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第一章

033 復讐の果てに

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「そ、そうか。お前は魔王なのか! そして俺は英雄、いや勇者になる! これは試練だ。主人公の俺が乗り越える試練なんだ!」

 すると立ち上がったタヌゥカは、そう言って手放していなかった剣を振るう。

 剣は眩く光っており、おそらく撃滅斬を放つと思われた。

 それに対して、俺は・・何もしない。

「喰らえ! 撃滅斬!」

 迫りくる力の奔流ほんりゅう。それを、ホワイトキングダイルの幻影が迎え撃つ。

 幻影からウォーターブレスが発射され、撃滅斬を相殺した。

「その程度か?」
「なっ、嘘だろ!? なんだよそれ! よく見ればイレギュラーモンスターじゃないか! どういうことだよ! チートだ! ふざけるな!」

 タヌゥカがホワイトキングダイルの幻影を指さして、みっともなくそう叫ぶ。

「ファイアボール!」

 続いてタヌゥカがファイアボールを無数に放ってくるが、それよりも小さな水弾が撃ち抜いていく。

 これは、ホワイトキングダイルの水弾連射だ。

「ぐぁあ!?」

 当然ファイアボールよりも連射性は高く、無防備なタヌゥカに直撃した。

 それで殺さないように手加減したが、無様に転がったタヌゥカは立ち上がると、情けなくも逃げ出す。

「どこへ行くんだ?」
「あ、悪魔が!」

 引き上げられた身体能力で一瞬にして回り込むと、タヌゥカは足をガクガクさせながら後ずさる。

 その間に俺はホワイトキングダイルの幻影を首だけにして、右手に移す。

 ちなみに幻影は現れた時に俺の背丈に調整されたのか、小さくなっていたりする。

 ふむ、おそらくだが、幻影は物に干渉できるだろう。

 半実体化といったところか。

 それよりも狂化を発動させているが、少しずつ慣れてきたな。

 もちろん、怒りと暴れたい衝動はある。

 だが、思考が染まり切ることはない。

 むしろ怒りの対象をなぶるのであれば、逆に思考がクリアになるほどだ。

 そう思いながら右手を閉じたり開いたりすると、連動してホワイトキングダイルの幻影のあぎとも動く。

「お、おい。何をする気だよ。あ、謝る。許してくれ! そ、そうだ。俺が仲間になるよ。女だって用意するからさ! 俺と君が組めば、最強だ! なあ、そうだろ?」
「黙れ」
「ひぎぃ!?」

 あまりに醜いので、幻影を動かしてタヌゥカの右腕を噛み千切る。

「ふむ、バランスが悪そうだ。左も千切ってやろう」
「や、やめっ、ぐぁあっ!?」

 続けて左腕も、幻影で噛み千切った。

 するとタヌゥカは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらも、何とか駆けだす。

「逃がすわけがないだろ?」

 右手の幻影を振るうと、細いウォーターブレスがタヌゥカの両足を斬り飛ばした。

 それにより、タヌゥカは地面へと転がる。

「あ、あぁあ。死にたくない。俺は主人公だ。ここから覚醒するんだ……」

 はあ、つまらん。もう飽きたな。

 抵抗する気がなくなったタヌゥカは、妄想を垂れ流すだけになってしまった。
 
 なので飽きた俺は、ここで終わらすことにする。

 けれどもそれは、楽な終わり方ではない。

「いでよ。ゴブリンども」
「「「ごぶ!」」」

 俺の言葉により、無数のゴブリンたちが召喚される。

「そいつを生きたまま喰らえ」

 俺の命令を聞いたゴブリンたちが、タヌゥカへと向っていく。

「や、やめっ、こんな終わり方嫌だ! だ、誰かたすけッ――」
「「「ごぶが!」」」

 そうしてタヌゥカは、生きたままゴブリンたちに喰われて死亡した。

 こいつには、十分すぎる死に方だな。
 
 そんな風に思っていると、突如として脳内に声が聞こえてくる。

『転移者初の転移者殺しを達成いたしました。称号【転移者殺し】を獲得します』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。称号【転移者殺し】を獲得します』
『称号が重複しているため、称号が統合されました。称号【転移者殺し】は、称号【転移者の天敵】に進化しました』

 どうやら俺は、異世界で初めて転移者を殺した転移者になったらしい。

 既に半月くらいは経っているので、達成できたことを意外に感じた。

 もしかしたら転移者同士が出会うのは、まだ珍しかったのかもしれない。

 それかお互いの神授スキルを警戒して、殺し合いに発展していないのだろう。

 そもそも殺し合いに発展するほうが稀で、案外仲良くしている可能性もある。

 俺が称号という新しい概念に対してそう思っていると、再び脳内に声が聞こえた。

『転移者を殺害したことにより、20ポイント獲得しました』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。追加で20ポイント獲得します』

 はぁ、そういうことか。これでは、仲良くするのは難しそうだな。

 これがもし転移者に知れ渡れば、転移者同士の殺し合いが頻発するだろう。

 いろいろ気になることはあるし、調べたいこともある。

 だがそろそろ、ゆっくりはしていられないな。

 周囲を見れば、壁の上部に多くの人の姿が見えた。

 唯一の出入り口にも、姿が見える。

 まあ、この見た目でゴブリンたちを召喚すれば、モンスターを使役するという敵国の人間にしか見えないよな。

 しかしこうなることは、何となく予想していた。

 なのでこの場所を選んだのも、わざとである。

 プリミナたちの事は気になるし、恩返しを出来ていなかった事が心残りだ。

 けれどもそれは、もうどうしようもない。

 タヌゥカを倒したことで、復讐自体は果たされている。

 いつか戻ってこれることがあれば、その時は顔を合わせて恩返しをしよう。

 俺はゴブリンたちをカードに戻すと、国境門へと駆けだした。

 すると様子をうかがっていた周囲から、怒号と共に魔法と矢などが飛んでくる。

 それをホワイトキングダイルの幻影が、ライトウェーブや水弾連射で撃ち落としていく。

 デミゴッドの身体能力+シャドーアーマー+狂化が、身体能力を引き上げる。

 更に幻影が現れてから、ホワイトキングダイルの力も一部加わっていた。

 俺を捕らえることは、並大抵のことじゃないだろう。

 それに周囲には、実力者の姿が見えなかった。

 俺を現在攻撃しているのは、軍に所属している者のようだ。

 いずれ実力者も現れるかもしれないが、それより俺が逃げ切る方が速い。

 そうして誰にも止められることなく、国境門へと辿り着いた。

 一瞬この国で交友を深めた者たちの顔が、脳裏に浮かぶ

 もう出会うことがないかもしれない人たちを思いながら、俺は進む。
 
 国境門は既に開いているので、勢いのままに先へと飛び込んだ。

 モンスターを使役する国とは、いったいどのような国なのだろうか。

 俺は別れを惜しみながらも、新たな出会いに期待を膨らませるのであった。

 __________
 
 第一章は、これにて完結です。
 ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。

 第二章も引き続き、更新していきます。
 執筆の励みになりますので、応援して頂けるとありがたいです。

 そして第二章からは、更新話数が少なくなります。(^-^;
 一日三話更新は、流石に地獄でした。

 他の作品も書いていたので、実質四話更新です。

 しかし期待に応えて、一日二話更新することにしました。
 限界が来たら、一日一話更新になると思います。(^-^;
 
 そういう訳で引き続き、この作品をどうぞよろしくお願いいたします。

 乃神レンガ
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