さわらないで

飲み会前

「由里子　今日一緒に行こうね。」と

同期の営業補佐　高田紗江が声をかけてきた。

今日は営業部と総務部合同の飲み会。

お酒は特に好きでは無いけど　今日は特別。

だって　遠くから　営業部の巧さんを沢山眺められるから。





あれから　

大学を卒業して

偶々入社した会社に

彼は　いた。



研修を終えて総務部へ配属された私は

同じフロアのエレベーター前に立つ後ろ姿を見たとき

心臓が飛び出る位びっくりした。

まさか、まさか。

あの後ろ姿は彼しかいない、、!

私の心臓が　ドクドクなったとき

ふと彼が振り向いた。

私は　目が合う寸前に目をそらした。

やっぱり　彼だった。

涙が出そうだった。

彼は　上司と何か今から外出する先の資料を見ながら

打ち合わせの延長の様な話をしていた。

少し聞こえた内容でも

彼の真摯な仕事への姿勢が伺われた。

私の記憶の彼より　ぐんと男のひとになっていた。

体つきも　以前より逞しい印象になり

顔や髪型も　すっかり大人になっていた。

また　会えた！

と　喜びに震える反面　大人になった彼との　差に

落ち込んだ。

あんな素敵な彼と

何か起こるはずも無いのに。

でも

また　彼が見れるという事実は　

私の無色だった世界を一瞬して色彩豊かな世界に変えてしまった。

片想いという名のもとに。