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第二章

036 国境の砦

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 俺は今、旅人を装って街道を歩いている。

 目的地は、目の前の砦だ。

 お供には、赤い布を巻いたグレイウルフが一匹。

 ここを通る商人集団にも、モンスターはいた。

 なので逆に一匹くらい連れていた方が、旅人と言っても違和感がない気がする。

 そしてようやく砦に辿り着くと、当然通行を止められた。

「止まれ。身分証と通行料に小金貨一枚だ。手荷物も調べさせてもらう」

 そう言って兵士が手を差し出す。

 どう考えても、通行料が多すぎるだろ。

 だが、これで文句を言えば通してくれない気がする。

「どうした? 早く出せ。もしかして、ドラゴルーラのスパイか?」

 くそ、そう来たか。

 従わなければ、スパイ容疑で身ぐるみを剥がれそうだな。 

 ここは仕方がない、言われた通り支払って通るか。

 暴れてしまえば、それこそ面倒だ。

 俺は溜息を吐くと万能身分と小金貨一枚を差し出し、肩掛けバッグを検査のため出した。

 しかし万能身分を受け取った途端、男の表情が青くなる。
 
「し、失礼いたしました! こちらお返しいたします! 通行料も結構です!」
「そ、そうか……」
「は、はい! オブール王国へようこそおいでなさいました!」
「あ、ああ」

 万能身分証は、その時に適した身分証になる。

 よほど男には、恐ろしい身分証に見えたのだろう。

 俺は男に差し出した物を返してもらい、敬礼されながら砦を通過した。

 ◆ 

 万能身分って、やっぱりチートだったな。

 下手なスキルを手に入れるより、よっぽど役に立つ。

 キャラクターメイキングの時に選んだのは、やはり間違いでは無かった。

 そして先ほどいたのがドラゴルーラという国で、ここはオブール王国という国らしい。

 違いはまだ分からないが、両国はそこまで友好的ではないようだ。

 商人が行きかっていることから、断交まではいっていない。

 だが両国の仲が微妙というのは、個人的には大歓迎だ。

 俺がドラゴルーラでやったことは、この国でそこまで問題にはならないだろう。

 むしろ俺を逃がしたのは、ドラゴルーラにとって汚点になったかもしれない。

 なので、そもそも知られずにいる可能性もある。

 どちらにしても、これからは気を休めることができるだろう。

 次の村か街で、久々に宿をとるのもいいな。

 ずっと野宿だったし、そろそろベッドで横になりたい。

 グレイウルフとホーンラビットを寝具にするのもいいが、やはりたまにはベッドで寝たいと思ってしまう。

 思い立ったが吉日というし、今日中の到着を目指すことにした。

 俺はグレイウルフをカードに戻すと、街道から少し外れてから駆けだす。

 常人から逸脱しない程度の速度なので、辿り着くのに少々時間がかかってしまった。

 街道沿いにあったのは村であり、国境の砦と近いこともあって宿が多い。

 今回は久々のベッドだし、少し奮発しよう。

 そう思った俺は、村の中にある小奇麗こぎれいな宿屋に入る。

「一泊頼む」

 俺がそう言うと、店主が俺を睨みつけて後ろを指差した。

 そこには、何やらドラゴンのようなマークが描かれた、木の板が見える。

「アレが見えないのか? ここはテイマー様とサモナー様限定の宿屋だ。それ以外は出ていきな」

 なるほど。モンスターを従える者をテイマーといい、この国では特別扱いされているらしい。

 サモナーは、おそらく召喚士だろうか?

