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第一章

014 雑談を切っ掛けに世界を知る。

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 二人からお礼をもらった後は、しばらく雑談をした。

 これまで何をしていたかとか、冒険者ではこういうのを注意するべきだとかを聞く。

 そしてエーゲルがスキルオーブを持っていた理由も教えてもらった。

 どうやらパーティでダンジョンに潜ったものの、ボス戦でエーゲル以外が全滅したらしい。

 なんとか生き抜いたエーゲルは、ボス戦後の宝箱で偶然このスキルオーブを手にしたとのこと。

 しかしそこからエーゲルは無気力になり、気分転換に旅に出たようだ。

 結果として盗賊に捕まり、今に至る。

 盗賊たちが手に入れた物を売る前だったので、運良くスキルオーブが残っていたらしい。

 闇属性は適性者が少ないらしく、使われなかったのはそれが原因だという。

 そもそも貴重な属性適性を持っていれば、盗賊にはならない。

 簡単な属性魔法であれば、街などで手に入るとエーゲルは言っていた。

 地道な下積みを続けるか、自身を担保に借金をすることで手に入れる者はそれなりにいるらしい。

 属性魔法が使えれば、大抵借金は返済できるみたいだ。

 稀に怪我や精神的な問題で借金を返せず、奴隷落ちする者もいるみたいだが。

 属性魔法は有用だが、習得するのは色々大変だという事は理解した。

 そんな属性魔法のスキルオーブをくれたのは、かなりのことだ。

 売れば、それなりの金銭にはなったはずである。

 現状属性魔法の攻撃手段は無いし、これは覚えてみるのもありだろう。

 それと、ランジの旅の理由も聞くことができた。

 どうやらランジは幼馴染たちと冒険者になったが、元々のスキルが一つしかないことを理由に追放されたらしい。

 冒険者ランクはこれでもDランクであり、追放されたのはもう少しでCランクが届きそうなときだったとのこと。

 その傷心で旅を始めたら、運悪く盗賊と遭遇。

 本来盗賊如きには負けないが、頭目だけが異様に強く、数の差もあって敗れたらしい。

 エーゲルも、あの頭目と人数差にやられたのだという。

 俺の記憶だと、頭目はグレイウルフたちに群がられて沈んだ印象しかない。

 実はあの頭目、あれで強かったのだろう。

 不意打ちと数で勝っていた盗賊が、その逆をやられたという訳だ。

 正に因果応報である。

 そういう訳でランジは盗賊に捕まり、傷心した心に新たな傷を作ってしまう。

 偶然俺が救出をしたが、来なければ奴隷になって鉱山労働か防衛奴隷になっていたらしい。

 はて、防衛奴隷とはなんだろうか?

 聞き覚えのない奴隷の就労先が気になり、俺は防衛奴隷について問いかけてみた。

 すると二人は不思議そうな顔をしたが、教えてくれる。

 防衛奴隷とは、国境門が開いたときに現れる侵略者から、名称通り防衛をする奴隷のことらしい。

 国境門からの侵略者?

 さらに深堀して聞いてみると、どこの未開の地からやって来たのかと呆れられた。

 それくらい、当たり前の知識とのこと。

 どうやら国境門とは数カ月に一度開き、ランダムに他国の国境門と繋がる場所なのだとか。

 しかし友好的な国ばかりではなく、開いた途端に侵略してくる国もあるのだという。

 更に中には国境門が魔境にあり、モンスターが跋扈ばっこしている地域の可能性もあるようだ。

 そうした存在に国が侵略されないため、国境門は辺境伯軍や冒険者、防衛奴隷などが守っているらしい。

 なるほど。この異世界には、そんな不思議な門があるのか。

 そういえば、Bランク以上になると他国にも行けるとギルドで登録時に聞いたが、そこのところはどうなのだろう。

 貴重な戦力を国外に出すのは、国としては嫌なはずだが。

 Bランク以上が強すぎて、止められないからそうなのだろうか?

