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第二章

072 オブール杯二次予選 ③

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 それから男性が繰り出した二匹目のモンスターも、物量作戦で乗り切った。

 しかしソイルセンチピートの魔力が尽きたので、ソイルワームの補充はこれ以上はできない。

 結果として男性の三匹目のモンスターに、ソイルワームは全滅させられてしまう。

 だが、ソイルセンチピートの巨体を生かした攻撃には耐えられず、何とか勝利を収めた。

 最終的にこの試合は、ソイルセンチピート一匹で勝ち上がる。

「あんな理不尽なモンスターバトルをしたのは初めてだ……優勝目指して頑張ってくれ……」
「ああ」

 男性は最後に力なくそう言うと、トボトボと歩いて行った。

 そうして俺も控室に戻ろうとするが、係りの者に個室への移動をお願いされる。

 どうやら準決勝に進むと、他の選手と顔を会わせないために個室が用意されているみたいだ。

 先ほどの部屋だと勝った者によっては、次の試合の相手と同じ部屋で待機することになってしまう。

 なので個室が用意されるのは、理にかなっている。

 俺は個室で一人、次の試合を待つ。

 といっても一試合三十分で二試合あり、一時間ほど待機している必要がある。

 時間があるので、次に出すモンスターを考えよう。

 おそらく俺の相手は、アミーシャになると思われる。

 アミーシャは、状態異常攻撃をするモンスターを使ってくるだろう。

 あの時の蝶とは限らないが、飛行対策でサンを候補に入れる。

 サンは進化こそまだだが、最初の頃よりも確実に強くなった。

 十分活躍をしてくれるだろう。

 あとは一匹目を様子見で、アシッドスライムを出す。

 アシッドスライムには、酸弾という遠距離攻撃がある。

 近付かれる前に相手を倒せれば、状態異常攻撃もやり過ごせるだろう。

 それに状態異常系の耐性自体は無いが、アシッドスライムは元々状態異常に強い気がする。

 問題は酸弾で相手を殺してしまわないかなので、そこだけは注意をしよう。

 危なくなったら、流石に審判も止めるはずだ。

 そして三匹目は、状況を見ながら臨機応変に選ぶことにする。

 さいあくの場合は、ホワイトキングダイルの出番がくるかもしれない。

 まあホブンやレフもいるので、大抵は大丈夫だと思うが。

 そうして待ち続け、ようやく俺の出番が回ってくる。

 さて、アミーシャはいったい、どんなモンスターを出してくるだろうか。

 俺は笑みを浮かべながら、会場へと移動する。

 だが結果として、俺の期待は裏切られた。

「よろしく頼むぜ!」
「え? あ、ああ……」

 俺の対戦相手は十代後半の青年であり、アミーシャではなかった。

 マジか、アミーシャは負けたのか……。

 アミーシャと戦うつもりでいたので、思わず溜息が出てしまう。

 だがアミーシャに勝ったということは、この青年は当然強いはずだ。

 気持ちを切り替えていこう。

 とりあえず一匹目は様子見で、アシッドスライムをそのまま出すことに決めた。


 種族:アシッドスライム
 種族特性
【強酸】【酸弾】【分裂】
【再生】【酸耐性(大)】


 対して青年が出したのは、オーク。

 ん? 向こうも様子見か?

 とりあえず、酸弾を飛ばす。

「ぶぎゃぁ!?」

 そして命中すると、オークは苦痛でのたうち回る。

 続けて足を狙い酸弾を撃ち込むと、すぐに降参されてしまった。

 まあ、オークだしな。

 次はきっと、凄いのがくるだろう。

 俺は、二匹目のモンスターを待ち構える。

「は?」

 だが、次に出てきたのはホブゴブリン。

 当然、呆気なく倒せてしまう。

 いや、三匹目がとても強いに決まっている。

 もしかしたら、Bランクが出てくるかもしれない。

 俺は、次の三匹目に意識を向ける。
 
 そして、現れたモンスターはというと……。

「嘘だろ……ここまできて、オークなのか……」

 三匹目は、まさかのオークである。
 
 これに、アミーシャは負けたのか?

