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番外編14 ある新婚生活

五 帰宅

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 だが、和臣さんは疲労とフライトで眠かったみたいで、自宅マンションに帰ってきたら俺にちゅーちゅーしつつ上着を脱いでネクタイをほどいてソファでうとうとしてすぐ寝ちゃって、俺は、すやすやと安心しきった寝顔の頬に唇を寄せてみる。
 疲れた顔してる。疲れてても美形。少し痩せたな。ちゃんと食べていたのかな。食べられなかったのかな。おなか壊さなかったかな。水は大丈夫だったのかな。
 無事でよかった。海外大変だ。俺の前では甘えんぼで、仕事の話は殆ど口にしないけれど、一回やめた会社にさらに好条件で再就職するんだから、活躍してるんだろうなぁ。
 寝ているうちに、俺にできることをしておいてあげよう。そう思い立ち、和臣さんに上掛けをかけて、持ち帰ったスーツケースを開けて片付け。
 開けると、必要最小限の和臣さんの衣類、そして抱きまくらカバー(俺)が入っていた。連れていったのか。本物じゃないほうはこれのことか。なるほど。
 あと出発前日、洗濯機に入れたはずなのになぜかなくなっていた俺の使用済みワイシャツ。許可なし。頼むからやめて。
 ベトナム土産がみっちり詰まってる。ドライフルーツやチョコなどのお菓子とプリントのTシャツ。なぜか新品のアオザイも。広げるとなんとなく俺サイズ。まさか着せる気だろうか。ちゃんと仕事してたのだろうか。
 一通り片付けてソファの下に座り込んで、和臣さんの寝息に耳をそばだてつつ本を読むなどして寛いでいたら、腕が伸びてきて絡め取られて、上掛けの中に引きずりこまれた。

「多紀くん……ねぇ、だいすき……」

 寝ぼけてる声。一週間ぶりの体温に、俺のそばで安心しきってあどけない寝顔。
 さらさらの髪に指を通してみる。

「和臣さん。……寂しかった」
「ん……あ、ごめん。寝てた」

 と、そこで起きた。
 手のひらで顔を拭いてる。

「ごめん、どのくらい経った?」
「一時間くらいです」

 引きずりこんだ俺をすっぽり抱きながら、にこにことご機嫌。

「多紀くんの夢見た。えへへ。多紀くんがベトナムまで迎えに来てくれる夢。ホーチミンで街歩きデート。コムタムとチェーを食べて、仲良く手を繋いで帰るんだ」
「こんな心配ばっかりかけて、迎えになんて行きません。ちゃんと自分の足で帰ってきてください」
「あっは。拗ねてるの可愛くてどうしよう。ねぇ、顔見せて」
「やです」
「ほら、見せて。俺の目を見て。多紀くん、ごめんね。スマホ水没したのも、連絡手段がなかったのも俺の都合で、多紀くんに悪いことしたね」

 謝ってるみたいだから、仕方ないな。
 でもさ、恋人だったときに離れていたのと違って、ずっと一緒にいるはずなのにいなくなるのは、ぽっかりしてしまうんだ。仕事だってわかっているし、泣きたくなったりとかはないけど。和臣さん、存在感ありすぎなんだよ。

「……仙台のときみたいに事故じゃなくてよかったです」
「心配してくれてありがとう」

 俺の後頭部を覆うような大きな手のひら。後ろ髪をかき混ぜて、襟足を撫でてる。指先が時々首筋に優しく触れる。肌が粟立つみたいな感触。

「っ……」

 そんなすりすりされたり、猛獣じみた瞳で見つめられると、体が疼いてくる。腕に捕まってて、逃れられない。
 ひっそりとした声。

「多紀くん、準備してきて?」

 俺は答えた。

「……してあります」

 和臣さんは、喰う気満々。
 膝で俺の股間をぐりぐりして、意地悪してくる。

「っ……や」
「……甘やかしたいけど、優しくはできそうにないや」

 すぐに上になって、俺に覆いかぶさってきた。
 こらえきれなさそうな、本性丸出しの、低くかすれるエロ声で囁いてくる。

「多紀くん。『寂しかった』は?」
「……」
「ふふ。さっき、聞こえてたよ?」
「!」
「ほら、もう一回」
「……寂しかった」

 和臣さんの瞳の色が、表情が変わる。この目に見つめられると俺は動けなくなる。
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