さわらないで

ココ

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飲み会

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「紗江 ごめん。先に行ってて。」

こんな日に限って 私はコピー機の修理の為に残業になった。

終業間近に故障したコピー機が

特殊な為使えないと替えが無い上にに修理の業者さんがすぐに来れない為だった。

「ついてないな、、、」

めったに無い盗み見のチャンスだったのに。

ま、しょうがないか、と どうにか諦めて帰り支度をしながら

今から行ってもお開き間近かな、

、、、家に帰ろう。

と気持ちを切り替えながら でも 何だか帰りずらくて

同じフロアの休憩所でぐずぐずミルクティを飲んでいた。

そこへ カツカツと靴音が聞こえてきた。

思わす だらけていた体を 反射的に正してそちらを向くと

少し疲れたふうな巧さんが目を見開いて立ち止まった。

「お、お疲れ様です。」 

入社して三年 十回にも満たない 会話とも言えない 交流だった。

巧さんは あのやさしい微笑みで

「なんだ。山口さん 飲み会行かなかったの?」

と 名前を呼んでくれた。

初めて 呼んでくれた。名前知ってくれてたんだ。

私は感激で何を言われたか

考えられなくなった。

「山口さん?」

もう一度 巧さんに名前を呼ばれ とりあえず我にかえった。

「コピー機の故障で。」

と ぼそぼそとどうにか言えた。

「そう。一人だけ?」

「はい。」

巧さんは何やら思案顔で

「帰るの?」

と聞いてきた。

私は会話出来てる事に感激で。

「はい。」

また 短い返事だけ。

しばらくの沈黙の後

「飯行かない?」

と 巧さんが誘ってくれた。

「俺も急な残業で外出してて。この書類置きに戻っただけなんだ。
 飲み会行けなかったから腹減ってて。」

私は 喉がからからになりながら なんとか

「はい。」

と 小さな声でやっとこたえた。

巧さんは 少し笑いながら

「じゃあ エレベーター前で」

と 颯爽と去って行った。

私は パニックになりながら 気持ちは大急ぎで 行動は挙動不審で

帰り支度をしてエレベーター前で巧さんを待った。

今まで一番幸せな 待ち時間だった。


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