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第2章

024 再び日中に外へ

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「凛也君、おかえりなさい」
「おかえりなさい! 無事でなによりです」
「わぁ、大量ですね!」
「ああ、今戻った」

 秘密基地に戻ってくると、三人が出迎えてくれる。

 俺は早速小学校で受け取った食べ物を確認することにした。

 四人でキッチンに向かい、中央のアイランドに食べ物を取り出して並べていく。

 基本的には保存食ばかりだが、新鮮な野菜なども含まれており、大変ありがたい。

 量としては、成人男性一人が一週間なんとか生きていけるくらいだ。

 四人いるので当然不足しているが、あるのと無いのとではかなり違う。

 それに、男性には保護金が月に一度支給されるので、足りなければ買いに行けばいい。

 今はお兄ちゃん保護法で守られているので、買い物も行けるはずだ。

 ちなみに食べ物の配給は月に二回ほどあるらしい。

 そして気になる保護金は十万円だ。

 食べ物の配給と保護金があれば、余裕で生きて行けるだろう。

 しかし、これはあくまでも男性だけだ。

 女性はこの恩恵を受けられない。

 シスターモンスターは、女性に良い意味でも悪い意味でも興味が薄く、男性に対しては逆にそれだけ執着があるということだろう。

 そうして食べ物の確認を終えて冷蔵庫や備蓄倉庫へとしまっておく。

 食料問題が多少なりとも改善されたことで、俺たちの生活は少し楽になった。



 翌日からは情報収集をしつつ、俺は率先して外の様子を見に行くことにした。

 自分だけ外に出ることに少々良心が痛むが、仕方がない。

 三人にも、軽く偵察をしてくると言っている。

 そして今回様子を見に行く場所は、商店街だ。

 商店街がある場所は、公園エリアから南に行くと辿り着ける。

 以前は様々な老若男女が行き来していたが、今では若い女性と少女ばかりだ。

 もちろん普通の人間ではなく、シスターモンスターである。

 俺は冷や汗を流しながらも、この商店街を歩く。

 何故このように無謀なことをしているかというと、今後の為に他ならない。

 商店街を無事に歩くことができれば、必要な物を買うことができる。

 流石にコンビニだけでは、限度があるのだ。

 なので俺は人の少ないところを軽く偵察してくると嘘をついて、この商店街へとやってきた。

 心配なのは、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんは騙せても、鬱実にはバレてしまうということだ。

 おそらく、俺が予定とは違う方向に向かったことには既に気が付いているだろう。

 しかし、それについては既に気にしていない。

 何故ならば、俺が秘密基地に戻る頃には大量の物を手にして戻ることになるからだ。

 最初からバレることは織り込み済みである。

 そういう訳で、俺はこのような無茶をしていた。

「お兄ちゃんだ……」
「襲いたい……」
「弟くんだわ」
「保護法が無ければ……」
「お兄ちゃんから襲ってくれれば……」
「かっこいい……」

 こんな場所を歩いていれば当然、シスターモンスターからの視線に晒される。

 俺の心臓はバクバクだが、気にせず進む。

 そうしてまず入ったのはドラッグストアだ。

 常備薬などを買い込んでおく。

 この世界で病気になったときは、かなり致命的だ。

 正直、医者に診てもらうにしても、相手はシスターモンスターになる。

 今はお兄ちゃん保護法で男性なら問題なく見てもらえるかもしれないが、女性の場合どうなるか分からない。

 そのため、病気にならないように普段から気をつける必要があった。

 しかし、備えは常に必要だ。

 俺は無事に常備薬などを買い終わると、靴屋にやってくる。

 買うのは、動きやすいスニーカーだ。

 鬱実は秘密基地内に他の靴を置いていたが、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんはローファーしか持っていない。

