3 / 12
第一章
屈辱の中で、希望を
しおりを挟む
「我々は勇者組織ユースケ帝国だ!勇者祐輔様の名により、この村から税の回収と統治を行う。村の責任者は、すぐに出てこい!!!」
村の入口に、馬に乗った騎兵が4騎、軽歩兵が10人以上見えた。
恐らく、交易の無かった偏狭の地に、税を回収しに来たのだろう。
村の家から、住人達が不安そうに顔を覗かせる。
ハッサムがすぐに、騎兵のリーダーと思われる男に近づいていった。俺もすぐに後を追う。
「この村は、中立の村です。どこの国にも属していません。それにお渡しできるような物はありません」
リーダー格と思われる騎士の前で、堂々と叫ぶハッサムは、同じ年とは思えない風貌だった。大人が村を捨てて行った今、実質の村の責任者は、ハッサムだった。努力家で、皆からも慕われている。
騎士達に近づくと、子供の二人に比べ、身長が高く。フルプレートの鎧は、かなりの威圧感をまとっていた。
「中立?子供が何の立場で言っている?責任者が子供の村が中立?笑わせるな!!それに、行商から聞いた話だと、この村は、外部との接触を避けているそうだな?」
騎士が表情を崩し、ハッサムを睨み、問う。
「いえ、避けてはいません。この村では取引するものが無かったので、行商の方には、そう言っただけです」
「ほう、何も無いか?この村には、豊かな作物ができそうな畑が見えるが?」そう言って、騎士が顎で郊外に広がる畑を指す。
「あれは10年かけて再生した大地です」
「つまり、この村は、10年間、税を納めていないという事だな?」
「10年前、勇者が現れて村を破壊したからです。収めるものなどこの10年の間何もありませんでした」
そうハッサムが答えると、騎士が急に激昂しだした。
「お前は今、勇者の名を軽々しく口に出したな?勇者ユースケ様は、我々を導く神だ。言葉を訂正しろ」
「……」
ハッサムが騎士をじっと見つめたまま、黙る。その神とやらの勇者に、日常を殺されたのだ。謝れるはずなどない。
「私とて、子供相手に悪魔ではない。言葉を訂正して謝れば済ましてやると言っている」
「……」
「……」
しばらく沈黙が続く。騎士達の間でざわめきが起こる。
「おい、死にたいのか?」
騎士がそう言って、剣を抜き、ハッサムに剣先を向けた。銀色の刃の先端が夕日に不気味に輝く。
「……私は、勇者が憎いです」ハッサムが言葉を選ばずに、騎士にそう告げる。
「……そうか……分からせてやれ」
そう騎士が言うと、軽歩兵がハッサムを、さっと取り囲んだ。
「……」
ハッサムがその男達をぎろっと睨む。
そして抵抗する間も無く羽交い絞めにされ、リンチが始まった。
「おい、ガキ!」
「勇者様は偉いんだぞ」
軽歩兵が、怒号を上げながら、棒で顔を殴ったり、大振りの蹴りでハッサムを痛めつける。
ハッサムは苦痛で辛い顔をしたが、叫び声を上げないように耐えていた――自分の信念を貫くために。
大人が子供をなぶる、異常だった。
「お願いです。この者が、口が聞けないのです。許してください」
その残忍な様子に見かねて、俺はすぐに騎士に、豚のように土に顔を押し付け、必死に懇願した。
「……」
騎士は、見下したように俺を見て、しばらく黙った。
「そう言ってますけど、どうします?」
もう一人の騎兵が、同じ顔でそのリーダー格の騎士に問う。
ニタニタと笑うその顔は、人間の皮を被った獣に見えた。
「……まあ、私も悪魔ではない。おい!もういいだろ?」
騎士がそう言って、軽歩兵に暴行を止めさせる。
軽歩兵がハッサムを囲んだ輪を崩すと。
血だらけのハッサムが地面に倒れていた。
「ハッサム!!大丈夫か?」俺はすぐに、ハッサムに駆け寄り、体を支える。
ハッサムは、恐怖に震えてはいたが、少しだけ口元を緩めた。ほんとに大した奴だ。
「今から、この村はユースケ帝国の領地となった!!!貴様らは、魔王と戦う我々の休息の地を提供しろ!そして税を支払い、このユースケ帝国のさらなる繁栄を支えるのだ!!我々は諸君に、対価として暖かい毛布や医療を与える」
そう言って、騎士はユースケ帝国の旗を、俺に渡した。
「これを、村の一番高い所へ掲げよ。それでこの村は勇者様の加護を得る事ができる」
俺は、何も言わずにその旗を受け取り、旗を村の中心に立てたのだった。
村をまた、惨事に巻き込みたくない。その一心で。
村の入口に、馬に乗った騎兵が4騎、軽歩兵が10人以上見えた。
恐らく、交易の無かった偏狭の地に、税を回収しに来たのだろう。
村の家から、住人達が不安そうに顔を覗かせる。
ハッサムがすぐに、騎兵のリーダーと思われる男に近づいていった。俺もすぐに後を追う。
「この村は、中立の村です。どこの国にも属していません。それにお渡しできるような物はありません」
リーダー格と思われる騎士の前で、堂々と叫ぶハッサムは、同じ年とは思えない風貌だった。大人が村を捨てて行った今、実質の村の責任者は、ハッサムだった。努力家で、皆からも慕われている。
騎士達に近づくと、子供の二人に比べ、身長が高く。フルプレートの鎧は、かなりの威圧感をまとっていた。
「中立?子供が何の立場で言っている?責任者が子供の村が中立?笑わせるな!!それに、行商から聞いた話だと、この村は、外部との接触を避けているそうだな?」
騎士が表情を崩し、ハッサムを睨み、問う。
「いえ、避けてはいません。この村では取引するものが無かったので、行商の方には、そう言っただけです」
