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第二章

039 実験の続き

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「ご、ごぶ!?」

 俺は引き続き、ゴブリンを無力化する。

 ジャイアントリーチの麻痺攻撃は、こういう時に役に立つ。

 痙攣けいれんと僅かなうめき声は出せるが、動くことはできないようだ。

 そして俺は、ゴブリンの魔石がある辺りに手のひらを向ける。

「魔充」

 次に行う実験は、生きているゴブリンに魔充を発動すること。

 死体の場合はゾンビになったので、生きている場合ではどうなるのだろうか。

 魔充は問題なく発動し続け、ゴブリンに魔力が注がれていく。

「ご、ごばっ!?」

 すると、ゴブリンの体に突如として変化が訪れる。

 痙攣していたゴブリンが、激しく動き始めた。

 体には血管が浮かび上がり、何となく筋肉が発達してきている気がする。

 これは、瞬間的なパワーアップ状態なのだろうか?

 そう思いつつも、俺は魔充を発動し続ける。

 だがその途中で、驚くべきことが起きた。

「ごぶあぁ!!?」
「うお!?」

 魔石を中心にして、ゴブリンが破裂する。

 俺はゴブリンの内臓でぐちゃぐちゃになり、破裂の勢いで背後に倒れてしまった。

「……清潔」

 生活魔法の清潔を発動して、汚れを消す。

 なるほど……魔石の限界を超えると破裂するのか。

 再び魔力を込めた種火でゴブリンの死体を証拠隠滅すると、俺は考える。

 途中までは、強くなっている雰囲気だった。
 
 これを見極めれば、ゴブリンでも結構強くなるのでは?

 そう思い、次はゴブリンを召喚して魔充を試してみる。

「ん? さっきのゴブリンより魔充の効きが良いな。俺の召喚したゴブリンだからか?」

 不思議なことに俺のゴブリンに魔充を発動すると、抵抗なく魔力が補充されていく。

 まあ普段から召喚している間は、持続的に俺の魔力が流れているから当然かもしれない。

 ちなみに、この持続的に流れる魔力を調整することはできなかったりする。

 そうしてしばらくすると、先ほどのようにゴブリンの体が少したくましくなり、血管が浮き出た。

 よし、どれくらい強くなったか試してみよう。

 俺はもう一匹ゴブリンを召喚すると、無手で戦わせる。

「ごぶ!」
「ごぎゃ!?」

 すると思った通り、魔充で強化したゴブリンが勝利した。

 やはり、全体的に身体能力が高くなっているな。

 次にオークを召喚して、戦わせる。

「ごぶが!」
「ぶひぃ!!」

 すると戦いは途中まで拮抗きっこうしたが、最終的に持続戦闘が得意なオークが勝利した。

 なるほど。これは種族特性の差で負けた感じだな。

 ゴブリンの種族特性のスキルは、【悪食】【病気耐性(小)】【他種族交配】である。

 対してオークは、【腕力上昇(小)】【体力上昇(小)】【悪食】【他種族交配】だ。

 腕力上昇と体力上昇があるオークが有利なのは、当然だろう。

 しかし種族特性のスキルを無しで想定した場合、おそらく強化ゴブリンの勝率が高くなると思われる。

 モンスターの格としては、一段階近くは確実に強くなっていた。

 これは、凄い発見かもしれない。

 だがこんな簡単なことは、既に知られていると思うべきだ。

 ここも砦を通る前にいた国と同様、おそらくモンスターを使役する国である。

 実験はしつくしているだろう。

 とりあえず、この強化ゴブリンについてもっと知る必要がある。

 それから俺は、強化ゴブリンの観察を続けた。

 うーむ。これは、違法行為として禁止されている気がする。

 結果として分かったのは、時間と共に魔力が抜けていき、強化ゴブリンは弱体化していく。

 そして最後は、確実に死亡するのだ。

 数匹試して全てそうだったので、間違いない。

 俺の場合時間を置けば、カードが再び使えるようになって復活する。

 だが通常はそうではない。

 一時的に強くなるが、代償がそれに見合っていないのだ。

 加えて、道徳的にも問題がある。

 使役しているモンスターを大事にしている者は多いだろうし、これを見られれば非難は免れないだろう。

 それに強化をするのにも時間がかかるし、今後これを使うのは控えることにする。

 ちなみにカードに直接魔充を発動してみたが、意味はなかった。

 そう簡単に、うまくはいかないようだ。

 とりあえず試したいことは終わったので、昼食を適当に済ませてから村へと帰る。

 するとその途中で、気になる光景が視界に入った。

 あれは、モンスター同士を戦わせているのか?

