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第四章

二 確認

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   二

「こんばんは。どなたですか?」

 Bさんは俺を後ろ手に、元恋人に言った。その背中が広くてほっとする。このままもたれかかりたい。いまの気持ちでそんなことをしたら、どうなるんだろう。でもしてみたい。
 俺はBさんの背中に言った。

「元彼です」
「ということは、最初のAくんですか。別れたはずなのにどうしたんですか」
「誰……?」
「え? 覚えてない? 僕たちが最初にマッチングしたのに。よりを戻したいんですか?」

 Bさんは俺に訊いてくる。元恋人が俺に言った復縁の話を聞かれていたようだった。寄りを戻す? そんなの、あるわけない。元恋人の言い分は自分勝手だ。
 だが俺も、元恋人を利用するつもりでいた。今夜、彼に対する恋が残っていないことを確認しようと思ったのだ。
 一目みてわかった。彼を好きだったことは思い出せても、色づくような感情は失われている。好きだった。自分の中で、彼はちゃんと、過去形になっていた。
 痛い目に遭って辛かった。手を差し伸べてくれるひとの存在がなければ、自分は今頃、まだ彼が好きだったのだろうか。

「おたく、あのときの変態!? 続いてたのか」
「きみはもう彼のことを詮索する立場にないでしょ。基くん。出ましょう」

 Bさんが俺の腕を掴む。普段はAくんと呼ぶのに、いまは本名を呼んだ。
 そのBさんらしからぬ行動や語気の強さに困惑しながらも、彼のことでBさんに迷惑をかけ続けていた分、経緯も顛末も何もかも知ってくれているので、Bさんは俺を心配して、守ってくれているのだとわかる。俺がもう傷つかないように。
 元恋人はなにやら喚いていたが、何も聞きとれなかった。今度こそ終わりだ。
 バーを出る。夜の駅裏の繁華街はピークタイムで人が行き交う。どこか食事にでも行くのだろうかとついていくと、バーを出てすぐの路地に入った。
 Bさんの顔が近い。覗き込んでくる。久しぶりのBさん。ほっとする。逆光で精悍さが際立っているように感じられた。少し疲れているようにも見える。触れてみたいのは我慢。
 緊張していた。何にも感じなかったときは、この距離でも平気だったのに、Bさんと話したいだとか、会いたいと思うようになってから、緊張するようになっていた。俺も仕事帰りなので疲れた顔をしていないだろうか。汗をかいているので、くさくないだろうか。髪の毛が伸びている。切ればよかった。
 今夜、会えるのなら、もっとちゃんとしたのに。

「Aくん。さっきの彼のこと、実はまだ好きなんですか? そんなに忘れられない?」

 俺は今夜、それを確認しに来たのだった。断言できる。

「いいえ!」
「じゃあ、もう会わないで」

 二度と会うつもりはありません――と言おうとした。まっすぐに目を見て、元恋人に真に決別したことを伝えようとした。恋はとっくに終わっていると。
 だが、阻まれた。Bさんの両手が俺の頬を覆い、口づけてきたせいだ。
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