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第二章

044 ノブモ村での大会予選 ②

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「ここに各ブロックを勝ち上がった者がそろった。これより選手の紹介を行う!」

 決勝トーナメントが始まり、俺は会場となる場所にやって来た。

 周囲には多くの人々がおり、視線が次々に向けられる。

 現在俺は、試合会場の中央にいた。

 職員の男が高らかに声を上げ、俺を含めた四人の紹介を始める。

「まずはAブロックを勝ち上がった男、29番のジブールだ! 彼の連れるオークにゴブリンなど、相手にはならないぞ!」

 まず初めに紹介されたのは、ジブールという冒険者の男。

 どうやらオークを使って勝ち進んだらしい。

「続いてBブロックを勝ち上がったのはこの美少年! 26番のジンだ! 彼はたった一匹のグレイウルフだけで勝利したサモナー! 果たして残りの二匹を見ることはできるのか?」

 美少年か。傍から言われると、何だかむず痒い。

「次にCブロックを勝ち上がったのはこの女性! 5番のアミーシャだ! 彼女はここでは珍しい状態異常攻撃を得意とするモンスターで勝利した! 上手く決まれば優勝も十分狙えるぞ!」

 俺の次に紹介されたのは、紫色の瞳と同色の髪を腰まで伸ばした、村人風の服を着た女性。
 
 年齢は二十歳前後であり、少女から女性に変わったばかりという印象だった。

 なるほど。状態異常を得意とするモンスターか、これはやっかいだな。

 下手をすると、負ける可能性もある。

 油断できない相手になるだろう。

「そして最後にDブロックを勝ち上がったのはこの男性! 17番のジョリッツだ! なんとジャイアントボアを使役していることに加えて、優勝候補のホブゴブリンを事前に倒してしまった強者だ!」

 それを聞いて、周囲の観客が盛り上がる。

 やはり一番の強敵は、この人物になるだろう。

 選手紹介の場にモンスターはいないが、その巨体はこの場からも見えている。

 どのような試合になるのか、今から楽しみだ。

「それでは選手の四人は、この棒を同時に引いてくれ! 同じ番号の相手と試合になる」

 そうして、棒の入った箱が用意された。

 俺と他三人はそれぞれ棒を手に取り、同時に抜く。

 ふむ。一番か。

 相手は……さっそくか。

「決勝トーナメント第一試合は26番のジン対17番のジョリッツだ! そして第二試合は29番のジブール対5番のアミーシャに決まった!」

 番号の書かれた棒を見て、職員が声を張り上げる。

 こうして俺の決勝トーナメント最初の相手は、ジャイアントボアを使役するジョリッツに決まった。

 そして試合はさっそく行われるようであり、俺は会場でジョリッツと向かい合う。

「よろしくお願いしますね。もちろん、勝たせてもらいますが」

 ジョリッツは優しそうな中年男性だ。腹が出ており、ジョリッツ自身は戦闘が不得意そうに見える。

「ああ、俺も負けるつもりはない」

 軽い会話を終えると、それぞれ会場の端へと移動した。

「ではまずは小手調べといきましょう。ブレロ、いきなさい」
「ぶひっ!」

 そう言ってジョリッツが最初に繰り出してきたのは、なんとオークである。

「レフ、行け」
「ウォン!」

 対して俺は、Bブロックと同じようにレフを召喚した。

 そして二匹のモンスターが場に出ると、審判役である職員の男性が声を上げる。

「両者とも準備はいいか? それでは、決勝トーナメント第一試合を開始する! 始め!」

 その開始の合図と共に、レフが駆けた。

 瞬く間にオークに接近すると、背後を取る。

「ぶひ!?」

 相手のオークは振り返り棍棒を振るうが、既にレフはいない。

「ヴァウ!」
「ぶぎゃ!?」

 気が付けば、既にレフがその左足に噛みついていた。

 オークは確かに腕力もあるし、耐久力も優れている。

 だが、圧倒的に速度が不足していた。

「な、何をしているのですか! 後ろですよ!」

 ジョリッツが慌てて命令を下すが、オークはレフを捕らえきれない。

 ふむ。どうやらジョリッツは、命令を出すのがそこまで上手くはないみたいだ。
 
 ジョリッツ自身も戦闘が得意じゃなさそうに見えるし、もしかしてモンスターを買ったのだろうか?

 服装も普通の村人より質がよさそうだし、十分にあり得る。

 おそらくこの村に来たのは、全体的にモンスターの弱い予選に出て優勝するためだろう。

 確かにオーク一匹でも、決勝トーナメントには十分勝ち上がれる。

 だがそれでも、ここで俺と戦うことになったのが運の尽きだ。

「ぶひぃ!?」
「ブ、ブレロ……」

 結局オークはレフになぶられ続け、出血により動けなくなる。

「オークは戦闘の続行が不可能だと判断する!」
「くっ」

 そして審判役である職員の判断により、オークの敗北が告げられた。

 すると同時に、観客席から歓声が鳴り響く。

「すげえ!!」
「何だよあれ!」
「おい、あいついつ命令していたんだ?」
「凄すぎだろ!」

 そうしている間に、オークはポーションで回復して下がっていった。

「ま、まだ負けていません。もう一匹オークがいます。しかしこれで出しても結果は同じでしょう。なので早いですが、この子に出てもらいます。行きなさい! ボアザード!」
「ブヒイイ!!」

 するとジョリッツは、大将であるジャイアントボアを先に出してきた。

 まあ当然か。二匹目のオークが出てきても、結果は同じだろう。

 判断力はあるようだ。

 しかし、これは不味いな。

「ワウン!」
「ブギ?」

 何とか回り込んで噛みついても、レフの攻撃が全く通らない。

 ジャイアントボアの皮膚は、それほどに硬かった。

「ブギィ!」
「ギャウ!」

 だが会場という広さ制限があるからか、ジャイアントボアも突進をそこまで活かせないようだ。

 観客の中にはジャイアントボアが突っ込んでくるかもと思い、席を立っている者もいる。

 これはダメだな。攻撃は単純で避けやすいが、ダメージが全然通らない。

 流石に試合で目を狙うことはできないし、体力勝負ではレフが不利だろう。

 なら、仕方がない。

「レフの敗北を宣言する」
「ジン選手の宣言により、グレイウルフを負けとする」

 それを聞いて、ジョリッツが安堵の表情を浮かべた。

 対してレフは尻尾を股の下へと挟み、恐る恐る戻ってくる

「くぅん」
「あれは仕方がない。気にするな」
「ワゥン」

 そう言って俺はレフの頭を撫でると、召喚を解いた。

 さて、どうしたものか。

 中堅はオークにしていたが、おそらく勝つのは無理だろう。

 例え攻撃が通ったとしても、逆に避けることができない。

 噂通り、ジャイアントボアにかれたオークになってしまう。

 それなら、こちらも大将を出すしかないか。

「いでよ、ホブン」
「ゴッブ!!」

 俺はそう判断して、ホブゴブリンのホブンを繰り出した。

「おや、ホブゴブリンですか? それなら先日倒しましたねぇ」

 ジョリッツはホブンを見て、既に勝った気のようだ。

 だが、その油断が命取りだぞ?

 俺のホブンが普通のホブゴブリンではないことを、今見せてやろう。
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