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そのじゅうはち
そのじゅうはち-10
しおりを挟む「うっあー」
腕の中のみいくんは揺れるカーテンに手を伸ばす。
大人達の思惑など関せず、無邪気に笑う。
ふと庭を見ると、なにかがひらひらと宙を舞う。
まだ、みいくんには見えるほどの大きさじゃない。
あたしは一人、それを眺めてた。
あたしは尊を愛してる。みいくんを愛してる。
どっちがより愛してるなんて、わからない。
尊は大事なあたしの片割れだし、みいくんの父親としても愛してる。
みいくんは二人の大事な大事な子供だし、なににも換えられないくらい愛してる。
尊がみいくんを、あたしを、家族を大事にするのは愛と言うものを知らないと思ってたから。
自分が寂しかった過去を取り返す様に、自分の愛情と呼べるものを全てあたし達に注いでるんだと思う。
自分が知らなかった家庭と言うものを手にして、思い切り幸せを作ろうとする尊は。
どこかに過去を見返す気持ちがあるのかも知れない。
あたしを甘やかすのも多分。
そうする事で、愛してる、事を実感してるんだと思う。
「俺は二度とキミ達の前に現れないから、瞳子さんの前にも現れないから。キミが会社を辞めるのだけは止めてくれ、頼むよ」
「煩えんだよ。もう帰れ」
風の流れに乗ったのか。
宙を舞うものがこちらへふわふわと飛んできて。
「あー?」
あたしの肩にそっと降りてきた。
みいくんが手をあたしの肩に伸ばす。
それはまたふわりと舞い上がり、リビングの中を漂い始める。
「尊クン、お願いだから」
「煩えっつてるだろ!ホントに殴るぞ、てめえ」
怒りや悲しみややり場の無いマイナスの感情で充満するリビングを、ふわふわと舞う、モンキチョウ。
モンシロチョウはたまに見るけど、黄色は珍しい。
「あーうん!」
息子の号令と共にちょうちょ追いかけるあたし。
ひらひらとリビングを一回りして、泣いてる瞳子さんの肩に降り。
深呼吸をする様にゆったり羽を広げた。
「あーっ!やうっ!」
みいくんが初めて見る未知のいきものに、はしゃぐ。わかっているとは思えないが、不思議とちょうちょを認識している。
突然の闖入者に、冷たかった空気が和む。
モンキチョウは瞳子さんの肩で羽を休める。
「うーっぱう」
瞳子さんがいて、尊がいて、みいくんがいる。
繋がっているのだ。なんであろうと、愛情の形はどうあれ。
命は紡がれて、この愛しい子がいる。
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