エリート先輩はうかつな後輩に執着する

５ ある何の変哲もない日常（和臣視点）

七 お買い物

　いつものスーパーに寄って、かごを取って並んで歩く。
　俺は考えながら言った。

「かぼちゃの煮物と、鮭とキノコのホイル焼き、ほうれん草の胡麻和え、れんこんと家にある根菜で温サラダにしようかな」

　多紀くんは嬉しそう。

「美味しそうです！」
「炊き込みご飯もいいよね」
「はいっ！」
「何が食べたい？」
「なんでも！　あっ、なんでもだと困りますか？」

　好きなものを作ってあげたい気持ちはある。
　でも多紀くん、俺が作るもの、なんでも美味しそうに食べているからさ。

「んー。多紀くんの好きなものを知りたいかな。肉はわかってるよ。それ以外」
「なんでしょう。和臣さんの作るごはんって、なんでも美味しいんですよね」
「張り切っちゃうね」
「外で食べるより好きなんですよ」
「嬉しいな……」

　野菜を選んでかごに入れていく。
　多紀くんと肩を並べてお買いもの。しあわせ。多紀くん、手をつないでくれる。いつもは恋人同士だってことを隠しているのに。
　時計を見ると午後三時。楽しい時間はあっという間。
　レジを済ませて、荷物をふたつに分けてひとつずつ持って帰路につく。マンションはすぐそこ。
　帰宅して、キッチンで片付け。炊き込みご飯の準備をしていく。セットして、下ごしらえをして小休憩。
　多紀くんは干していたスーツをチェックしたり、靴の手入れをしたり。
　廊下にあぐらをかいて玄関で作業中の多紀くんの背中に訊ねる。

「多紀くん、コーヒー飲む？」
「あっ、俺が淹れますよ」
「じゃあお願いしようかな」
「ホットですか？　アイスですか？」
「ホットかな」
「了解です」

　すっかり秋で肌寒い。でも過ごしやすい季節。
　ホットコーヒーを淹れてくれて、お揃いのマグカップに注いでいる。ふたりともブラック。
　実は苦くて飲めなかったんだけど、多紀くんがブラック派だから、飲めるようになった。
　カウンターに並んで口をつける。
　多紀くんの淹れてくれたコーヒー。

「和臣さん、コーヒー好きですね」
「え？　あ、そうかな？」
「いつも美味しそうにしてるから」

　多紀くんが淹れてくれたからだよ。実は、いまだに苦くて、それほど得意じゃないんだ。
　いつだったかな。あまりにも幸せで、幸せだと言ったら、おかわりもありますよと返されたことを思い出す。
　まるで幸せにもおかわりがあるみたいで、胸がぎゅっとなったこと。
　そうだ、多紀くんが、記憶を失くしていたとき。

「和臣さん？」
「うん」
「おかわりもありますよ」

　そう言われて、俺は多紀くんに、コーヒー味のキスをすることにした。