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第二章

041 少年からの救助要請

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 翌日目覚めると、俺は村の外に出る。

 未だホワイトキングダイルは復活しないが、他に試したいことがあった。

 周囲に誰もいないところまで来ると、いくつかのカードを取り出す。

 タヌゥカとの戦いのとき、俺はホワイトキングダイルの幻影を纏った。

 あれを自在に使えるようになれば、デメリットがあるとはいえかなりの戦力アップに繋がる。

 幻影を纏っている間は、ホワイトキングダイルのスキルなどが使えるようになった。

 他にも身体能力がある程度、足されていたはずだ。

 しかし、そのやり方が分からない。

 あの時はこれまで感じたことのないような怒りや後悔により、突然目の前にカードが現れた。

 そして同時にホワイトキングダイルから思念のようなものが届き、了承した瞬間幻影を纏った気がする。

 であるならば、鍵となるのは感情とカードからの問いかけだ。

「くっ、やはり無理か」

 けれども自分の感情など、そう易々やすやすとは操れない。

 あの時のことを思い出していらついても、何も起きなかった。

 何よりカードからの問いかけなど、全く見当もつかない。

 モンスターを召喚してなにか問いかけるように命令しても、無駄に終わった。

 幻影になれと命令しても、何も変わらない。

 もしかして、デメリット中というのも関係しているのだろうか?

 それか前提として、そもそも普通のモンスターカードではダメなのかもしれない。

 ホワイトキングダイルは、イレギュラーモンスターという存在だ。

 その効果の中に、『知力を上昇させ、個を確立する』というものがある。

 おそらくホワイトキングダイルから問いかけてきたのは、他と違って個が確立しているからだろう。

 だが通常のモンスターにも、個があるように見える。

 グレイウルフなど、撫でてやると尻尾を振って喜ぶのだ。

 いったい、それと何が違うのだろう。

 名前を付けて、個性でも出せば出来るのか?

 よし、とりあえず実験してみるか。

 俺はいつも連れているグレイウルフを召喚すると、実験的に名前を付けることにした。

「今日からお前の名前は、グレイウルフのレフだ」
「ワオン!」

 安直だが、レフと名付ける。

「よし、レフ。幻影になることはできるか? 俺に力を貸して、レフの能力を使えるようにさせる感じだ」
「ワフ?」
「だめか……」

 現状は無理そうなので、しばらくは様子見だな。

 あと次に可能性があるのは、やはりホブゴブリンだな。

 そう思いホブゴブリンを召喚して、幻影に変えられるか試す。

 しかし案の定、ホブゴブリンに変化はない。

 なのでホブゴブリンにも一応名前を付けて、様子見をすることにした。

「お前の名前は、ホブゴブリンのホブンだ」
「ごぶ!」

 一瞬ベックの仲間であるブンが思い浮かんだが、他に思いつかなかったのでホブンという名前にする。

 ちなみに、第二候補はボブだった。

 けれどもホブゴブリンをボブと呼ぶのは違和感があったので、不採用にしたのである。

 それと名前を付けても幻影にすること、幻影化はできなかった。

 こちらも、しばらくは様子見をすることにする。

 だがそもそもとして、幻影化はイレギュラーモンスター限定なのかもしれないが。

 二枚目が手に入れば、それが分かるかもしれない。

 今後の目標の一つに、イレギュラーモンスターを手に入れることも追加しよう。

 そうして、モンスターをカードに戻そうとしたときだった。

「た、助けてくれ!!」
「ん?」

 すると木々の奥から、昨日モンスターバトルをした少年が現れる。

「あ、あなたは! た、助けて! 俺のジョンが、ゴブリン達に連れていかれたんだ!」

 鬼気迫る表情で、少年が縋りついてきた。

 周囲を見ても、ジョンという名前のグリーンキャタピラーの姿が見えない。

「ごぶ!!」
「ごっぶ!」
「ごぶぶ!!」

 加えて少年を追ってきたのか、無数のゴブリンが現れる。

「ひ、ひぃ! し、死にたくない!」
「はぁ、おとなしくしてくれ、何とかする」
「ほ、本当か!」
「ああ」

 俺はそう言うと、剣を抜いてゴブリンに肉薄にくはくした。

「ごばっ!?」

 今更ゴブリン程度、何匹集まったところで相手にはならない。

 ついでに召喚していたグレイウルフのレフと、ホブゴブリンのホブンも戦わせる。

「ガウン!」
「ゴッヴア!」

 レフはゴブリンの喉元を噛み千切り、ホブンは元々持っていた棍棒でゴブリンを叩き潰す。

 心なしか名前を付けたことで、動きが良くなっている気がする。

 気のせいだろうか?

 そんなことを思いつつ、ゴブリンの群れを一掃した。

「た、助かった! ありがとう! だ、だけど、どうかジョンを助けてはくれないだろうか? 昨日は交換に出そうとしたけど、それでも俺にはジョンが必要なんだ!」

 少年は必死に頭を下げて、懇願こんがんをする。

 まあ暇だし助けてやってもいいが、おそらく手遅れだろう。

 わざわざ、グリーンキャタピラーを生かす意味があるのか? 

