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第二章

066 穏やかな時間と新情報

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「猫ちゃん!」
「にゃー」

 屋敷に戻ると、習い事を終えたルーナにレフが捕まった。

 遊んであげてと言った手前、邪険にすることはできない。

 お付きのメイドにも頭を下げられたので、レフにはルーナのを相手をしてもらう。

 そう思ったのだが。

「おにいちゃんもいっしょ!」
「あ、ああ」

 俺もルーナに捕まってしまった。

 ちなみにリードは、契約したアサシンクロウを事前に作ってあった鳥小屋に入れに行くようだ。

 ハパンナ子爵家の屋敷には、契約しているモンスターの面倒を見るスペースを設けているらしい。

 一部の兵士たちのモンスターも、そこに一時的に預けている。

 俺もそこが気になったのだが、こうなってしまっては仕方がない。

 ルーナに連れられて、庭に出た。

「猫ちゃん!」
「にゃにゃ」

 そこでルーナは、メイドに渡された猫じゃらしのような物をレフの前で振る。

 レフはそれを本能なのか、それとも付き合ってあげているのか、じゃれついていた。

 これは、俺が連れてこられる意味はあったのだろうか?

 庭に置かれているガーデンチェアに座りながら、メイドが淹れてくれた紅茶を飲む。

 とても平和な光景だ。

 思えばこの世界に来てから、こんな風にのんびりしたことはほとんど無い気がする。

 天気も良く、僅かに吹いている風が心地いい。

 いずれまた旅に出るとは思うが、こうした落ち着ける拠点もいつかは欲しいものだ。

 それから時間を持て余していたので、ルーナのお付きのメイドと会話をする。

 メイドの名前はリンダというらしく、茶髪を伸ばした二十代の女性だ。

 話題はやはりルーナの事であり、ルーナは活発でよく庭で遊んでいるらしい。

 それと見た目は猫とはいえ、モンスターに興味を持ったことを喜んでいた。

 どうやら以前にモンスターが喧嘩をしている場面に出くわし、それ以来怖がってモンスターに近付かなくなったとのこと。

 あのホーンラビットにすら怖がったようで、かなり問題になっていたらしい。

 というのもハパンナ子爵家は全員サモナーであり、ルーナにもその才能があるようだ。

 年齢的にそろそろ一匹契約させたいようだが、肝心のルーナがそれを嫌がったのである。

 なのでこのことを知ったハパンナ子爵は、俺にそのモンスターを譲ってもらおうと思ったらしい。

 けれども同時に、そのモンスターがディーバのロックゴーレムを倒したレフだと知って、諦めたようだ。

 まあどちらにしても、譲るにはカード召喚術の秘密を教えなければいけないので、例えザコモンスターでも断っていただろう。

 唯一可能性があるとすれば、俺がこの大陸から去る間際になる。

 国境門を抜ければ、おそらく同じ大陸に行ける可能性は限りなく低い。

 情報が他の者に知られても、その頃には俺は既にいなくなっている。

 ただ渡したことによって、ハパンナ子爵家に面倒ごとが起きる可能性もあるので、そうした事も考慮しなければいけないが。

 ちなみに譲るのはザコモンスターであり、レフは流石に渡せない。

 まあその時になったら、色々考えよう。

 俺はそう思いながら、ルーナへと視線を向ける。

「猫ちゃん! それ!」
「にゃ!」

 どうやら今は、ボールを投げて取りに行かせているようだ。

 それは猫じゃなくて犬の遊びだと思ったが、元々レフは狼だったので、おそらく問題はない。

 レフも楽しそうに、ボールを取りに行っている。

 一緒に遊んでいるうちに、レフもルーナに慣れてきたようだ。

 それはそうと今更だが、モンスターの譲渡とはどのように行っているのだろうか?

 譲渡の話を聞いて、そんなことを俺は思った。

 本来モンスターに認められることによって、契約をすることができる。

 だが譲渡の場合、モンスターは果たして新しい主を認めるのだろうか?

