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第一章

030 戦争準備と連携確認

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 街に戻ると、パーティで借りている家があるという。

 中心地から外れているが、治安は良い方らしい。

 着けば庭付きの一軒家であり、それなりに大きく見えた。

 客用の部屋があるので、パーティに加入している間はそこを貸してくれるようである。

 加入したばかりだが、かなり信用されているようだ。

 マッドクラブで仲良くなったというのもあるが、ゲゾルグの虫の知らせで助けられたということが大きいらしい。

 虫の知らせは、ゲゾルグにとってよくないことを知らせてくれるとのこと。

 それで俺の元に導かれたという事は、逆に助けたことによってゲゾルグに幸運をもたらすという。

 パーティメンバーも、ゲゾルグの虫の知らせについて強く信頼しているようだ。

 そして外はもう暗くなっていたので、軽く歓迎会を兼ねた夕食を頂く。

 夕食は何とジェイクの手作りで、かなりのレベルである。

 冒険者引退後は、店を持つことが夢らしい。

 夕食後は魔力欠乏症からも回復していたので、皆に清潔を発動させると喜ばれた。

 特にプリミナは目を輝かせ、改めて中級生活魔法の習得を目指すことにしたようだ。

 そして最後は与えられた部屋に行き、横になる。

 疲れがそうとう溜まっていたからか、眠りにつくのは一瞬だった。

 ◆

 翌朝目が覚めて朝支度と朝食を終えると、冒険者ギルドに全員で向かう。

 俺とゲゾルグはパーティメンバー追加の申請を出すため、専用の窓口に並ぶ。

 他のメンバーはその間に、依頼の報告をするようだ。

 そしてパーティ加入はあっさりと済み、俺は正式に幸運の蝶の仲間になった。

「これからよろしくな!」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 笑みを浮かべてそう言ったゲゾルグに、俺はそう言葉を返す。

 また俺たちの方が早く用事が済んだので、戦争関連のことを知るため掲示板に向かった。

「もう掲載されているようだな。戦争は四日後か。今回はかなり余裕があるな」
「四日後で余裕があるのか?」

 国境門が開いたのが昨日の夜明けという事を考えれば、準備期間は五日だったということになる。

 俺の感覚では早すぎると思ったが、ゲゾルグからすれば違うようだ。

「まあな。開いた瞬間に進軍してくることも多いし、宣戦布告をしてくるだけ相手はまだまともだな。それに、国境門が開く予兆が判明した時から、領主は戦争の準備をしておくものだ。だから準備自体はできているんだよ」
「なるほど」

 どうやら戦争の準備は既にできているようで、今回宣戦布告してきたこと自体が珍しいらしい。

 国境門が開いた先の国は、友好的な国が少ないようだ。

 これは、同じ国の同じ場所と繋がることが、そもそも少ないことも影響しているだろう。

「今の内に参加申請しておくか。途中参加も可能のようだが、開戦前に現地にいた方がいいからな。これから準備をするぞ」

 そうしてゲゾルグは戦争時に用意される専用窓口で、参加申請を行う。

 報酬は冒険者パーティのランクに応じて変わり、活躍すればその分追加で報酬が得られるようだ。

 これでギルドでのやることも終えたので、他のメンバーが戻ってくると、一度家に戻ることになった。

 戦争は数ヶ月続くこともあり、あまりに長く続くようであれば、国境門が先に閉じてしまうらしい。

 なのでテントや食料、生活必需品など運ぶものは多岐に渡る。

 もちろん現地での配給もあるが、それで満たされるものではない。

 ゲゾルグはアイテムバッグを所持しているが、入るのはバッグの入り口の大きさまでだ。

 いつもはオークを小分けにした物を、収納する為に使っているらしい。

 だが今回は俺がストレージを所持しているので、大きな荷物は俺が預かることになった。

 もちろん全てではなく、最低限のものは全員持つようにしている。

「ジン君の収納スキル、容量が凄いわね。収納スキル自体貴重なのに、羨ましいわ」
「こりゃ便利だ。毎回大荷物を運ぶのは面倒だったからありがたい」
「荷物はいつも俺が多く運んでいたから、普通に助かるぜ」
「斥候の俺は非力だからな。敏捷性も下がらずに済むし、最高だ」

 冒険者にとって荷物を如何いかにして運ぶかというのは、一つの課題のようだ。

 それゆえに、収納系スキル所持者は取り合いになる。

 四人の喜びようは、相当のものだった。

「よし、次は足りないものを買いに行こう。おそらく割高だが、仕方がない」

 続いてまとめた荷物で不足していた物を、街へ買いに行く。

 主に食料や調味料であり、やはり高騰していた。

 整備用品も同様だが、こちらはジェイクが下級武具修復というスキルを所持しており、簡単なものなら直せるらしい。

 他にはポーションや包帯などであったり、野営に必要なものを購入していく。

「これだけあれば、とりあえずは大丈夫だろう。現地に向かうのは明日にするとして、この後はダンジョンで連携の確認をするぞ」

 買い物が終わると、再びダンジョンに行くことになった。

 連携の確認らしいが、俺の為だろう。

 実力も目で確認しておきたいようだ。

 昨日の帰還中は魔力欠乏症ということもあり、一度も戦闘をさせてもらえなかった。

 代わりに、四人の実力は見せてもらっている。

 Cランク上位という事もあって、オークなどは相手にならないようだ。

 四人は普段二層目でオーク狩りで稼ぎつつ、月に一度四階層目に行く感じらしい。

 四階層目は一階層目と同様草原地帯になっているようで、危険だが素材が高く売れるモンスターが出るようだ。

 いずれは、俺も行ってみたい。
 
 そういうわけでダンジョンにやってくると、まずは俺の戦闘を見せることになる。

 剣を抜いて、現れたゴブリンの首を斬り飛ばす。

「おおっ、速いな」
「あの剣、おそらく安物だろうな。それでゴブリンの首を飛ばすのは、普通に凄いぞ」
「あいつ、俺より速くね?」
「ジン君、後衛メインだと思っていたけど、前衛も十分いけそうね」