 それとも、アミーシャとの戦いで強いモンスターは、回復できないまでに追いやられたのか?

 大会ではポーション類を無料で使用できるし、大抵のダメージは、次の試合時には治っているはずだが……。

 というか、よくこれでここまで勝ち上がってこれたな。

 おそらく、かなりくじ運が良かったのだろう。

 俺は大きなため息を吐くと、一匹目と同様に酸弾でオークを倒した。

「まじかー。やっぱり決勝トーナメントは違うな! 一戦目が楽勝だったから、行けると思ったんだが、ここで俺の命運も尽きたわけだ。決勝戦頑張れよ!」
「あ、ああ」

 一戦目が楽勝だったという言葉に衝撃を受けながら、俺は控室へと移動する。

 あの三匹で楽勝? もしかしてアミーシャは、そこまで強くはなかったのだろうか?

 何となくアミーシャからは危ない雰囲気を感じていたのだが、気のせいだったのかもしれない。

 まあ、こういうこともあるか。

 まさかの展開に苦笑いを浮かべつつ、俺は決勝戦を待つ。

 リード。リードは大丈夫だよな?

 決勝戦で会う約束をしたし、これで別のやつが勝ち上がって来たら、相手には悪いが俺はへこむ気がする。

 だからどうかリードには、決勝戦まで勝ち進んでほしい。

 出すモンスターも、最初から決めているんだ。

 本当に頼むぞ。

 俺は祈りながら、その時を待つ。

 試合は三十分だが、リードの試合後にもう三十分待つ必要がある。

 でなければ、休み無しでリードは連戦になってしまう。

 加えてこれは、観客の休憩の意味もある。

 また決勝戦の試合時間は、一時間だ。

 存分に戦うことができる。

 リードが勝ち上がってくる前提で、手持ちを予想しよう。

 まずロックリザードは、おそらく出てくるはずだ。

 あれはリードの相棒的モンスターであり、信頼関係も築けている。

 他にはアサシンクロウも、出てくるかもしれない。

 契約したのは最近だが、Cランクモンスターの上に空を飛べる。

 暗殺主体のモンスターでも、十分に脅威的だ。

 流石にサンでは、アサシンクロウに勝つことはできない。

 なので対処できるモンスターは、限られてしまうだろう。

 そして三匹目は、正直分からない。

 屋敷で色々モンスターを見せてもらったが、リードの契約している個体はあえて秘密にしてもらった。

 なのでもしかしたら、アサシンクロウを超えるモンスターを出してくる可能性がある。

 これは、三匹目が楽しみだな。

 もちろんロックリザードとアサシンクロウも侮らないが、今回は本気で行かせてもらう。

 俺の手持ちは、レフ、ホブン、ホワイトキングダイルの予定だ。

 現状出せる、最強のメンバーである。

 リードには悪いが、優勝は俺がもらう。

 それとこうして並べると、ホワイトキングダイルだけ名前が無いのが少し気になるな。

 ここまで役に立っているし、そろそろコイツにも名前をつけた方が良いかもしれない。

 だがそれは、この二次予選が終わってからにしよう。

 そうして決勝戦へのシミュレートを行っていると、とうとうその時が来る。

 係りの者に呼ばれ、俺は控室を出た。

 流石に緊張するな。

 果たして、リードは無事に決勝へと登ってこれただろうか。

 俺は廊下を歩き、会場へと出る。

「やあ、何とか勝ち上がれたよ」

 俺の目の前で、リードはそう言って笑みを浮かべた。

「そうか、それは良かった。楽しい試合にしよう」

 リードが勝ち上がってきた嬉しさにより、思わずため口で話してしまう。

「ははっ、ようやく口調を崩してくれたね。その方が良いよ」
「そうです、いや、そうか」
「うん。僕とジン君との間に、壁は必要ないさ」

 リードがそう言うのであれば、これからは本来の口調で話そう。

「わかった。それよりもまずは、この決勝だ」
「うん。僕も負けないからね」
「喰らいついてこい!」
「全力で挑ませてもらうよ!」

 そうして、俺とリードの決勝戦が始まる。

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