 今後外に出るときのために、動きやすい靴は必要だ。

 サイズは事前にそれとなく確認している。

 念のため、鬱実の分も購入した。

 一人だけ買わないのは仲間外れになってしまう。

 そして次に向かうのは、一番時間がかかりそうな服屋だ。

 服のサイズに関しては、鬱実に聞いている。

 何故か興奮しながら夢香ちゃんと瑠理香ちゃんの服のサイズを教えてくれた。

 二人には申し訳ないが、これも服を買うためだ。

 ちなみに、鬱実のも知っている。

 二人のサイズを訊いたら勝手に鬱実自身のサイズも教えてくれた。

 まあ鬱実のことはともかく、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんの服が不足している。

 制服以外には、俺や鬱実の着られそうな服を貸している状態だ。

 俺の服をよく借りたがるが、そこまで服を持っているわけではないので、いずれ買っておきたいと考えていた。

 そういう訳で、俺は服屋で二人の服を何種類か購入する。

 正直女の子の服はよくわからないので、シンプルなものをチョイスしてしまう。

 まあ、今後また来る機会があれば、その前に要望を訊けばいいか。

「あらあら弟くん、女性ものの服ばかり選んでいるけど、どうしてかしら? 弟くんにはこいうのも似合うと思うけど?」

 すると、店員のシスターモンスターがやってきて、不思議そうに訊いてくる。

「じ、実は自分で着ようと思って」

 俺は反射的に、思わず変な嘘をついてしまった。

 更に運が悪いことに、このシスターモンスターは嘘を見破るタイプのようである。

「へ~。何で嘘をつくのかしら? 弟くんが嘘をついているの、お姉ちゃん分かるんだよ? ねえ、なんで? なんでお姉ちゃんに嘘をつくのかな?」

 これはまずい。いくらお兄ちゃん保護法に守られているといっても、それを無視して襲ってくる可能性があるかもしれない。

 どうするべきだ? いや、ここはできるだけ真実を言うべきか。嘘を重ねた方がまずい。

「ごめんごめん。突然だったから、動揺してつい嘘をついちゃったよ。実はこの服、友達へのサプライズプレゼントなんだ。本当は買うのが恥ずかしいんだよ。それなのに声をかけらたら、反射的に誤魔化しちゃって」

 嘘ではない。さあ、どうなる?

 俺は緊張しながらも、シスターモンスターの言葉を待った。

「そうなんだ。お姉ちゃん、勘違いしちゃった。ごめんね。そうだ。お詫びに、お姉ちゃんが弟くんに服をプレゼントするね。私、弟くんに似合いそうな服を見つけたの!」

 これは、受け入れた方がいいよな。断ったら断ったで、面倒なことになりそうだ。

 それからシスターモンスターに服をプレゼントされつつ、俺は三人への服の購入も済ませた。

 だいぶ荷物も増えてきたので、そろそろ秘密基地に戻った方が良いかもしれない。

 こんなことなら、リュックサックを持ってくるべきだった。

 でも軽く偵察してくるといって外に出たのに、リュックサックを背負って行こうとしたら怪しまれたよな。

 両手は既にいっぱいいっぱいになったので、ここが潮時だと俺は判断した。

 そして商店街から帰るために歩いていると、それに合わせるようにシスターモンスターたちがついてくる。

 俺が足を止めると、シスターモンスターたちも足を止めた。

 振り返ると、ニコニコと笑みを浮かべるだけで、何かを言ってくることは無い。

 何でついてくるんだよ……。

 俺は怖くなって、その場から駆け出す。当然、シスターモンスターたちも走り出した。

 まじかよ。完全に付きまとわれているぞ。

 このまま秘密基地にへと帰還する訳にはいかなくなった。

 場所が見つかれば、面倒なことになる。

 俺は一生懸命走って距離を取ろうとするが、シスターモンスターたちは足が速く、体力も無尽蔵のように思えた。

 それに比べて俺は両手に荷物をたくさん持っていることもあり、疲れはすぐにやってくる。

 くそ、どうすればいいんだよ。

「ついてこないでくれ! これは完全にストーカー行為だぞ! 迷惑だ!」

 俺は引き離すことができないと考え、直接シスターモンスターたちに言葉で訴えることにした。

「え~どうしよっかな~」
「噛むことは違法だけど、ついていくことは違法じゃないよ?」
「可愛い弟くんがいたら、追いかけちゃうのも仕方ないじゃない」
「お兄ちゃん家に泊めてよ~。エッチなことしてもいいからさ~」

 しかし、シスターモンスターたちは全く止まる気配がない。

 むしろ、俺が話しかけたことでよりいっそう、執着心が増したのではないかと思えてしまう。

 これは、逆効果だったか。

 足を止めている隙に、シスターモンスターたちは俺の周囲を囲い始める。

 このままでは噛まれはしなくても、拉致されるかもしれない。

 お兄ちゃん保護法は、あくまでも噛みつくことが禁止されているだけだ。

 俺は、自分の考えが甘かったことに、今更ながら気が付く。

 それに拉致された先で仮に噛まれたとして、誰がそれを咎めるというのだろうか。

 証拠が無ければ、捕まらない可能性もある。

 シスターモンスターたちも、それが分かっているのかもしれない。

「久々のお兄ちゃん……」
「順番だからね」
「やっぱり、我慢できないわよね」
「でも、噛みつくのは最低でも全員堪能してからね」
「私の番、回ってくるかな?」

 いや、この反応は確信犯だ。

 捕まったら終わる。

 お兄ちゃん保護法など、いくらでも抜け道があったわけだ。

 言葉で乗り切るのは無理だろう。

 身体能力でもまず勝ち目はない。

 数の上でも圧倒的に不利。

 もしかして、俺はここで死ぬのか?

 くそ、三人には、悪いことをしたな……。

 そんな諦めに似た考えが、脳裏によぎったときだった。

 どこからともなく俺を中心にして、煙幕が広がる。 

「わっ!? なにこれ!?」
「煙幕!?」
「お兄ちゃんが見えない!」
「あ、あっちに逃げた!」
「ほんと!?」
「急がないと逃げちゃう!」
「待てー!」

 そしてシスターモンスターたちが何故か全員、どこかへと走り去っていく音だけが聞こえた。

「いったい何が……」

 俺はその場に立ち尽くす。

 次第に煙幕は晴れていき、隣には見知った人物がいた。

「凛也君、本当に危なかったわね」
「鬱実……」

 俺を助けてくれたのは、秘密基地で待っているはずの鬱実だった。
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