83 / 240
第三章
081 王都へ
しおりを挟む演習場に下りるために近付くと、十メートルほど離れた場所に下りるように指示をされる。
特に逆らう必要はないので、俺は指定された場所に下りた。
「なに!? 獣人だと!?」
すると男から、そんな驚きの声が出てくる。
現在はレフと融合した猫耳メイド状態なので、獣人に見えても仕方がない。
というよりも、獣人という言葉を初めて聞いた。
もしかして、獣人を見たことがあるのだろうか?
そんな風に思っていると、男は落ち着きを取り戻してこちらに声をかけてくる。
「おかしなことをすれば容赦しないからな。まずは所属と名前を言え」
「所属は、一応ハパンナ子爵の客人かな? 名前はジフレだよ」
現状だと、所属はそうなるだろう。
「ハパンナ子爵だと? ハパンナ子爵にグリフォンを使役する獣人がいるなど、聞いたことがないぞ!」
まあ、そうだよな。
レフと融合したのとグリフォンを召喚したのは、襲撃の時が初めてだからな。
「ハパンナ子爵家のメダルを持っているよ。でも、これじゃあ信じてくれないよね?」
俺はそう言ってストレージから出したメダルを見せるが、男は怪しむばかりだ。
「当然だ。それを盗んだとも限らないからな。そもそも、このような時にこの大陸にほとんどいないはずの獣人が現れるなど、怪しさしかない」
これには困った。たぶん先に俺の姿を見ていたなら、有無を言わさず攻撃してきたかもしれない。
グリフォンは高ランクモンスターだし、使役している者のことはだいたい知っていたのだろう。
だからこそ、最初は攻撃をせずに念話を飛ばしてきたのだと思われる。
一応説明だけして、さいあくの場合は離脱するしかないか。
「まあそうだろうね。けど、ここに来たのは重要な情報を持ってきたからなんだ。これを聞いてくれれば、私はすぐに去るよ」
「ほう? 重要な情報か? 言ってみろ」
どうやら、最低限聞くことくらいはしてくれるようだ。
「まずこの襲撃は、ラブライア王国にいるアソブ・ツクロダという男が主導で行っているんだよね。リビングアーマーが持っていた武器と輪は、その男が作った物なんだ。
加えてこの襲撃は、オブール杯の二次予選が行われた全ての街で起きたんだよ」
「なんだと!? やはり、そうなのか!」
ある程度事前に情報を得ていたのかもしれないが、俺からもたらされたことで確信を得たようだ。
「そうだよ。どこも優秀なテイマーやサモナー、その使役しているモンスターはやられていたね。一般人の多くは無事だけど、建物も含めて被害はそれなりだったよ」
「くっ、それが本当だとすれば……いや待て、貴様、なぜそこまで詳しい?」
まあ、当然それが気になるよな。
「それは、既にこの国の街を全て解放したからだよ? 襲撃者とリビングアーマーを全て倒したから、安心してね」
「ばっ、馬鹿な。ふざけているのか? そんなこと有り得るはずが……」
男がそう口にした瞬間、ストレージから大量のリビングアーマーの残骸を取り出す。
「これは街で倒してきたリビングアーマーの一部だよ。別に私の事を信じなくても構わない。元々ここに来たのは、もし王都が占領されていたら解放しようと思っただけだからね」
そう言って男が残骸を見て呆けているうちに、俺はグリフォンに乗る。
「ま、待て!」
「詳しいことはハパンナ子爵に訊いてほしいな。私はこれでも忙しくてね。その残骸は他の人に説明するためか、他の何かに活用していいよ」
俺は言いたいことだけを口にすると、その場から飛び立つ。
男が念話で戻ってくるように何度か言ってきたが、構わず無視をした。
幸い攻撃してくることもなく、俺は無事に王都を後にする。
ここで去るのが、おそらくベストだろう。
あの男は地位が高いと思われるし、情報の共有は問題なく行われるはずだ。
それと演習場にいたのは、たぶん俺を上空からそこに呼び出すためだったと思われる。
グリフォンは目立つので、誰かがあの男に知らせたのだろう。
まあ今更そんなことは、どうでもいいことだが。
とりあえずハパンナ子爵にはまた迷惑をかけるが、俺が話すよりは信用されるはずだ。
さて、何はともあれ、これでオブール王国内の問題は解決した。
今度こそ、ツクロダを倒すためにラブライア王国を目指そう。
時間は消費してしまったが、戦力を補充したと考えれば問題ない。
そもそも、直接ツクロダがいるところに乗り込んで、戦う訳でもなかった。
魔道具を作れる者の本拠地だ。下手に挑めば、返り討ちに遭うかもしれない。
なのでまずはラブライア王国の王都で情報収集をしつつ、チャンスを伺う必要があった。
幸い襲撃犯のミシェルなどから、ツクロダが王都にいる情報は得ている。
時間こそ多くはないが、慎重に事を運ぼうと思う。
急いては事を仕損じるというし、失敗は許されない。
それに、今はドラゴルーラ王国に集中しているはずだ。
すぐにどうにかなるとは思えない。
先ほどの男が強いモンスターを連れていたように、ドラゴルーラ王国にもいるはずだ。
そう考えると、短くても数週間くらいは余裕があるかもしれない。
今からでも、十分に間に合うはずだ。
俺はそう考えながら、ラブライア王国の首都を目指して進んでいく。
国境付近では距離を取り、人目のない場所から入国をする。
道中のモンスターは、極力無視をした。
そもそも、グリフォンの飛んでいる高度にモンスターは現れない。
またグリフォンの高速飛行のスキルにより、あっという間に景色が流れていく。
いちいちモンスターを倒すために、止まっている余裕はない。
このスキルは、発動する時が一番魔力を消費するのだ。
そこからは、少しずつ魔力が減っていく。
幸い俺が魔力を供給しており、高速飛行を解かずに発動を続けられる。
これなら、ラブライア王国の王都に着くのもすぐだろう。
またカード化したモンスターは、カードに戻せば疲労くらいならすぐに回復する。
睡眠時間と食事の時にカードに戻していれば、問題はない。
そうして数日ほどで、目的地の近くまでやってくる。
オブール王国とラブライア王国の首都はかなり離れているので、それを考えると驚異的な速さで辿り着いた。
だが流石にグリフォンのまま王都に近づく訳にはいかないので、人気がない場所に下りると、ここからは一人徒歩で行く。
加えてこの姿は目立つので、服装などを変えることにした。
元々このメイド服はシャドーアーマーで作られているので、意識すれば服装は自由に変えられる。
ただ男物にしようとすると、なぜかレフが全力で抗った。
なので仕方がなく、長いスカートの街娘を意識した服装になる。
ただどうやっても猫耳と尻尾は消せなかったので、隠す事にした。
尻尾は長いスカートの中に隠し、頭には白い布を巻くことで耳を隠す。
これで何とか、誤魔化すことができるだろう。
そうしてグリフォンをカードに戻してから街道に出て歩き、王都の門に近づいていく。
門の前には多くの人が並んでいるが、表情に焦りなどは見られなかった。
ドラゴルーラ王国とは戦時中のはずだが、察するに戦況が良いのかもしれない。