 既に喰われている可能性もあるだろう。

 そのことを少年に話しても、僅かでも可能性があるなら助けてほしいと言ってきた。

「はぁ、やるだけやってみるが、期待はするなよ。それと、代わりにここのゴブリンを解体しておいてくれ」
「わ、分かりました! お願いします!!」

 そうしてゴブリンについて詳しく少年から訊いた後、俺はレフとホブンを連れて森の中へと進み始める。

「レフ、ゴブリンたちの臭いを追えるか?」
「バウ!」

 どうやらゴブリンの臭いは強烈なので、簡単らしい。

 レフを先頭にして森の中を進んでいくと、しばらくしてゴブリンの群れを発見する。

 群れは小さな村を作っており、見た限り数十匹は超えるようだ。

 おそらくこの群れは、冒険者ギルドの依頼にあった殲滅作戦のターゲットだろう。

 こういう時って、何があってもいいように群れを見張っている存在がいる気がするのだが。

 そう思い近くに冒険者がいないか見渡すと、木の上にカラスのような鳥系のモンスターが一羽止まっている。

 もしかして、あれが見張りだろうか? 

 俺をじっと見るだけで、何かする様子は一切ない。

 加えて、足輪のようなものを着けている。

 それにあのようなモンスターは、周辺で見たことがなかった。

 もしあれが見張りだとすれば、冒険者ギルドに何かしらの異変が伝わっている気がする。

 少年が一人犠牲になりかけたのだ。伝わる理由には十分だろう。

 それと少年は俺に負けたことが悔しくて、ゴブリンかまだ見ぬ珍しいモンスターをテイムしに来たらしい。

 まあ結果として、複数のゴブリンに遭遇して返り討ちにあったようだが。

 さて問題は、俺がこれを倒してもいいかだよな。

 依頼の横取りとか言われると、かなり面倒だ。

 しかし少年とは口約束とはいえ、約束をしてしまった。

 一度ギルドに戻って話をつけるという手もあるが、それだとグリーンキャタピラーの生存確率がますます無くなってしまう。

 俺はそのことについて少しの間熟考すると、溜息を吐きながらも答えを出す。

「……はぁ、約束は約束か」

 この先の面倒ごとは、未来の俺に託すことにした。

 それと見られている以上、派手なことは控えよう。

「レフ、ホブン、行くぞ」
「ワオン!」
「ゴッブ!」

 俺は二匹に声をかけると、剣を抜いて駆けだす。

 作戦も何もない。

 目の前のゴブリンどもを、ただただ蹂躙じゅうりんするだけだ。

「ごぎゃあ!?」
「ご、ごぶぅう!!」
「ぎゃぎゃっ!?」

 突然現れた俺たちに、ゴブリンたちの慌てふためく。

 中には反撃しようとする個体もいるが、無駄な抵抗だ。

 次第に、ゴブリンは数を減らしていく。

 だが、そんな時だった。

「ゴブウ!」

 村の奥から、ホブゴブリンが姿を現す。

 ホブゴブリンか。通常個体を野生で見るのは初めてだな。

「よし、ホブン、お前の力を見せてやれ」
「ゴッブア!」

 大会予選のホブゴブリンは出れないようなので、ここで戦えるのはちょうど良い。

 そして俺のホブゴブリン、ホブンが駆けだして、棍棒を上から振り下ろす。

 相手のホブゴブリンも反応して、手に持つ棍棒を掲げようとした。

「ゴッブガ!!」
「ゴギャァ!?」

 しかし俺のホブンは通常個体ではない。ダンジョンボスだ。

 守りも間に合わず、野生のホブゴブリンの頭蓋が潰れる。

 当然、後ろに倒れてそのまま息絶えた。

「ご、ごぶ!?」
「ぎゃぎゃ!!」
「ごぶごぶが!!」

 ホブゴブリンがやられたからか、ゴブリンたちが逃げていく。

 できるだけ仕留めていくが、何匹か逃がしてしまった。

 まあ、あれくらいなら許容範囲だろう。

 その後ゴブリンの村を捜索すると、グリーンキャタピラーは簡単に見つかった。

 体中から体液を垂れ流しているが、何とか生きているようである。

 虫系は生命力が強いようだ。

 一応清潔を発動させた後、肩掛けバッグから取り出すように見せかけて、ポーションをストレージから取り出す。

 以前手に入れた最下級品だが、ないよりましだろう。

 その上の下級品を使うほどではない。

 怪我の酷いところに対して重点的に振りかけると、グリーンキャタピラーの傷が塞がっていく。

 最下級品とはいえ、中々に凄い。

 それか、グリーンキャタピラーの回復力が為せるわざだろう。

 他に目ぼしい物は無いので、ホブゴブリンの死体をホブンの肩に背負わせる。

 少し運び辛そうだが、棍棒があるので仕方がない。

 それとゴブリンの死体は、今回諦めよう。

「おい、お前の主人のところまで連れて行ってやる。おとなしくしていろよ?」
「キシャ」

 グリーンキャタピラーは了承を示すように、小さく鳴く。

 使役されている個体は、人の言葉を少しは理解できるようだ。

 俺は大型犬サイズの巨大芋虫を抱きかかえると、森の出口へと向った。

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