「ほう、何も無いか?この村には、豊かな作物ができそうな畑が見えるが?」そう言って、騎士が顎で郊外に広がる畑を指す。
「あれは10年かけて再生した大地です」
「つまり、この村は、10年間、税を納めていないという事だな?」
「10年前、勇者が現れて村を破壊したからです。収めるものなどこの10年の間何もありませんでした」
そうハッサムが答えると、騎士が急に激昂しだした。
「お前は今、勇者の名を軽々しく口に出したな?勇者ユースケ様は、我々を導く神だ。言葉を訂正しろ」
「……」
ハッサムが騎士をじっと見つめたまま、黙る。その神とやらの勇者に、日常を殺されたのだ。謝れるはずなどない。
「私とて、子供相手に悪魔ではない。言葉を訂正して謝れば済ましてやると言っている」
「……」
「……」
しばらく沈黙が続く。騎士達の間でざわめきが起こる。
「おい、死にたいのか?」
騎士がそう言って、剣を抜き、ハッサムに剣先を向けた。銀色の刃の先端が夕日に不気味に輝く。
「……私は、勇者が憎いです」ハッサムが言葉を選ばずに、騎士にそう告げる。
「……そうか……分からせてやれ」
そう騎士が言うと、軽歩兵がハッサムを、さっと取り囲んだ。
「……」
ハッサムがその男達をぎろっと睨む。
そして抵抗する間も無く羽交い絞めにされ、リンチが始まった。
「おい、ガキ!」
「勇者様は偉いんだぞ」
軽歩兵が、怒号を上げながら、棒で顔を殴ったり、大振りの蹴りでハッサムを痛めつける。
ハッサムは苦痛で辛い顔をしたが、叫び声を上げないように耐えていた――自分の信念を貫くために。
大人が子供をなぶる、異常だった。
「お願いです。この者が、口が聞けないのです。許してください」
その残忍な様子に見かねて、俺はすぐに騎士に、豚のように土に顔を押し付け、必死に懇願した。
「……」
騎士は、見下したように俺を見て、しばらく黙った。
「そう言ってますけど、どうします?」
もう一人の騎兵が、同じ顔でそのリーダー格の騎士に問う。
ニタニタと笑うその顔は、人間の皮を被った獣に見えた。
「……まあ、私も悪魔ではない。おい!もういいだろ?」
騎士がそう言って、軽歩兵に暴行を止めさせる。
軽歩兵がハッサムを囲んだ輪を崩すと。
血だらけのハッサムが地面に倒れていた。
「ハッサム!!大丈夫か?」俺はすぐに、ハッサムに駆け寄り、体を支える。
ハッサムは、恐怖に震えてはいたが、少しだけ口元を緩めた。ほんとに大した奴だ。
「今から、この村はユースケ帝国の領地となった!!!貴様らは、魔王と戦う我々の休息の地を提供しろ!そして税を支払い、このユースケ帝国のさらなる繁栄を支えるのだ!!我々は諸君に、対価として暖かい毛布や医療を与える」
そう言って、騎士はユースケ帝国の旗を、俺に渡した。
「これを、村の一番高い所へ掲げよ。それでこの村は勇者様の加護を得る事ができる」
俺は、何も言わずにその旗を受け取り、旗を村の中心に立てたのだった。
村をまた、惨事に巻き込みたくない。その一心で。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気が付くと見知らぬ部屋にいた。
最初は、何が起こっているのか、状況を把握する事が出来なかった。
でも、鏡に映った自分の姿を見た時、この世界で生きてきた、リュカとしての記憶を思い出した。
記憶を思い出したはいいが、状況はよくなかった。なぜなら、貴族では失敗した人がいない、召喚の儀を失敗してしまった後だったからだ!
貴族としては、落ちこぼれの烙印を押されても、5歳の子供をいきなり屋敷の外に追い出したりしないだろう。しかも、両親共に、過保護だからそこは大丈夫だと思う……。
でも、両親を独占して甘やかされて、勉強もさぼる事が多かったため、兄様との関係はいいとは言えない!!
このままでは、兄様が家督を継いだ後、屋敷から追い出されるかもしれない!
何とか兄様との関係を改善して、追い出されないよう、追い出されてもいいように勉強して力を付けるしかない!
だけど、勉強さぼっていたせいで、一般常識さえも知らない事が多かった……。
それに、勉強と兄様との関係修復を目指して頑張っても、兄様との距離がなかなか縮まらない!!
それでも、今日も関係修復頑張ります!!
5/9から小説になろうでも掲載中
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
決着は来世でつけると約束した勇者と魔王はお隣さんで幼馴染になる
八神 凪
ファンタジー
人間と多数の異種族が暮らす世界・ワルレーズ
そこでは人間と魔族の種族が争っていた。
二つの種族の戦いは数十年続き、どちらが始めたのか分からないほどの年月が経っていた。
お互い拮抗状態を極めていたが、その様子を見かねた女神が人間に勇者と呼ばれる人物を選出したことで終焉を迎えることになる。
勇者レオンと魔王アルケインは一昼夜、熾烈な戦いを繰り広げた後、相打ちとなった。
「「決着は来世でつける……女神よ願いを叶えろ……!」」
相手を認めているがゆえに相打ちという納得のいかない結末に二人は女神に来世で決着の機会を願い、倒れた。
そして時は流れて現在――
二組の家族が危機に陥ったところから物語は始まる。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる