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5 巣作りと発情期
五 抑制剤(※)
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「尚くん?」
声をかけられて、はっと目を覚ます。
衣類の巣から外を覗くと、ベッドのふちに腰掛けたスーツ姿の文弥さんが、ネクタイをゆるめながら、俺を覗き込んでいた。今しがた、仕事から帰ってきたみたい。
廊下の灯りはついていて、寝室は暗くて、逆光になってるけれど、表情はわかる。文弥さんは優しく微笑んで、俺を見ている。ことのほか優しい目をしている。
「ただいま」
「おかえりなさい……ごめんなさい……」
文弥さんはくすくす笑いながらジャケットを脱いだ。
「これも使う?」
と、ネクタイとジャケットを差し出してくれた。
俺がそろりと手を伸ばして袖を掴むと、脱ぎたてのあたたかいジャケットからは文弥さんのにおいがふわっと漂って、俺は慌てて両方を自分の胸にかき抱いて、鼻を埋める。
ほおずり。すき。このにおいがたまらなくすき。ジャケットのぬくもりに包まれたいけど、鼻を離せない。あたたかくて濃厚なうちに嗅ぎたい。ずうっと嗅いでいたい。
皺にならないようにしなきゃ……。
「シャツと肌着もあるよ」
「ください……」
文弥さんが脱いだものを渡してくる。これもすき。肌がびりびりする。欲しい。
しばらく味わって、俺はやっと衣類の山を抜け出して、脱いだまま待っている文弥さんにまとわりつく。文弥さんのあちこちに鼻を寄せる。肌のにおいを直接感じる。あったかくて気持ちいい。
文弥さんのにおい、いいなぁ。
「おかえりなさい……」
跨って文弥さんの頰を両手でふわっと挟んで唇を吸うようにキスをしながら言うと、文弥さんは幸せそうに笑っていて、なんだか、多幸感で溶けそう。
「ただいま。くすぐったいよ。もっとして」
「ん……」
「尚くん、すんごく可愛いんだけど。どうするの? どうしたらいい?」
「文弥さん……好き……」
「僕の服でこんなことされて、そんなふうに言われたら、僕もう、きみのこと離せないよ」
「離しちゃやだ……」
「なんて。離す気ないけどね」
夢中になってキスをした。
「ん、んぅ……」
「なおくん……」
「ふみやさん……」
「……尚くん、発情期乗り切ったんじゃないの? 途中で抑制剤を飲んでいたよね?」
あ……、気づかれていたんだ。
「んと、最初、抑制剤やめて……、でも、具合が悪くなって、病院いって、強いの一回飲んで……そしたらおさまって……それきり……なにも飲んでないです……」
でも、別荘に行ったときには、すっかりおさまっていた。別荘でセックスはたくさんしたけど、発情期という感じではなかった。
そっか。これ、発情期なのか。どおりで熱いはずだ。
頭がはたらかない。呂律も回らない。
文弥さんのにおいだけで勃起がおさまらなくて、ずっと勃ってる。
文弥さんは跨る俺を優しく抱き寄せ、背中を指先で撫でながら俺の首筋に口付けてくる。くすぐったくてぞくっとする。
「ひゃ」
「周期が乱れたのかな。α用の抑制剤も、尚くんの発情期を前にすると役立たずかも」
「???」
文弥さん、α用の抑制剤、飲んでたんだ。
体が熱くて、頭も熱くて、ぼーっとして何も考えられない。部屋も暑い。汗が噴き出してくる。熱。でも体がだるいわけではなくて、あそこがむずむずする。
「よくせいざい……?」
文弥さんは苦笑した。
「Ωのヒートにあてられて、ラットを起こさないように、事故にならないように自衛するんだよ。αの周りには、事故狙いのΩがたまにいてね。発情期のΩは、αの人生を狂わせてしまうからって、学校では生徒指導が厳しかったよ」
「しどう……」
「なぜ、これほど克己心を持つように教育されてるのに、咬傷事故が後を絶たないのか、そんなのは結局、誘惑に負けたやつの甘えだと思ってた」
でも、いまとなってはわかるなぁ、と文弥さんはため息を吐いた。その息も熱い。文弥さんも熱くなってるみたい。脱いでいるのに、体が熱い。
先走りに濡れた俺のペニスを、文弥さんは片手で軽く扱いている。
「ぁっ、ん、っ」
「あー、すご……抗えないはずだ。すごいにおい」
噛みつくようなキスをしながら、押し倒された。文弥さんは強引で、夢中になったら止まれない。そういうひとだけど、いまはなんだか様子が違う。汗がぽたぽた落ちてくる。
目が怖い。怖いのに、食べられたい。
「尚くんのにおい」
肩をつかんで、鎖骨を噛んだり、肌を食んでる。あちこち舐められるとびくびくして、下半身がずくずくと疼いた。早く、早く欲しい。貫いてほしい。早く。
「ごめん。挿れる。かわいすぎて、もう我慢できない」
「ほしいです、文弥さん」
「僕も尚くんが欲しい」
文弥さんは、性急に挿入してくる。濡れたそこはやすやすと文弥さんを受け入れた。
ずりゅっと一気に入る。文弥さんのペニスは、こんなにも太くて固くて長くて、なんでそんなの体の中に入るのって大きさなのに。
途端、体の中に電気が流れる。強い快感が走った。
「ひっ、あああぁっ!!」
あまりにも気持ちよくて、あげさせられた足が勝手に突っ張って、天井に向かって揺れる足は、指まで広がっている。
「っ、尚くん……っ」
声をかけられて、はっと目を覚ます。
衣類の巣から外を覗くと、ベッドのふちに腰掛けたスーツ姿の文弥さんが、ネクタイをゆるめながら、俺を覗き込んでいた。今しがた、仕事から帰ってきたみたい。
廊下の灯りはついていて、寝室は暗くて、逆光になってるけれど、表情はわかる。文弥さんは優しく微笑んで、俺を見ている。ことのほか優しい目をしている。
「ただいま」
「おかえりなさい……ごめんなさい……」
文弥さんはくすくす笑いながらジャケットを脱いだ。
「これも使う?」
と、ネクタイとジャケットを差し出してくれた。
俺がそろりと手を伸ばして袖を掴むと、脱ぎたてのあたたかいジャケットからは文弥さんのにおいがふわっと漂って、俺は慌てて両方を自分の胸にかき抱いて、鼻を埋める。
ほおずり。すき。このにおいがたまらなくすき。ジャケットのぬくもりに包まれたいけど、鼻を離せない。あたたかくて濃厚なうちに嗅ぎたい。ずうっと嗅いでいたい。
皺にならないようにしなきゃ……。
「シャツと肌着もあるよ」
「ください……」
文弥さんが脱いだものを渡してくる。これもすき。肌がびりびりする。欲しい。
しばらく味わって、俺はやっと衣類の山を抜け出して、脱いだまま待っている文弥さんにまとわりつく。文弥さんのあちこちに鼻を寄せる。肌のにおいを直接感じる。あったかくて気持ちいい。
文弥さんのにおい、いいなぁ。
「おかえりなさい……」
跨って文弥さんの頰を両手でふわっと挟んで唇を吸うようにキスをしながら言うと、文弥さんは幸せそうに笑っていて、なんだか、多幸感で溶けそう。
「ただいま。くすぐったいよ。もっとして」
「ん……」
「尚くん、すんごく可愛いんだけど。どうするの? どうしたらいい?」
「文弥さん……好き……」
「僕の服でこんなことされて、そんなふうに言われたら、僕もう、きみのこと離せないよ」
「離しちゃやだ……」
「なんて。離す気ないけどね」
夢中になってキスをした。
「ん、んぅ……」
「なおくん……」
「ふみやさん……」
「……尚くん、発情期乗り切ったんじゃないの? 途中で抑制剤を飲んでいたよね?」
あ……、気づかれていたんだ。
「んと、最初、抑制剤やめて……、でも、具合が悪くなって、病院いって、強いの一回飲んで……そしたらおさまって……それきり……なにも飲んでないです……」
でも、別荘に行ったときには、すっかりおさまっていた。別荘でセックスはたくさんしたけど、発情期という感じではなかった。
そっか。これ、発情期なのか。どおりで熱いはずだ。
頭がはたらかない。呂律も回らない。
文弥さんのにおいだけで勃起がおさまらなくて、ずっと勃ってる。
文弥さんは跨る俺を優しく抱き寄せ、背中を指先で撫でながら俺の首筋に口付けてくる。くすぐったくてぞくっとする。
「ひゃ」
「周期が乱れたのかな。α用の抑制剤も、尚くんの発情期を前にすると役立たずかも」
「???」
文弥さん、α用の抑制剤、飲んでたんだ。
体が熱くて、頭も熱くて、ぼーっとして何も考えられない。部屋も暑い。汗が噴き出してくる。熱。でも体がだるいわけではなくて、あそこがむずむずする。
「よくせいざい……?」
文弥さんは苦笑した。
「Ωのヒートにあてられて、ラットを起こさないように、事故にならないように自衛するんだよ。αの周りには、事故狙いのΩがたまにいてね。発情期のΩは、αの人生を狂わせてしまうからって、学校では生徒指導が厳しかったよ」
「しどう……」
「なぜ、これほど克己心を持つように教育されてるのに、咬傷事故が後を絶たないのか、そんなのは結局、誘惑に負けたやつの甘えだと思ってた」
でも、いまとなってはわかるなぁ、と文弥さんはため息を吐いた。その息も熱い。文弥さんも熱くなってるみたい。脱いでいるのに、体が熱い。
先走りに濡れた俺のペニスを、文弥さんは片手で軽く扱いている。
「ぁっ、ん、っ」
「あー、すご……抗えないはずだ。すごいにおい」
噛みつくようなキスをしながら、押し倒された。文弥さんは強引で、夢中になったら止まれない。そういうひとだけど、いまはなんだか様子が違う。汗がぽたぽた落ちてくる。
目が怖い。怖いのに、食べられたい。
「尚くんのにおい」
肩をつかんで、鎖骨を噛んだり、肌を食んでる。あちこち舐められるとびくびくして、下半身がずくずくと疼いた。早く、早く欲しい。貫いてほしい。早く。
「ごめん。挿れる。かわいすぎて、もう我慢できない」
「ほしいです、文弥さん」
「僕も尚くんが欲しい」
文弥さんは、性急に挿入してくる。濡れたそこはやすやすと文弥さんを受け入れた。
ずりゅっと一気に入る。文弥さんのペニスは、こんなにも太くて固くて長くて、なんでそんなの体の中に入るのって大きさなのに。
途端、体の中に電気が流れる。強い快感が走った。
「ひっ、あああぁっ!!」
あまりにも気持ちよくて、あげさせられた足が勝手に突っ張って、天井に向かって揺れる足は、指まで広がっている。
「っ、尚くん……っ」
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