169 / 362
番外編4 おまけ
おまけ① Side多紀
しおりを挟む
口述試験が終わった次の週。土曜日の午後。
寒い日が続いている。
朝から洗濯して、午前中にしっかり掃除して、ゆっくりしているとき。
リビングのソファでコーヒーを飲んでいたところ、和臣さんがおもむろに寝室に行って、背後から声をかけてきた。
「多紀くん、これ着てほしいな……」
「……?」
和臣さんは自分の私服を俺に着せるのが趣味で、さいきん俺はそんな和臣さんに呆れつつも慣れてきている。
まあ、害はないしね。
出掛けるにはぶっかぶかの不格好だけど、室内で着る分にはさ。和臣さんは喜ぶし。
和臣さんがおずおず差し出してきた衣類だって、振り返るまでは着てあげるつもりだったわけ。俺ってば優しい。
だけど一目見て硬直。
だってすっげえ懐かしい。見たことある。
濃い紺色のブレザー、胸元に校章の刺繍ワッペン。白いワイシャツに、赤いストライプのネクタイ。グレーのチェックのズボン。黒いベルト。一揃い。
俺は思わず呟く。
「……うわ。高校の制服……」
和臣さんは、てへへって顔してる。
てへへじゃないよ。そんな顔してもだめだよ。
「これ取りに行けただけでも、実家に帰ったかいがあったね」
帰りの荷物がやたら多いと思ったら。
まさか、俺にこれを着ろと?
ちらりと和臣さんを見る。和臣さんは、俺が腰掛けているソファの前にやってきて、床に座る。骨折しているので、その場に足を投げ出して座っている。
ソファで固まっている俺に上目遣い。
「だめ?」
俺はドン引き。
「これは……さすがに……着れないでしょ……」
「え? 着れるよ? 俺、この頃でも、百七十後半あったし、ウエストも多紀くんよりあったと思うんだよね。一年から二年あたりで背が急激に伸びてサイズアウトしちゃって、新しい制服は大きく作ってたはず」
「いや、入るか入らないかだったら、入るとは思うんですけど……」
問題はそこじゃない。
わかってるだろ。
寒い日が続いている。
朝から洗濯して、午前中にしっかり掃除して、ゆっくりしているとき。
リビングのソファでコーヒーを飲んでいたところ、和臣さんがおもむろに寝室に行って、背後から声をかけてきた。
「多紀くん、これ着てほしいな……」
「……?」
和臣さんは自分の私服を俺に着せるのが趣味で、さいきん俺はそんな和臣さんに呆れつつも慣れてきている。
まあ、害はないしね。
出掛けるにはぶっかぶかの不格好だけど、室内で着る分にはさ。和臣さんは喜ぶし。
和臣さんがおずおず差し出してきた衣類だって、振り返るまでは着てあげるつもりだったわけ。俺ってば優しい。
だけど一目見て硬直。
だってすっげえ懐かしい。見たことある。
濃い紺色のブレザー、胸元に校章の刺繍ワッペン。白いワイシャツに、赤いストライプのネクタイ。グレーのチェックのズボン。黒いベルト。一揃い。
俺は思わず呟く。
「……うわ。高校の制服……」
和臣さんは、てへへって顔してる。
てへへじゃないよ。そんな顔してもだめだよ。
「これ取りに行けただけでも、実家に帰ったかいがあったね」
帰りの荷物がやたら多いと思ったら。
まさか、俺にこれを着ろと?
ちらりと和臣さんを見る。和臣さんは、俺が腰掛けているソファの前にやってきて、床に座る。骨折しているので、その場に足を投げ出して座っている。
ソファで固まっている俺に上目遣い。
「だめ?」
俺はドン引き。
「これは……さすがに……着れないでしょ……」
「え? 着れるよ? 俺、この頃でも、百七十後半あったし、ウエストも多紀くんよりあったと思うんだよね。一年から二年あたりで背が急激に伸びてサイズアウトしちゃって、新しい制服は大きく作ってたはず」
「いや、入るか入らないかだったら、入るとは思うんですけど……」
問題はそこじゃない。
わかってるだろ。
57
お気に入りに追加
1,878
あなたにおすすめの小説
ご愛妾様は今日も無口。
ましろ
恋愛
「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」
今日もアロイス陛下が懇願している。
「……ご愛妾様、陛下がお呼びです」
「ご愛妾様?」
「……セレスティーヌ様」
名前で呼ぶとようやく俺の方を見た。
彼女が反応するのは俺だけ。陛下の護衛である俺だけなのだ。
軽く手で招かれ、耳元で囁かれる。
後ろからは陛下の殺気がだだ漏れしている。
死にたくないから止めてくれ!
「……セレスティーヌは何と?」
「あのですね、何の為に?と申されております。これ以上何を搾取するのですか、と」
ビキッ!と音がしそうなほど陛下の表情が引き攣った。
違うんだ。本当に彼女がそう言っているんです!
国王陛下と愛妾と、その二人に巻きこまれた護衛のお話。
設定緩めのご都合主義です。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
養子の妹が、私の許嫁を横取りしようとしてきます
ヘロディア
恋愛
養子である妹と折り合いが悪い貴族の娘。
彼女には許嫁がいた。彼とは何度かデートし、次第に、でも確実に惹かれていった彼女だったが、妹の野心はそれを許さない。
着実に彼に近づいていく妹に、圧倒される彼女はとうとう行き過ぎた二人の関係を見てしまう。
そこで、自分の全てをかけた挑戦をするのだった。
続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜
ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎
『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』
第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。
書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。
第1巻:2023年12月〜
改稿を入れて読みやすくなっております。
是非♪
==================
1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。
絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。
前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。
そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。
まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。
前作に続き、のんびりと投稿してまいります。
気長なお付き合いを願います。
よろしくお願いします。
※念の為R15にしています。
※誤字脱字が存在する可能性か高いです。
苦笑いで許して下さい。
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。
主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる