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6 ある三百万円のゆくえ
二 多紀
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リビングで充電していた俺のスマホが鳴ったので、起き上がって、リビングに行ってスマホを手に取る。電話の着信音なんて、滅多に鳴らない。
土曜日の午前に電話をかけてくるって誰だろ。友達はみんなSNSなんだけど。
背後から和臣さんもやってきて、背中から抱かれた。ぺたーっとくっつきながら耳元で訊ねてくる。
「誰ー?」
いちゃいちゃしていたのを邪魔されて不満そう。和臣さんは、予定がない休日はとにかく俺を独占したいらしい。耳朶をはむはむしてくる。息がかかってくすぐったいよ。
「誰でしょうね?」
俺はスマホの画面を見ながら呟いた。携帯電話の番号だけが表示されている。登録外の番号だ。つまり知らない番号である。
会社用の携帯電話は会社に置いてある。土日のイベントなどで単発アルバイトを手配しているときは、なにかあったときのためにと念のため会社用携帯を持ち帰るけれど、今日明日は何の予定もしていないし。自分のスマホにかけてくる人なんて。営業電話とかかな。
「はい」
俺は出た。
「多紀?」
ん? 年の離れた男のかすれ声。声に聞き覚えがある。
苗字で呼ばれることが多い俺を下の名前で呼び捨てにする数少ない人物。なぜなら苗字が同じだから。
「……親父?」
実父の声に違いない。つまり相田。そういえば、親父の携帯の電話番号、登録していなかったな。向こうも用件なさそうだったし、俺も用事なかったし。
会話をするのは、高校を卒業したときに母親を通じて戸籍に入れてもらったとき以来だろうか。
「元気か?」
「あ、うん。親父は?」
「体は健康。お前、いまって埼玉に住んでるの?」
「いや、都内」
「そうか。久しぶりだし、よかったら、会って話さないか?」
嫌な予感がわきおこってくるね。
仲が良かったわけでもなく、十数年ぶりにいきなり電話がかかってきて、会おうという話になるって、警戒せざるをえない。宗教、マルチ商法……。
「いま忙しくて。用件は?」
「あー、そっか。ちょっと助けてくれないかなーって」
「……」
「借金がさー、少し」
「どの程度?」
「へへ。五百万円」
「ご……」
五百万円!?
頭がくらくらする。なにをやったら五百万円も借金を作れるわけ? いや、親父なら作れるわ。飲む打つ買う、全部やっていたもんな。
「あとはもう、多紀しか頼れないんだよ」
色んなところに当たって断られた結果、疎遠になった息子に連絡することにしたのだと親父は言い訳。一番目でも五十番目でも、ショックだよ。
「………………考えさせて」
俺はやっと言って、電話を切った。
土曜日の午前に電話をかけてくるって誰だろ。友達はみんなSNSなんだけど。
背後から和臣さんもやってきて、背中から抱かれた。ぺたーっとくっつきながら耳元で訊ねてくる。
「誰ー?」
いちゃいちゃしていたのを邪魔されて不満そう。和臣さんは、予定がない休日はとにかく俺を独占したいらしい。耳朶をはむはむしてくる。息がかかってくすぐったいよ。
「誰でしょうね?」
俺はスマホの画面を見ながら呟いた。携帯電話の番号だけが表示されている。登録外の番号だ。つまり知らない番号である。
会社用の携帯電話は会社に置いてある。土日のイベントなどで単発アルバイトを手配しているときは、なにかあったときのためにと念のため会社用携帯を持ち帰るけれど、今日明日は何の予定もしていないし。自分のスマホにかけてくる人なんて。営業電話とかかな。
「はい」
俺は出た。
「多紀?」
ん? 年の離れた男のかすれ声。声に聞き覚えがある。
苗字で呼ばれることが多い俺を下の名前で呼び捨てにする数少ない人物。なぜなら苗字が同じだから。
「……親父?」
実父の声に違いない。つまり相田。そういえば、親父の携帯の電話番号、登録していなかったな。向こうも用件なさそうだったし、俺も用事なかったし。
会話をするのは、高校を卒業したときに母親を通じて戸籍に入れてもらったとき以来だろうか。
「元気か?」
「あ、うん。親父は?」
「体は健康。お前、いまって埼玉に住んでるの?」
「いや、都内」
「そうか。久しぶりだし、よかったら、会って話さないか?」
嫌な予感がわきおこってくるね。
仲が良かったわけでもなく、十数年ぶりにいきなり電話がかかってきて、会おうという話になるって、警戒せざるをえない。宗教、マルチ商法……。
「いま忙しくて。用件は?」
「あー、そっか。ちょっと助けてくれないかなーって」
「……」
「借金がさー、少し」
「どの程度?」
「へへ。五百万円」
「ご……」
五百万円!?
頭がくらくらする。なにをやったら五百万円も借金を作れるわけ? いや、親父なら作れるわ。飲む打つ買う、全部やっていたもんな。
「あとはもう、多紀しか頼れないんだよ」
色んなところに当たって断られた結果、疎遠になった息子に連絡することにしたのだと親父は言い訳。一番目でも五十番目でも、ショックだよ。
「………………考えさせて」
俺はやっと言って、電話を切った。
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