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第二章

070 オブール杯二次予選 ①

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 とうとう二次予選か。楽しみだが、緊張もするな。

 俺は現在、街の闘技場に来ていた。

 もちろんリードも一緒であり、ハパンナ子爵たちは貴賓席にいる。
 
 二次予選の参加者は全部で三十二人であり、まずは試合に二回勝つ必要があった。

 そして上位八人が、決勝トーナメントで戦える。

 無事にそこで三回勝てれば、晴れて優勝だ。

 ちなみに一次予選だと村は優勝者と準優勝者の二人だけだったが、町以上は三位までが二次予選に出場できるとのこと。

 またハパンナ子爵領はこの街と他の町三つに加えて、村の数が十で構成されているらしい。

 なので二次予選の出場者数は、合計で三十二人である。

「ジン君、試合で当たった時はお手柔らかに頼むよ」
「それで負けては敵いませんので、全力で行かせて頂きます」
「はは、厳しいなぁ」
 
 リードとそんなやり取りをしながら、俺たちは選手向けの巨大な掲示板へと向かう。

 なお選手番号は俺が11番で、リードは1番らしい。

「よかった。このトーナメントでは当たらないみたいだね」
「そのようですね」

 掲示板のトーナメント表を見ると、俺とリードは別のブロックになっている。

 ブロック数は四つで、A~Dに分かれているようだ。
 
 俺はBブロックで、リードはCブロックである。

 このブロックを勝ち上がることで、決勝トーナメントに進出だ。

 またこのブロック戦は、四つ同時に行われる。

 闘技場は楕円形でかなり広く、四試合同時でも問題はない。

 また制限時間は一試合三十分で、時間内に勝負が付かなければ、優勢な方の勝ちになる。

 午前中はこの各ブロックの試合が行われ、その後昼休憩を挟んでから決勝トーナメントの予定になるそうだ。
 
 仮にこれら全てに勝ち上がると一日で五回も戦うことになるので、このブロック戦では温存したいところである。

 だが温存を考えすぎると逆に負ける可能性もあるので、そこが難しいところだ。

 まあ俺の場合モンスターの数だけは多いので、何とかなるだろう。

 そうして開会式が行われた後、いよいよブロック戦が始まる。

 俺は試合を待っている間、Bブロック用の控室にいた。

 すると他の選手の中に、以前俺のホブンを寄越せと言ってきた男を発見する。

 確か冒険者証をはく奪されたはずだが、二次予選の出場権自体は保持し続けたようだ。

 俺が視線を向けると、男は冷や汗を流しながら顔を逸らした。

 まあ今更どうでもいいので、気にしないことにする。

 そして、いよいよ俺の番が回ってきた。

 係りの者に案内されて、俺は移動する。

 ちなみに俺の相手となるのは、先ほどの男とは別の青年だった。

 移動中チラチラと見られるものの、何かを言ってくることはない。

 その後闘技場の試合スペースに入り、Bブロック用の場所に向かう。

 また他のブロックも試合中であり、どうやら終わったところから随時入れ替わるようだ。

 さて、最初は何を出すべきか。

 モンスターは、審判の合図で同時に出す決まりになっている。

 なので、相手のモンスターを見て選ぶことはできない。

 しかし相手がテイマーであれば、背後の連れているモンスターで、ある程度想像はできる。

 ちょうど対戦相手の青年はテイマーなので、俺の繰り出すモンスターはあっさり決まった。

 そして審判に合図されたので、俺は手持ちのカードの中からミディアムマウスを選び、召喚する。


 種族:ミディアムマウス
 種族特性
【繫殖力上昇(小)】【悪食】
【前歯強化(中)】【集団行動】
【集団招集】


 対して相手が出してきたのは、オーク。

 単純な戦いをさせれば、オークの方が単体としては強い。

 だが俺が操作すれば、それはくつがえる。

 さっそくミディアムマウスを動かして、オークへと向かわせた。

 ミディアムマウスは、意外と素早い。

 接近後にオークが棍棒を振り下ろすが、簡単に回避をする。

 加えてその隙に、前歯の噛みつきでダメージを与えた。

 ミディアムマウスの攻撃は、オークの守りを問題なく突破できる。

 ただ血の味と感触が最悪だったので、その部分の感覚は遮断しておく。

 あとは、その攻撃と回避を繰り返すだけだ。

 すると青年は次第にあせり始め、命令も雑になる。

 気が付けば、オークは完全に戦意を喪失していた。

