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二章
巡礼の少女と抗う英雄 1
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少女side
あの後、少女は運河の上流にあるとある町に向かう途中で目覚めた。
船を使って運んでくれた運び屋は、リオンに多めにお金を貰ったからと、少女の宿まで世話をしてくれた。
宿でぼんやりと天井を見上げながら、少女は一人考える。どうしてリオンが来てくれたのか、と。
運び屋の人の優しさの理由は理解できた。運び屋は少女が呪われている事を知らなかったし、道中で話してくれた話では、少女ぐらいの年のころの娘がいるそうで、仕事柄頻繁には会えないその子と少女を重ねたと言っていた。
少女は生育環境が悪く、発育が悪いので、多分五才ほど若く見られていたのだろう、幼い女の子に対する同情心もそこにあった気がする。
……きっと少女が普通の孤児だったなら、呪われていなかったのなら、このような優しさを受ける機会も、もっとあったのだろう。
しかし、リオンは少女が呪われていることを知っていたはずだ。しかも、リオンにとって少女は王命で勝手にできた元妻であり、その子供を呪いに巻き込んで殺してしまった張本人だ。
リオンの生活をめちゃくちゃにし、大事なものを奪った少女を気に掛けるリオンの気持ちが今一つ少女には分からなかった。
ふと、孤児院で他の子たちが話していた話を思いだす。
『この間の話、聞いた?王都で有名な遊び人の〇〇様が度重なる遊びのせいで奥様と離縁しそうになったって話』
『聞いた聞いた。今まで色々な方と浮名を流していた〇〇様が奥様に追いすがったって。分からないものよね』
『うーん、きっと今まで自分の物だと思っていた物が離れて行ったから慌てたんじゃない、男の人って自分の所有物がなくなることを嫌がるらしいわよ』
『なるほど、それなら、その内また遊び始めるわね。……なんか、残念』
『なに言ってるのよ、そういった方にお妾ででも貰われたら、勝ち組よ。どうせ売られるなら、みめうるわしいほうがいいわ』
『そうよね』
ーー余計な事も思い出してしまったが、少女はやっとふに落ちた気がした。
そうだ、きっとリオンは自分の物である少女がリオンから離れていった事が気に喰わなかったのだ。それに、少女から別れを切り出したような形になったのも拍車をかけたのだろう。実際はリオンとの約束通りなのだが、リオンから言い出されるのを待つべきだったのだ。
「よし、今度会うことがあったら、助けてもらったお礼を言って、失礼な態度を謝罪して、リオン様から改めてお別れを告げてもらおう」
それで上手くいくはず、と少女は意気込んだ。
そうして、少し休むと、また巡礼の旅に戻っていった。
リオンside
「うわー、見つからねえ……」
リオンは少女の行方を追っていた。が、なぜか探索魔法が阻害されている。
リオンはくさっても英雄なので阻害されても、完璧に使えない事はなかったが、ひどく効率が悪くなっていた。
あの後、運河の他の運び人に、少女を託した運び人の航路など、聞き込みしたが、経路が多すぎて絞り込みが難しかった。
王都は除外したものの、運河はこの地方に張り巡らされており、ある程度大きな町や途中の村には全て運河の停留所があるため行き先を絞ることは困難を極めた。
「はー」
リオンは溜息を吐くと、探索魔法を広域展開させた。
「うぐっ」
魔力がごそっと持っていかれ、一気に体の力が抜ける。今マルスの襲撃を受けたら死んでいただろう。
くらくらとする頭を振ってリオンは何とか少女の痕跡を探そうとした。
ーー少女の痕跡は見つからなかったが、何カ所かが不自然によどんでいる。そこだけ白で塗りつぶされたように何の情報もない。
「これは……」
リオンは眉を寄せると、急いで神殿に向かった。
「何用ですか」
厳めしい神官がリオンを出迎える。あまり歓迎されている風ではない。
リオンはそこで探索魔法を展開する。
キンっとかん高い音が頭の中に響き、魔法が阻害される感覚がした。
「……神の御許で魔の力を使うとは、ふとどきですな」
重苦しい声色で責められて、リオンは確信を得たように言った。
「おまえか、俺の魔法を妨害しているのは」
暫く二人はにらみ合い、やがて神官は目をそらし息を吐いた。
「……私ではございませんよ、英雄殿」
「俺を知ってんのか?」
「ええまあ、神の御許で妨害にあいながらも魔の力を行使できる人、といえばそれくらいしか考え着きませんからな」
「……って事は、なんだ、邪魔してんのは神様だって事か?」
「お答えできかねます」
それが答えのようなものだったが、その理由が知りたいリオンは問い詰めようと神官の方に一歩踏み出す。
目の前に透明な壁ができ、リオンの行く手を阻んだ。神官が動いた様子はないので、神官の言い様が本当なら、神の仕業だろう。
リオンはぐっと口を噛み締め、目の前の壁を吹き飛ばそうとし、そこに声がかかった。
「リオン、久しぶりだね。その魔法を放ってはいけないよ、その代わりと言っては何だが、私が力になろう」
穏やかな声、聞いたことのある声。
振り向いて、その男をを見て、リオンは瞠目した。神官はその場に跪き、祈りと共に神に許しを乞うている。
「元、魔導士団長、か」
「おや?相変わらず、名前で呼んではくれないのかい。まあ、いい、そうだよ」