 たった一戦だが、四人は俺の実力をある程度読み取れたようだ。

 しかし、これだけではないことを証明する。

「いでよ、ゴブリン軍団」
「「「ごっぶ!」」」

 続いてグレイウルフが一度に三匹現れたので、ゴブリン軍団+ホブゴブリンを召喚して突撃させた。

「えぐいな」
「あのホブゴブリン、ヤバいだろ」
「ああ、普通の個体より強そうだ」
「あの数のゴブリンは、流石に鳥肌になるわね」

 そして倒したグレイウルフをカード化して、ゴブリン軍団もカードに戻す。

 ここまで見せたのは、仮に欲しいモンスターが現れた際に、我慢したくなかったからだ。

 先に見せておけば、その時スムーズにいくだろう。

「カード召喚術か、想像以上に凄いスキルだったな」
「今はゴブリンだが、いずれドラゴン軍団とかになった場合、国とも戦えるだろう」
「こりゃもしかして、歴史に名を残す英雄かもな」
「接近戦も出来て魔力も凄くて、大量のモンスターまで召喚できる……容姿も優れているし、ジン君はもしかして、高位貴族のご子息かしら?」

 すると俺の予想を超えて、四人は動揺しているようだった。

 特に高位貴族の子息と間違えられたのは勘弁願いたいたので、そこは訂正しておく。

「俺は普通の平民だ。貴族じゃないぞ」
「……そういう事にしておくわね」
「こんな平民いるかよ……」
「いや、最近タヌゥカという凄い平民がいたような」
「俺はタヌゥカを見たことあるが、どう考えてもジンの方がヤバいぞ」

 訂正したが、これは中々信じてもらえないようだ。

 けれどもそれで態度は特に変わらないので、そこは安心した。

 それと、タヌゥカも有名らしい。

 ジェイクは噂程度を知っているだけだったが、サンザは実際に見たことがあるようだ。

 実際戦えば、俺が勝つ確率の方が高いだろう。

 神授スキルの撃滅斬さえ喰らわなければ、問題はない。

 それから四人が落ち着きをとり戻すと、ようやく連携についての話になる。

 四人のこれまでのポジションは、以下の通りらしい。

 ゲゾルグ=メインアタッカー
 ジェイク=タンク
 サンザ=遊撃と道具による援護
 プリミナ=回復魔法と攻撃魔法による援護

 見れば分かる通り、バランスの取れた良い構成になっている。

 なので結果として俺は、プリミナの護衛兼モンスターによる支援が主な役割になった。

 これは一日では連携に組み込むのは難しく、戦争ではヒーラーが真っ先に狙われるのも理由らしい。

 加えて俺がやられた場合、ストレージの荷物が失われることを警戒してのことになる。

 収納系スキル保持者が亡くなった場合、その中身は永遠に取り出せなくなるようだ。

 あとはどうしようもない危機に陥った際に、二階層で練習していた切り札を切るように言われている。

 なのでなるべく、俺のことを温存させておきたい狙いもあるようだ。

 率先して戦闘に参加できないのは少々残念だが、悪くないポジションだと思う。

 軍団行動のスキルがあるので、この機会に色々学ぶことにする。

 モンスター軍団以外との連携も、経験しておく必要があった。

 今後こうして他の人と組むことはあるだろうし、何時までも苦手なままではいられない。

 それから昼までパーティでの連携練習を終えると、昼食後は休暇となった。

 戦争になったらしばらく休みは無いので、それぞれ自由に過ごす。

 しかし俺は特にすることがなかったので、時間を持て余していた。
 
 するとプリミナに買い物に誘われたので、同行することになる。

 服屋や装飾品店を回り、購入したものは俺がストレージにしまう。

 途中腕などが組まれたりしたが、恋愛的要素はない。

 どちらかというと、可愛い弟ができたような感じだろうか。

 この体は十五歳だし、プリミナとは一回り近く離れている。

 それよりも、あの三人の内誰かを誘わないのかと思った。

 けれども藪蛇になったら嫌なので、訊くのは止めておく。

 まだそこまで知るほどの仲でもないしな。

 そうして時間が過ぎていき、プリミナと近くの店で夕食をとってから帰宅する。

 だいぶ遅くなったが、他に誰も帰って来てはいないようだ。

「誰も帰って来ていないのか」
「どうせ、朝まで返ってこないわ」
「え?」

 思わずつぶやくと、プリミナが冷たくそう言った。

「あのバカたちはね。戦争前は毎回娼館に行くの。ジン君は、あんな大人になっちゃダメよ?」
「あ、ああ……」

 これは、このパーティで恋愛の問題が起こることはないだろう。

 プリミナは、あの三人を恋愛対象として全く見ていない。

 それが、俺にすら分かってしまう。

 嫉妬など皆無で、呆れがほとんどを占めているようだ。

 それから結局三人が帰って来たのは、早朝の出発前ギリギリだった。
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