 それでも青年が戦わせようとしたが、審判にオークの負けを言い渡される。

 青年はその言葉に、表情を硬くした。

 なぜなら控えている残りの二匹が、どちらもオークだったからである。

 結果として、俺はミディアムマウス一匹で最初の試合に勝利した。

 モンスターを操作するだけで、他よりもかなり有利になる。

 ちなみにだが、これは違反行為ではない。

 思念での命令は、サモナーやテイマーでも可能だ。

 ただ俺のように自分の体のごとく操作することが、おそらくできないだけである。

 そうして試合を終えた俺は、控室に戻るのだった。

 ◆

 控室でしばらく待機していると、一巡目が終わり、二巡目が始まる。

 ちなみに俺からホブンを奪おうとした男は、どうやら一試合目で負けたようだ。

 そしてちょうど係りの者に呼ばれたので、俺は移動を開始する。

 今度の相手は、スキンヘッド巨漢だった。

「へへ、こんなガキが相手か。実力差を思い知らせてやるよ」
「そうか」

 完全に、こちらを舐め切っている態度である。

 だがそんなことはどうでもいいので、俺は適当に返事をした。

「はっ、そんな態度でいられるのも、今の内だけだぜ」

 巨漢の男は最後にそう言って、無言になる。

 そうして試合の場所へと移り、審判が開始の合図を出した。

 どうやら巨漢の男はサモナーのようであり、何を出すか分からない。

 なので様子見で、俺はオークを繰り出す。

 すると巨漢の男は、茶色のくまを召喚した。

 体長三メートルほどの巨体である。

 何だあのモンスターは?

 気になるが、鑑定をするのは禁止行為である。

 発覚すれば、出しているモンスターが強制的に負けになってしまう。

 また累計三回行うと、二次予選自体が強制敗退になる。

 それゆえに、気になっても相手モンスターの鑑定はできない。

 ここは何とか粘って、情報を集めよう。

 俺はオークを操作して、熊へと挑む。

 すると見た目通り、熊はパワー型の接近戦主体のようである。

 また巨漢の男が、オークを威圧するように熊へと命令を下した。

 だが俺のカード化したモンスターは恐怖心が無いものが多く、大抵そういった威圧が効かない。

 それに今は俺が操作しているので、あまり関係が無かった。

 だがそれでも戦いは厳しく、オークが重鈍ということもあって攻撃を避け切れない。

 いくつか熊に手傷を負わせたものの、これ以上は無理だと判断してオークを下げる。

 うーむ。あの熊はおそらくCランクだな。

 力も強いし、生半可なモンスターでは厳しいだろう。

 であるならば、ここはあいつを出すか。

 そうして次に俺が出したのは、ホブンである。


 種族:エリートゴブリン
 種族特性
【無属性適性】【悪食】【病気耐性(小)】
【他種族交配】【腕力上昇(小)】
【技量上昇(小)】

 エクストラ
【ダンジョンボス】
【ランクアップモンスター】

 スキル
【打撃武器適性】
 

 決勝トーナメントで出そうと思っていたが、相手が思ったよりも強敵なので仕方がない。

 ハイオークでも勝てるだろうが、確実にダメージを受けるだろう。

 対してホブンであれば、おそらく無傷で突破できる。

 加えて先ほどはオークを俺が操作していたが、ホブンの場合は手助け程度にしておく。

 個を確立しているモンスターは、その方が強い。

 操作すると俺の思考力が乗っ取る形になるが、補助に回ればホブンも合わせて二つの思考力で戦える。

 もちろん連携は必須だが、この数日間でそれは練習していた。

 普通のモンスターカードでは、これが中々できない。

 やろうとしても、あまり上手く行かないのだ。

 これは、絶対服従の欠点だろう。

 更にエリートゴブリンになったホブンは、素早く体の動かし方も上手い。

 熊による力だけの大振りなど、当たるはずもなかった。

 そしてスマッシュクラブから繰り出されるスマッシュにより、熊を難なく撃破する。

 さて、次は何を出してくるんだ。

 俺はワクワクしながら、相手を待つ。

 だが巨漢の男が出したのは、ホブゴブリン。

 正直、がっかりである。

 当然ホブンが勝ち、三匹目に期待したのだが、次はオークだった。

 どうやら、あの熊が切り札だったらしい。

 最初に出すとは大胆だが、残りの二匹を温存させる作戦だったのだろう。

 そうして二戦目も勝利して、俺は決勝トーナメントへの進出を決めるのだった。

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