にこっと笑うその人に全身にはリオンの子にあったのと似たような文様が広がっていた。
あの後、少女は運河の上流にあるとある町に向かう途中で目覚めた。
船を使って運んでくれた運び屋は、リオンに多めにお金を貰ったからと、少女の宿まで世話をしてくれた。
宿でぼんやりと天井を見上げながら、少女は一人考える。どうしてリオンが来てくれたのか、と。
運び屋の人の優しさの理由は理解できた。運び屋は少女が呪われている事を知らなかったし、道中で話してくれた話では、少女ぐらいの年のころの娘がいるそうで、仕事柄頻繁には会えないその子と少女を重ねたと言っていた。
少女は生育環境が悪く、発育が悪いので、多分五才ほど若く見られていたのだろう、幼い女の子に対する同情心もそこにあった気がする。
……きっと少女が普通の孤児だったなら、呪われていなかったのなら、このような優しさを受ける機会も、もっとあったのだろう。
しかし、リオンは少女が呪われていることを知っていたはずだ。しかも、リオンにとって少女は王命で勝手にできた元妻であり、その子供を呪いに巻き込んで殺してしまった張本人だ。
リオンの生活をめちゃくちゃにし、大事なものを奪った少女を気に掛けるリオンの気持ちが今一つ少女には分からなかった。
ふと、孤児院で他の子たちが話していた話を思いだす。
『この間の話、聞いた?王都で有名な遊び人の〇〇様が度重なる遊びのせいで奥様と離縁しそうになったって話』
『聞いた聞いた。今まで色々な方と浮名を流していた〇〇様が奥様に追いすがったって。分からないものよね』
『うーん、きっと今まで自分の物だと思っていた物が離れて行ったから慌てたんじゃない、男の人って自分の所有物がなくなることを嫌がるらしいわよ』
『なるほど、それなら、その内また遊び始めるわね。……なんか、残念』
『なに言ってるのよ、そういった方にお妾ででも貰われたら、勝ち組よ。どうせ売られるなら、みめうるわしいほうがいいわ』
『そうよね』
ーー余計な事も思い出してしまったが、少女はやっとふに落ちた気がした。
そうだ、きっとリオンは自分の物である少女がリオンから離れていった事が気に喰わなかったのだ。それに、少女から別れを切り出したような形になったのも拍車をかけたのだろう。実際はリオンとの約束通りなのだが、リオンから言い出されるのを待つべきだったのだ。
「よし、今度会うことがあったら、助けてもらったお礼を言って、失礼な態度を謝罪して、リオン様から改めてお別れを告げてもらおう」
それで上手くいくはず、と少女は意気込んだ。
そうして、少し休むと、また巡礼の旅に戻っていった。
リオンside
「うわー、見つからねえ……」
リオンは少女の行方を追っていた。が、なぜか探索魔法が阻害されている。
リオンはくさっても英雄なので阻害されても、完璧に使えない事はなかったが、ひどく効率が悪くなっていた。
あの後、運河の他の運び人に、少女を託した運び人の航路など、聞き込みしたが、経路が多すぎて絞り込みが難しかった。
王都は除外したものの、運河はこの地方に張り巡らされており、ある程度大きな町や途中の村には全て運河の停留所があるため行き先を絞ることは困難を極めた。
「はー」
リオンは溜息を吐くと、探索魔法を広域展開させた。
「うぐっ」
魔力がごそっと持っていかれ、一気に体の力が抜ける。今マルスの襲撃を受けたら死んでいただろう。
くらくらとする頭を振ってリオンは何とか少女の痕跡を探そうとした。
ーー少女の痕跡は見つからなかったが、何カ所かが不自然によどんでいる。そこだけ白で塗りつぶされたように何の情報もない。
「これは……」
リオンは眉を寄せると、急いで神殿に向かった。
「何用ですか」
厳めしい神官がリオンを出迎える。あまり歓迎されている風ではない。
リオンはそこで探索魔法を展開する。
キンっとかん高い音が頭の中に響き、魔法が阻害される感覚がした。
「……神の御許で魔の力を使うとは、ふとどきですな」
重苦しい声色で責められて、リオンは確信を得たように言った。
「おまえか、俺の魔法を妨害しているのは」
暫く二人はにらみ合い、やがて神官は目をそらし息を吐いた。
「……私ではございませんよ、英雄殿」
「俺を知ってんのか?」
「ええまあ、神の御許で妨害にあいながらも魔の力を行使できる人、といえばそれくらいしか考え着きませんからな」
「……って事は、なんだ、邪魔してんのは神様だって事か?」
「お答えできかねます」
それが答えのようなものだったが、その理由が知りたいリオンは問い詰めようと神官の方に一歩踏み出す。
目の前に透明な壁ができ、リオンの行く手を阻んだ。神官が動いた様子はないので、神官の言い様が本当なら、神の仕業だろう。
リオンはぐっと口を噛み締め、目の前の壁を吹き飛ばそうとし、そこに声がかかった。
「リオン、久しぶりだね。その魔法を放ってはいけないよ、その代わりと言っては何だが、私が力になろう」
穏やかな声、聞いたことのある声。
振り向いて、その男をを見て、リオンは瞠目した。神官はその場に跪き、祈りと共に神に許しを乞うている。
「元、魔導士団長、か」
「おや?相変わらず、名前で呼んではくれないのかい。まあ、いい、そうだよ」
にこっと笑うその人に全身にはリオンの子にあったのと似たような文様が広がっていた。
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