さわらないで

ココ

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砂川 巧 という人

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すらりとした手足に しっかりした肩幅。

後ろ姿を見ても つい振り返ってしまうほどのオーラ。

眼は深い茶色に意思の強そうな眼差し。

黙っていると 精悍な感じ。
 
なのに 

笑うと目尻にシワができて 凄くやさしげ。

仕事が出来て 

普段人を寄せ付け無いけど ここぞと言う時にフォローしてくれる。



ー落ちないわけがないー


砂川 巧(さがわたくみ)
私の大好きなひと。



彼は私が高校生の時 同じ電車によく乗っていた。

私が降りる駅の いくつか先にある有名な進学校に通っていた。

それを知ったのも彼の学生服の襟にある校章をこっそりみたから。

毎日 同じ車両の違う扉付近に立ち そっとさがす。

彼は いないときもあったけど 

大概は 吊革の革をつかんで

もう片方の手だけで器用にページをめくりながら本を読んでいた。

彼の近くの女の子たちを見ると ほぼみんな 彼を意識しているのがわかった。



バレンタインが近づいたある日

ついつい彼の事ばかり考えてしまうわたしは

街中に溢れるチョコレートを見るうちに

渡す勇気も無いのに思わず買ってしまっていた。

バレンタイン当日 

チョコレートを渡す勇気も無いまま鞄に入れていつもの電車に乗ると 

とてもかわいいモテそうな女の子達が 彼にチョコレートを渡していた。

私はドクドクと胸がきしむのを押さえながら さりげなさを装って盗み見ていた。

彼は彼女達に何か二言みこと告げると やさしく笑いながらそれを受け取らなかった。

‘’ああ、やっぱり’ 彼女がいるんだなあと確信して

目に前でチョコレートを受け取らなかった事にほっとしたり

彼女がいる事にショックをうけたり、なんだか複雑なきもちになった。

泣きそうな気持ちを堪えながら うつ向いていると

居心地が悪くなったのか 彼女達に気を使ったのか

彼がこちらの方へ移動してきた。

本当に偶然だった。

眼の隅にうつる彼が何気なくこちらを見たとき

涙を堪えてる私に注視したのを感じた。

彼は少し近くに寄ると小さな声で

「大丈夫ですか?気分が悪いの?」

と 聞いてくれた。

私はびっくりしたのとばつが悪いのとで

とにかくどきどきして「だ、大丈夫です」

と 答えたが、うろたえて電車を降りるときつまづいてしまった。

彼は 咄嗟に私の腕をつかみ 一瞬戸惑ったあと電車から一緒に降りた。

つかまれた腕はじんじん痺れ

眼の前が真っ白になった。

私は呆然としたが彼は冷静に「少し座って」と

ホームの座席に誘導してくれた。

その時 私は 何故か冷静に彼の校章を見ていた。

「N高校なんですね」
 
知らぬ間に私の口から言葉が発せらていた。

彼は

「え。ああ。もう卒業だけど」と

言いながらやさしく微笑んだ。

その瞬間その笑顔に舞い上がりそうになりながら

もう会えないんだ、ああだから最近あまり見かけなかったんだ。

と思いながら、私は自然と腹をくくった。

涙を堪えながら精一杯の笑顔で

「ありがとございました。受験の大変な時に足止めしてしまって。
  これ、お礼によかったら」

と チョコレートを差し出した。

どう見ても本命チョコを見て 彼はびっくりしたあと

私を伺うように見た。

「いえ、もういいんです。もらって頂けませんか?」

私は他の人にあげる為の物のように偽って言うと、

可哀想に思ったのか

「じゃあお礼として」

と 受け取ってくれた。

それが 彼への失恋の日だった。

高校一年生の春

それから彼を 見かけなくなった。




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