 そういえば以前ゴブリンのダンジョンで、襲ってきたやつが俺のことをテイマーとか言っていたな。

 宿には泊まりたいし、こうしよう。

 なので俺はこっそり袖の下にグリーンスネークを召喚すると、ゆっくり出てくるように指示を出す。

「何を言っているんだ? 俺はテイマーなんだが? これが見えなかったのか?」

 俺は袖の下から這い出てくるグリーンスネークを、店主に向ける。

「うぉっ!? テ、テイマー様でしたか! こ、これは失礼いたしました! お値段は割り引きますので、何卒お許しを!」
「はあ、別に構わないが」
「あ、ありがとうございます!」

 なんだこの変わり身は……。

 この国ではそこまで、テイマーは特別な存在なのだろうか?

 だが砦の門番の兵士は俺のグレイウルフを見ても、そこまで態度に変化は無かった。

 近くにはいないだけで、あの兵士もテイマーだったのだろうか?

 そういえば、得た情報の中にモンスターの面倒をみる係りがどうとかあったな。

 おそらく、門番の兵士のモンスターは、砦の中にいたのだろう。

 むしろ、万能身分証の時の方が凄かったな。

 そう考えると、納得だ。

 いや、それともこの男が異常なだけか?

 俺はそんな風に不思議に思いながらも、一泊分の値段を払って宿に泊まる。

 またモンスターを部屋に入れても、問題はないようだ。 

 外はまだ少し明るいが、今日はもうゆっくりすることに決めた。

 備え付けのベッドに座ると、一息つく。

 ようやく、心を落ち着かせることができるな。

 思えばタヌゥカを切っ掛けに、ここまで苦労することになった。

 原因は、あいつを調子に乗せすぎたことだろうか。

 ホワイトキングダイルを倒したことも言って、文句があればタヌゥカをその場で分からせれば良かったのかもしれない。

 だがそれだと、それはそれで別の問題を発生させる気がする。

 結局何が正解かは、俺にも分からなかった。

 ただ言えることは、舐めた口を利いたやつに何も対処しないと、面倒になるということだ。

 次に似たような奴が現れたら、先に自分の力をある程度示しておく方がいいだろう。

 そうすれば、結末は変わるかもしれない。

 あとは、転移者を殺害した時に手に入った称号か。


 名称:転移者の天敵
 効果
 ・転移者に与えるダメージが50%上昇する。
 ・転移者から受けるダメージが50%減少する。
 ・転移者を殺害した際のポイントが倍になる。


 元々は転移者殺しという称号だった。それが進化して転移者の天敵になっている。

 効果は見た通り、凄まじい。

 転移者に対しては、かなりの優位に立てる。

 元の転移者殺しは、それよりマイルドな効果だったのだろう。

 ちなみに、デミゴッドの種族特性である全種族特攻と合わせると、更に凶悪になる。


 名称:全種族特攻
 効果
 全ての種族に対して与えるダメージが50%上昇する。


 これまで多くの強敵を一撃で沈めてきたが、この種族特性が大いに助けになっていた。

 そして転移者に限り、俺の与えるダメージは効果が合わさって100%上昇、つまり二倍になる。

 大抵の転移者であれば、一発大きなのを当てれば倒せるだろう。

 しかし転移者はどのような神授スキルを持っているのか分からないので、油断はできない。

 また転移者を殺害した際に手に入ったポイントは、本来10ポイントのようだ。

 それが称号の転移者の天敵で20ポイントになり、二重取りで更に20ポイント追加で合計40ポイントになっている。

 普通なら四人殺害する事で手に入るポイントを、俺は一度で手に入れてしまった。

 これは、間違いなくチートだろう。

 そして肝心のポイントの使い道だが、自身の所有するスキルをランクアップできるらしい。

 他にも1ポイントで1歳若返ることができる。

 また性別や名前も、変えることができるようだ。

 しかし種族、種族特性、神授スキル、エクストラについては何もできそうにはない。

 それができてしまうと、十五人殺害してデミゴッドに種族変更する者が現れかねないので、心底安心した。

 つまりポイントの主な使い道は、スキルの強化になる。
 
 今回得たポイントは40なので、慎重に使い道を考えようと思う。
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