 そう思いつつ聞いてみると、Bランク以上が他国に行けるのは、創造神ルートディアスが決めたことなので当たり前らしい。

 創造神ルートディアス? もしかして、白い空間で聞こえた声の人物だろうか。

 この回答は二重取りで報酬が増えたとき、受付嬢が平然としていたのと似た雰囲気がする。

 ちなみに訊いてみれば創造神ルートディアスとは、この世界を創り、ダンジョンと国境門という試練を与え、冒険者ギルドと通貨、言語を統一させた神なのだという。

 いろいろ情報が多くてヤバイ。

 それでこの世界に神授スキルを手にした者たちをぶち込んだのだから、大した神である。

 確かあの白い空間で、こんなことを言っていたな。

『選ばれし者たちよ。突然だが君たちには、異世界に行ってもらう。そこでしたいことをすがよい』

 結局のところ使命はなく、自由に生きろということだろう。

 うーん。混沌とする未来しか見えない。

 下手をすると神授スキル所持者を手にした国々による、侵略戦争の激化が起きそうだ。

 いや、国境門は数カ月に一度開き、閉じれば同じ国と繋がる確率は低いだろうし、侵略しても旨味はないのか? 精々略奪か?

 そこについて更に訊いてみると、侵略などによって国が降伏したときや損耗がいちじるしい場合、ランダムに土地などが相手の国に移るのだという。

 確率としては価値の低い場所が多いが、稀に有用な土地や街が奪われるらしい。

 なんというか、戦争を助長させるようなシステムだ。

 どう考えても、創造神は人々が争うことを目的にしてるだろ。

 自由に生きろというのは、こういうことか。

 チートを与えて好きにさせたら、一定数ヒャッハーしそうだ。

 そういう俺も、モンスターを集めて最強の軍団を作ろうとしているんだよな……。

 うん、十分俺もヒャッハー勢だ。

 色々と気になる部分はあるが、今回はこの辺でいいだろう。

 正直情報が多すぎて、流石に疲れた。

 それとこの世界では当たり前の事を訊きすぎて、二人に不審がられているというのもある。

 恩人でなければ、正気を疑うレベルだろう。

 例えるなら、日本人が東京やスカイツリーを知らないレベルなのかもしれない。

 東京でいきなり「東京ってなんですか?」って訊かれたら、「なに言ってんだこいつ……」ってなるよな。

 そう考えると、二人には酷い質問をしてしまった。

 このヘンな空気にも頷ける。

 そこからは当たり障りのない会話をして、時間を潰した。

 すると暫くして、ハプンがやってくる。

「皆さんお揃いでしたか。実はジンさんに少々お話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないが」

 この空気を少しでも入れ替えたいので、俺はそう答えた。

「それはよかった。できれば二人きりで話したいのですが……」
「じゃあ僕たちは席を外すよ。ランジ、行くよ」
「あ、ああ、分かった。ジン君また後でな」

 そうしてハプンと二人きりになったが、何だか嫌な予感がする。

 ヘンなお願いをされなければ良いのだが……。

 だが俺の考えもむなしく、ハプンから驚くべき内容が発せられた。

「ど、どうか息子ハンスとパーティを組んで、鍛えてやってほしいのです!」
「え、絶対に嫌だが」
「そ、そんな……」

 何言ってんだコイツ?

 道中のやり取りを、見ていなかったのだろうか。

 ハプン自身は善良だが、親バカすぎて手に負えないな。

 なぜ俺が、ハンスの面倒を見なければならないのだろうか。
 
 そもそも、ハンスは俺のこと嫌いを通り越して恨んでいるだろ。

 そんな奴が、俺に鍛えられたいと思うはずがない。

 つまり、これはハプンの暴走だろう。

 サマンサはまだまともそうだったし、ハプン一人の判断だな。

 さて、これはどうしたものか。
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