「いけぇ! ゴブラート!」
「ごぶぶ!」

 片方は棍棒を持ち、右腕に黄色の布を巻いたゴブリン。

「負けるなジョン!」
「キシャー」

 それに対するのは、黒い塗料で模様の描かれたグリーンキャタピラー。

 二人の少年が、自分のモンスターに命令を出して戦わせている。

 なるほど。あんな風にモンスターを戦わせるのか。

 試合の前半は、ゴブリンが素早い身のこなしで翻弄ほんろうしていた。

 しかし後半では、グリーンキャタピラーの糸に捕らわれてしまい、そこへ体当たりを受けてやられてしまう。

 どうやらこの試合は、グリーンキャタピラーの勝利のようだ。

「やったぜ! ジョン、予選も頑張ろうな!」
「キシャー」

 見れば少年の背後には、他にも複数のモンスターがいる。

 だが数合わせなのか、どちらも控えはスライムだけらしい。

 そして負けた少年は、勝利した少年へ銅貨を数枚手渡した。

 なるほど。負けると金銭を支払う必要があるのか。

 もし負け続けた場合、悲惨なことになりそうだな。

 そんなことを思っていると、勝利した少年と視線が合う。

「何だお前! 敵情視察か!」
「いや、何となく見ていただけだ」

 すると少年が近付いてきて、ジロジロと俺を見る。

「お前、モンスターを持っているか?」
「ん? ああ、持っているぞ」

 そう言って裾の下にグリーンスネークを召喚して、少年に見せた。

「はっ、そんな小さいヘビ程度か! よし、俺とモンスターバトルをしろ! 負けたら銅貨五枚だ!」

 いきなりそんな事を言ってきたが、どうするべきか。

 いや、ここで止めたら、タヌゥカの時と同じになってしまう。

 ならばここは、受けた方がいい。

「いいだろう」
「よし! モンスターバトルだ!」

 そうして、俺は少年とモンスター同士を戦わせる試合、モンスターバトルをすることになった。

 先ほど負けた少年も、興味深そうに見ている。

「バトルは一対一だ。モンスターが動けなくなるか、降参を宣言したほうの負けになる」
「ああ、わかった」

 ルールはシンプルで分かりやすい。

 問題は、相手のモンスターを殺さないようにすることだな。

 わざとではなくても、殺せば当然恨まれるだろう。

「よし、俺はコイツを出す! いけ、ジョン!」
「キシャ!」

 ふむ。先ほど戦っていた巨大な緑色の芋虫、グリーンキャタピラーか。

 同じグリーンの名を持つグリーンスネークでもいいが、毒を持っているので手加減が難しい。

 であるならば、他のを出そう。

 この機会だ。全く使っていなかったあのモンスターにするか。

 負けたとしても、精々銅貨五枚だしな。

 そう考えた俺は、とあるモンスターを召喚した。

「ゲコォ!」
「な、何だよそいつ! それにお前、サモナーだったのか!?」

 少年は俺のモンスター、ビッグフロッグが召喚された事に、驚きの声を上げる。

 この周辺にはいないだろうし、当然見たことはないだろう。

 ビッグフロッグの大きさは、大型犬サイズのガマガエルだ。

 ちなみに、能力は次の通りになっている。
 

 種族:ビッグフロッグ
 種族特性
【舌強化(小)】【水属性耐性(小)】


 あまり強くはないが、やるだけやってみよう。

「コイツはビッグフロッグだ。さて、どのように対処する?」
「ぐっ、そんな奴に俺のジョンは負けない!」

 そして、俺と少年のモンスターバトルが始まった。

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