オブール王国で噂を聞くくらいなので、この国の人たちが知らないはずはないだろう。
それによく見れば、どこか高揚しているようにも思える。
これは思っていたよりも、ゆっくりしている時間は無いかもしれない。
また戦時中という事には変わりないので、王都に入る審査は厳しそうだ。
それなりの身分証が無ければ、例え自国の流民でも王都には入れてもらえず、追い払われてしまう。
城壁の近くにはスラム街があるので、王都に入れない者はそちらへ向かうようだった。
当然俺のような怪しい人物は、普通は入れてもらえないだろう。
しかしこういう時に役立つ物を、俺は持っていた。
「問題ありません。どうぞお通りください」
案の定、俺は難なく王都へと入れてしまう。
やはり、万能身分証はチートアイテムだった。
こうした場面では、無類の強さを誇る。
怪しむ者は皆無なので、潜入にも打って付けだ。
さて、無事に王都にも入れたし、まずは拠点となる宿屋を見つけることから始めよう。
そうして俺はラブライア王国の王都、ラブアの中を歩くのだった。
126
お気に入りに追加
1,575
あなたにおすすめの小説
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~
ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎
2024年8月6日より配信開始
コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。
⭐︎書籍化決定⭐︎
第1巻:2023年12月〜
第2巻:2024年5月〜
番外編を新たに投稿しております。
そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。
書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。
改稿を入れて読みやすくなっております。
可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。
書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪
==================
1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。
いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。
山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。
初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。
気長なお付き合いを願います。
よろしくお願いします。
※念の為R15をつけました
※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。
作品としての変更はございませんが、修正がございます。
ご了承ください。
※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。
依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。
厄介者王子と落ちこぼれ魔法使い
ブッカー
ファンタジー
王子なのに城では厄介者扱いをされているローグ、ある日何者かに突然猫になってしまう魔法をかけられ殺されそうになる。何とか逃げたものの、瀕死の大けがを負ってしまった。そんな時に出会ったのは、落ちこぼれと評判の魔法使いのミルだった。ミルはなんとかローグを救うがその方法は、ローグを使役獣にすることだった。ひょんなことから使役獣になってしまったローグは果たして元に戻ることが出来るのか。
「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿してます。
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
スキル【海】ってなんですか?
陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜
※書籍化準備中。
※情報の海が解禁してからがある意味本番です。
我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。
だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。
期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。
家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。
……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。
それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。
スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!
だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。
生命の海は思った通りの効果だったけど。
──時空の海、って、なんだろう?
階段を降りると、光る扉と灰色の扉。
灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。
アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?
灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。
そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。
おまけに精霊の宿るアイテムって……。
なんでこんなものまで入ってるの!?
失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!
そっとしておこう……。
仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!
そう思っていたんだけど……。
どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?
そんな時、スキルが新たに進化する。
──情報の海って、なんなの!?
元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる