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再会編 ある夜(多紀視点)
二 忘れるわけない
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カズ先輩は、同じ私立高校で、二学年上。俺が一年生のときの三年生の先輩。一年間、一緒に美化委員してて、水やり当番。
湧き出るみたいに思い出す。うわー、懐かしいな。
それにしても相変わらずのイケメン。顔小さい。体型が良い。手足が長い。通り過ぎる老若男女に二度見されまくってる。
背、伸びたなぁ。高校の時も見上げてはいたけど、そこそこ見上げる程度だったのに、いまは視線が合わないくらい高い。羨ましい。俺も伸びたけどまだ伸びたい。
カズ先輩、俺のこと見かけて、見たことがあると思って声かけてくれたんだ。フルネームまでは覚えてないだろうな。先に名乗っておく。
「あれ!? カズ先輩! ご無沙汰してます、四年ぶりですね。あ、俺、森下多紀です! いま苗字違うんですけど、覚えてますか?」
カズ先輩は言った。
「わ、忘れるわけない……」
俺はちょっとドキッとする。
忘れるわけない、か。
みんなに忘れ去られてく存在になるんだって考えて落ち込んだばかりだからさ。忘れるわけないなんて、くすぐったいね。
俺は嬉しくて笑顔。
「偶然ですね!」
「……うん。あ、その、俺、この近くで働いてて」
「あ、そっか。大学卒業、おめでとうございます!」
某法学部にストレート。そこからこのたび商社だって聞いたな。順風満帆系。
今年に入って、高校の友達と話したときに。
小野寺先輩といえば、高校の有名人。俺でも入れる滑り止め私立だけど、カズ先輩は上位層のさらに上澄み。
理事長の親戚で、いいとこのお坊ちゃんで、一学年に一クラスしかない、少人数編成の特別進学科でトップ、つまり学校で一番。
部活は入ってなかったけれど、運動神経も良くて、文武両道のイケメン。
大学受験では難関私大をいくつか受けて、ぜんぶ受かったのって開校以来初の快挙だったそうな。
国公立は受けなかったそうだけど、理系でもないのにどこかの医学部も受かったとか、特進科の中でも偏差値を単独であげてたとか、この人の合格実績のおかげでその後、学校が進学校化してるとか。どこまで本当かわかんない。
世の中には格差ってものがあって、なんでも持って生まれてくるカズ先輩みたいな人もいれば、なんにも持たずに生まれてくる俺みたいなのもいて、関わりなんてあるはずないのに、うっかり同じ高校出身だったりする。
驚きだね。
「ああ、うん。あ、高校卒業おめでとう……」
ありがとうございますと礼をすると、カズ先輩も丁寧に礼。偉ぶってなくて、先輩たちの中でも異色だったな。非体育会系。
目が合って、笑った。
「あはは! なっつかしー! カズ先輩! 漫才コンビ組んだの、覚えてますか?」
漫才コンビ。何かの折りに二人で長く話す機会があって、そんな話をしたんだ。
カズ先輩は、ふんわり笑った。やわらかい笑顔。
「カズ&タキ」
「です!」
カズ先輩が微笑むと、雰囲気が一気に華やぐ。春の陽気みたいだ。そんな顔するようになったんだ?
むかしは、毛を逆立てて威嚇してる警戒心丸出しの猫って感じだったなぁ。人間嫌いっぽくて。俺には優しかったけど、他のひとには冷たかった。
仕方ないよね。もうめちゃくちゃモテてたもん。ファンクラブまであってさ。過激でミーハーだった。だから嫌なことも多かっただろうね。
水やり当番でペアだった俺は、なぜか打ち解けて、いろいろ羨ましがられて、嫉妬もされたし、ファンクラブの会長には、なぜ貴様がと面罵されたな。
「タキくん! 元気にしてた?」
「はい! カズ先輩はどうですか?」
「元気だよ。タキくん、いつもこんな時間? 九時? 遅いね?」
「今日は早いくらいです!」
「そうなんだ。今夜、予定でもあるの?」
七時集合の合コン的飲み会に行く予定だったのだけど、自分のミスで対応に追われてドタキャンすることになったんです!
無様。
それに迷惑行為だから言いたくないよ。
「いえいえ! 十時に上司が戻ってくる予定になっていて、それまでに皆で帰ろうって。上司に見つかったら仕事をいいつけられて朝になっちゃうんですよ。あ、俺もこの近くで働いてるんですけどね」
俺の嘘つき。
「晩ごはんは?」
「あ、食べちゃいました、パン二個ですけど。八時を回ってくるとおなかすいちゃって」
さらに嘘つき。
おなかすいたなぁ。成人男性が昼メシ抜きで夕方にパン二個なんてさ。
就職してから義父に返済してる私立高校の学費、二年で半分も返せたもんだから調子に乗っちゃって、今月返済額をアップしたら、給料日まで持たなかった。
無計画な俺。
でも一年半がんばれば返せるし。そしたら縁だってさっぱり切れるし。
今夜は浮いた金で安い牛丼でも食って帰るか。それかドラッグストアで割引おにぎりと賞味期限直前のセールのカップ麺。いつものじゃん。せめてカップ麺は、美味しそうな新商品にしよう。
「……そっか」
カズ先輩は、なんだか目が泳いでいて、落ち込んでるみたいに見える。
そわそわしているというか。
どうしたんだろ。
湧き出るみたいに思い出す。うわー、懐かしいな。
それにしても相変わらずのイケメン。顔小さい。体型が良い。手足が長い。通り過ぎる老若男女に二度見されまくってる。
背、伸びたなぁ。高校の時も見上げてはいたけど、そこそこ見上げる程度だったのに、いまは視線が合わないくらい高い。羨ましい。俺も伸びたけどまだ伸びたい。
カズ先輩、俺のこと見かけて、見たことがあると思って声かけてくれたんだ。フルネームまでは覚えてないだろうな。先に名乗っておく。
「あれ!? カズ先輩! ご無沙汰してます、四年ぶりですね。あ、俺、森下多紀です! いま苗字違うんですけど、覚えてますか?」
カズ先輩は言った。
「わ、忘れるわけない……」
俺はちょっとドキッとする。
忘れるわけない、か。
みんなに忘れ去られてく存在になるんだって考えて落ち込んだばかりだからさ。忘れるわけないなんて、くすぐったいね。
俺は嬉しくて笑顔。
「偶然ですね!」
「……うん。あ、その、俺、この近くで働いてて」
「あ、そっか。大学卒業、おめでとうございます!」
某法学部にストレート。そこからこのたび商社だって聞いたな。順風満帆系。
今年に入って、高校の友達と話したときに。
小野寺先輩といえば、高校の有名人。俺でも入れる滑り止め私立だけど、カズ先輩は上位層のさらに上澄み。
理事長の親戚で、いいとこのお坊ちゃんで、一学年に一クラスしかない、少人数編成の特別進学科でトップ、つまり学校で一番。
部活は入ってなかったけれど、運動神経も良くて、文武両道のイケメン。
大学受験では難関私大をいくつか受けて、ぜんぶ受かったのって開校以来初の快挙だったそうな。
国公立は受けなかったそうだけど、理系でもないのにどこかの医学部も受かったとか、特進科の中でも偏差値を単独であげてたとか、この人の合格実績のおかげでその後、学校が進学校化してるとか。どこまで本当かわかんない。
世の中には格差ってものがあって、なんでも持って生まれてくるカズ先輩みたいな人もいれば、なんにも持たずに生まれてくる俺みたいなのもいて、関わりなんてあるはずないのに、うっかり同じ高校出身だったりする。
驚きだね。
「ああ、うん。あ、高校卒業おめでとう……」
ありがとうございますと礼をすると、カズ先輩も丁寧に礼。偉ぶってなくて、先輩たちの中でも異色だったな。非体育会系。
目が合って、笑った。
「あはは! なっつかしー! カズ先輩! 漫才コンビ組んだの、覚えてますか?」
漫才コンビ。何かの折りに二人で長く話す機会があって、そんな話をしたんだ。
カズ先輩は、ふんわり笑った。やわらかい笑顔。
「カズ&タキ」
「です!」
カズ先輩が微笑むと、雰囲気が一気に華やぐ。春の陽気みたいだ。そんな顔するようになったんだ?
むかしは、毛を逆立てて威嚇してる警戒心丸出しの猫って感じだったなぁ。人間嫌いっぽくて。俺には優しかったけど、他のひとには冷たかった。
仕方ないよね。もうめちゃくちゃモテてたもん。ファンクラブまであってさ。過激でミーハーだった。だから嫌なことも多かっただろうね。
水やり当番でペアだった俺は、なぜか打ち解けて、いろいろ羨ましがられて、嫉妬もされたし、ファンクラブの会長には、なぜ貴様がと面罵されたな。
「タキくん! 元気にしてた?」
「はい! カズ先輩はどうですか?」
「元気だよ。タキくん、いつもこんな時間? 九時? 遅いね?」
「今日は早いくらいです!」
「そうなんだ。今夜、予定でもあるの?」
七時集合の合コン的飲み会に行く予定だったのだけど、自分のミスで対応に追われてドタキャンすることになったんです!
無様。
それに迷惑行為だから言いたくないよ。
「いえいえ! 十時に上司が戻ってくる予定になっていて、それまでに皆で帰ろうって。上司に見つかったら仕事をいいつけられて朝になっちゃうんですよ。あ、俺もこの近くで働いてるんですけどね」
俺の嘘つき。
「晩ごはんは?」
「あ、食べちゃいました、パン二個ですけど。八時を回ってくるとおなかすいちゃって」
さらに嘘つき。
おなかすいたなぁ。成人男性が昼メシ抜きで夕方にパン二個なんてさ。
就職してから義父に返済してる私立高校の学費、二年で半分も返せたもんだから調子に乗っちゃって、今月返済額をアップしたら、給料日まで持たなかった。
無計画な俺。
でも一年半がんばれば返せるし。そしたら縁だってさっぱり切れるし。
今夜は浮いた金で安い牛丼でも食って帰るか。それかドラッグストアで割引おにぎりと賞味期限直前のセールのカップ麺。いつものじゃん。せめてカップ麺は、美味しそうな新商品にしよう。
「……そっか」
カズ先輩は、なんだか目が泳いでいて、落ち込んでるみたいに見える。
そわそわしているというか。
どうしたんだろ。
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