォンをカードに戻してから街道に出て歩き、王都の門に近づいていく。

 門の前には多くの人が並んでいるが、表情にあせりなどは見られなかった。

 ドラゴルーラ王国とは戦時中のはずだが、察するに戦況が良いのかもしれない。

 オブール王国で噂を聞くくらいなので、この国の人たちが知らないはずはないだろう。

 それによく見れば、どこか高揚しているようにも思える。

 これは思っていたよりも、ゆっくりしている時間は無いかもしれない。

 また戦時中という事には変わりないので、王都に入る審査は厳しそうだ。

 それなりの身分証が無ければ、例え自国の流民でも王都には入れてもらえず、追い払われてしまう。

 城壁の近くにはスラム街があるので、王都に入れない者はそちらへ向かうようだった。 

 当然俺のような怪しい人物は、普通は入れてもらえないだろう。

 しかしこういう時に役立つ物を、俺は持っていた。

「問題ありません。どうぞお通りください」

 案の定、俺は難なく王都へと入れてしまう。

 やはり、万能身分証はチートアイテムだった。

 こうした場面では、無類の強さを誇る。

 怪しむ者は皆無なので、潜入にも打って付けだ。

 さて、無事に王都にも入れたし、まずは拠点となる宿屋を見つけることから始めよう。

 そうして俺はラブライア王国の王都、ラブアの中を歩くのだった。
 
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