 ものすごく気になるが、これをメイドのリンダに訊くわけにはいかない。

 これはあとで、リードに訊くことにしよう。

 リードには既にカードを見られているので、それくらいは訊いてもおそらく問題はない。

 それから少しして昼食の時間となり、ルーナとレフの遊びも終了した。

 昼食はルーナと、アサシンクロウを鳥小屋に移し終えたリードと一緒に摂る。

 リードはルーナに対してアサシンクロウを自慢するが、ルーナはあまり興味がなさそうだ。

 それよりも、レフとどのように遊んだかを俺に一生懸命話す。

 俺も見ていたので当然知っているが、そうかそうかと頷いておく。

 食事を終えるとルーナは勉強があるため、メイドのリンダに連れていかれた。

 俺はそれを見ながら、リンダはいつ昼食を摂るのだろうかと、何となく考える。

 昼食中も、常にルーナの背後に控えていた。

 まあおそらく、交代のメイドがいるのだろう。

 あとはちょうど良いので、リードに二人で話ができないか訊いてみた。

「もちろん構わないよ。それじゃあ部屋を移ろうか」

 するとリードがこころよく承諾してくれたので、話しやすい部屋へと移動する。

 移動した部屋は、俺がハパンナ子爵と面会した部屋だった。

 どうやらこの部屋は、話を聞かれないための防音対策が万全らしい。

 そしてソファに座ると、俺はまずはお礼を言う。

「このような場を設けて頂き、ありがとうございます」
「いや、構わないよ。それよりも、話したいことって何だい?」

 この状態で、訊きたいことだけを訊くのはよくないよな。

 リードにそう問いかけられたので、俺はある程度の事情を最初に話すことにした。

 まず前提として、俺が国境門で他の大陸から来たこと。

 その大陸では、他のテイマーやサモナーに会ったことがないこと。

 そしてカード召喚術士という、特殊なサモナーであること。

 なので一般的なサモナーやテイマーの情報について、とても疎いということを話した。

「なるほど。そういう訳だったんだね。ジン君の事情が知れて嬉しいよ。それだけ信用してくれたという事だよね。僕に分かる事なら、是非どんなことでも訊いてほしい」

 正直に事情を話したことが功を奏したのか、リードはそう言って胸を張る。

 ありがたいな。

 こうした人物が一人いるだけで、とても心強い。

 俺はリードに感謝しながら、知りたかったモンスターの譲渡方法について訊いてみた。

 するとやはり、そう単純な話ではないようだ。

 契約の移動自体は、お互いの同意があればできるらしい。
 
 これは俺がカードを他人に譲渡できるのと、同じようだ。

 ただ違いは、俺が譲渡したモンスターカードは、譲渡した相手にも絶対服従になる。

 また俺の気分一つで、はく奪も可能だ。

 対してテイマーやサモナーの譲渡は、その後が大変らしい。

 まず譲渡されたモンスターは、基本言うことを聞かないとのこと。

 まあこれは主として認めていないので、当然である。

 なので普通は譲渡しても言うことを聞くよう事前に教育をしておくか、その譲渡相手に慣れさせる必要があるそうだ。

 例えば貴族の家には、代々受け継がれる高ランクモンスターなどがいる場合がある。

 跡取りは生まれた時からそのモンスターと関わることで、譲渡後もスムーズに主として認められやすくなるという。

 しかし例外として契約の強制力を使えば、無理やり言うことを聞かせられるようだ。

 契約しているモンスターに対して魔力を込めながら命令を送ると、あらがうのが難しいらしい。

 無理に抵抗すると、モンスターには激痛が走るようだ。

 これは魂に直接感じる痛みなので、痛覚の無いモンスターでも有効らしい。

 ただしこれを使うと、大体の場合モンスターから認められることは無くなるようだ。

 恐怖と痛みで仕方なく、従っているだけに過ぎないという。

 おそらく俺からモンスターを奪おうとしたやつらは、この強制力で命令する予定だったのだと思われる。

 人からモンスターを奪う奴らは、この強制力を使うのに躊躇ためらいはないだろう。

 またテイマーやサモナーにとって、この強制力を使うのは恥らしい。

 自ら三流以下と名乗っていることに、他ならないとのこと。

 だが近頃は、貴族家でも平気でこれを使うものが増えてきたようだ。

 そのことを、リードはとてもなげいていた。

 しかし俺はそれを聞いて、そいつらをののしることはできないと考える。

 なぜなら俺はモンスターを殺してからカード化して、絶対服従状態にしているのだ。

 やっていることをかんがみれば、そいつら以下のことをしている。
 
 耳が痛いな。

 だが俺も今更、カード化を止める訳にはいかない。

 それに俺が行っている対象は、野生のモンスターだ。

 他人のモンスターを奪ってカード化することは、この先ほぼ無いだろう。

 それだけに、グリフォンの事が思い出される。

 悔やんでも仕方がないが、いつか何かしらの形で報いたい。

 できればこの大陸にいる間に、その問題の解決を目指そう。

 そんなことを考えつつ、俺はその後もリードから有益な情報を教えてもらうのだった。

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