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番外編14 ある新婚生活
四 帰国
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以降、和臣さんからはメールで連絡があった。
特別に会社の端末とメールを使う許可を得たらしい。知らないアドレスからメールが届いたのである。
秘蔵ファイルの入ったSDカードは無事って、そんなことが聞きたいんじゃないんですけど。
無事で良かったですと返事をしたら、三分後ぐらいに、とんでもなく長文のラブレター的な返信があり、一瞬迷惑メールかと思ったのだけど、差出人はやはり和臣さんで、内容としては、俺たちは過酷なさだめに引き裂かれそうになっている恋人同士だった。妄想乙。
んで、帰国の日。
俺は西さんから「午後休んで。有給休暇でな」と半ば強制的に休まされて、空港まで迎えに行った。
出口から出てくるところを捕まえて、同僚らしき同行者にもニヤニヤされちゃって、でもなんか誇らしそうというか、嬉しそうにしてる。
俺を見つけて超笑顔。
「多紀くーん、ただいまー!」
明るい声出しちゃってさ。駆け寄ってきて、直立不動の俺をぎゅうぎゅう抱いて、すりすりしてる。
空港の出口なんですけど。周りの目を気にしないのは知ってるけど。
「あー! やっぱり本物がいい!」
は? なにと比べてんの?
「おかえりなさい」
「ごめんね、連絡できなくて。初日にスマホ水没なんて、最悪だよ。行ったらやること多くて忙しいし、ホテルのスタッフは英語怪しくて電話借りられないし、会社の端末は外部接続に制限あって、なかなか連絡できないし。こそこそ外に出るのは怪しまれそうで、情報抜かれそうで回線つなぐの怖いし。変わりなかった?」
「ありません」
「じゃあ解散だから帰ろう。明日休みだけど、多紀くんは?」
「土曜だから休みです」
「よかった。じゃあおうち帰ってゆっくりしよっか」
和臣さんは俺を見る。目が合って、固まってる。
俺はちょっと怒っている。
俺の髪を撫でながら、和臣さんは静かに言った。
「……ごめんね」
「スマホ水没とか、ばか」
「ね。心配させちゃったね」
「寂しかったんですけど」
「寂しくさせてごめんね」
そんな、あっけらかんとしちゃってさ。和臣さんのほうこそ寂しかったんじゃないのかよ。
俺を心配させることにかけてこの人の右に出る者はいないね。ろくなことにならないんだから、今度からはおちおち見送れないじゃん。
次は膝の上に乗ってついていくぞ。
「貸しニィなんですよ。どうしてくれるんですか?」
「今すぐちゅーするね」
ひとの話聞いてないし。
「外だからだめです!」
というと、和臣さんは俺の手を取って、真剣な眼差しで、結婚指輪に口づけている。俺のことを見下ろしながら、上目遣い。
「早く帰ろうよ。甘やかされ放題デーの前に、お詫びに、多紀くんのこと甘やかしてあげる」
仕方ないな……。
「だから多紀くん、寂しかったってもう一回言って」
「言いません! 寂しくないです! 心配してただけです!」
「はいはい。じゃあ家に帰ったら言わせるね」
ほくほくしちゃってさあ。
「うわ、なんか許せないんですけど」
「ふふ……嬉しくて……多紀くん、ねぇ、自分がどんな表情してるのか、わかってる?」
「知りませんし」
「今すぐちゅーしたいよ」
「家帰ってから!」
「ねぇ、こっち見て。俺、多紀くんに愛されているのかもって自惚れそう」
ちらりと見ると、和臣さんは、ふにゃふにゃと幸せそうに微笑んでいる。
特別に会社の端末とメールを使う許可を得たらしい。知らないアドレスからメールが届いたのである。
秘蔵ファイルの入ったSDカードは無事って、そんなことが聞きたいんじゃないんですけど。
無事で良かったですと返事をしたら、三分後ぐらいに、とんでもなく長文のラブレター的な返信があり、一瞬迷惑メールかと思ったのだけど、差出人はやはり和臣さんで、内容としては、俺たちは過酷なさだめに引き裂かれそうになっている恋人同士だった。妄想乙。
んで、帰国の日。
俺は西さんから「午後休んで。有給休暇でな」と半ば強制的に休まされて、空港まで迎えに行った。
出口から出てくるところを捕まえて、同僚らしき同行者にもニヤニヤされちゃって、でもなんか誇らしそうというか、嬉しそうにしてる。
俺を見つけて超笑顔。
「多紀くーん、ただいまー!」
明るい声出しちゃってさ。駆け寄ってきて、直立不動の俺をぎゅうぎゅう抱いて、すりすりしてる。
空港の出口なんですけど。周りの目を気にしないのは知ってるけど。
「あー! やっぱり本物がいい!」
は? なにと比べてんの?
「おかえりなさい」
「ごめんね、連絡できなくて。初日にスマホ水没なんて、最悪だよ。行ったらやること多くて忙しいし、ホテルのスタッフは英語怪しくて電話借りられないし、会社の端末は外部接続に制限あって、なかなか連絡できないし。こそこそ外に出るのは怪しまれそうで、情報抜かれそうで回線つなぐの怖いし。変わりなかった?」
「ありません」
「じゃあ解散だから帰ろう。明日休みだけど、多紀くんは?」
「土曜だから休みです」
「よかった。じゃあおうち帰ってゆっくりしよっか」
和臣さんは俺を見る。目が合って、固まってる。
俺はちょっと怒っている。
俺の髪を撫でながら、和臣さんは静かに言った。
「……ごめんね」
「スマホ水没とか、ばか」
「ね。心配させちゃったね」
「寂しかったんですけど」
「寂しくさせてごめんね」
そんな、あっけらかんとしちゃってさ。和臣さんのほうこそ寂しかったんじゃないのかよ。
俺を心配させることにかけてこの人の右に出る者はいないね。ろくなことにならないんだから、今度からはおちおち見送れないじゃん。
次は膝の上に乗ってついていくぞ。
「貸しニィなんですよ。どうしてくれるんですか?」
「今すぐちゅーするね」
ひとの話聞いてないし。
「外だからだめです!」
というと、和臣さんは俺の手を取って、真剣な眼差しで、結婚指輪に口づけている。俺のことを見下ろしながら、上目遣い。
「早く帰ろうよ。甘やかされ放題デーの前に、お詫びに、多紀くんのこと甘やかしてあげる」
仕方ないな……。
「だから多紀くん、寂しかったってもう一回言って」
「言いません! 寂しくないです! 心配してただけです!」
「はいはい。じゃあ家に帰ったら言わせるね」
ほくほくしちゃってさあ。
「うわ、なんか許せないんですけど」
「ふふ……嬉しくて……多紀くん、ねぇ、自分がどんな表情してるのか、わかってる?」
「知りませんし」
「今すぐちゅーしたいよ」
「家帰ってから!」
「ねぇ、こっち見て。俺、多紀くんに愛されているのかもって自惚れそう」
ちらりと見ると、和臣さんは、ふにゃふにゃと幸せそうに微笑んでいる。
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