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4 寝室の壁と婚約指輪
七* 一目惚れ(※)
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「おや、文弥」
と、教会の建物から誰かが出てきた。小柄なそのひとには見覚えがある。昨日、文弥さんと小箱を覗き込んでいたひとに違いない。
朝の光の中で見ると、ずいぶん年上のようだった。
文弥さんが頭をさげた。
「りじちょー先生。おはようございます」
「お、おはようございます」
俺も頭を下げる。
「おはようございます。よく眠れたかな」
「寝れなかったです。尚くん。理事長先生は、教会の神父様」
「宮下尚です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「近くの幼稚園の理事長をしてるんだ。僕もそこに通ってたの。りんごも作ってる。そしてうちの別荘の管理もしてくれてる、手広い守銭奴なんだ。婚約指輪を見つけた見返りに金銭を要求されてる。贖宥状もびっくりのお金儲け主義」
理事長先生は、呵々と笑った。
「はねっかえりの暴君文弥が一目惚れした尚くん」
「あっ! 僕の秘密を!」
「はねっかえりの暴君?」
「文弥はね、山を駆け回ったり、遊泳禁止の湖で遊んでは落ちて泳いだり。いまはすました顔してるけど、むかしは手がつけられない野生児のガキ大将だったんです」
「えっ」
「しかも文弥ときたら昔から頭がいいせいで妙に姑息で、裏工作にも余念がない」
俺が見ている文弥さんからは考えられない。そういう、俺の知らない顔を、俺が仰いだ横顔に少し滲ませながら、文弥さんは俺の手を取った。
「さぁて、ご挨拶は終わり。帰ろ帰ろ~」
理事長先生は手を振ってくる。先を歩く文弥さんに強く引かれながら、俺は理事長先生に頭を下げた。
「あのっ、りんご、ありがとうございました! 美味しかったです!」
「おぉ。今度たくさん送ってあげよう。代引きで」
「えっ!?」
「送りつけ商法だよ」
湖畔の教会から遠ざかるように、遊歩道を歩いていく。朝の空気は冷たく、気持ちいい。
文弥さんは何事もなかったかのように振り返ってにっこり笑った。
「今日は街のほうに散策にいこうか。すごくおいしいフルーツジャムのお店があって、尚くんに食べてもらいたいな」
俺は文弥さんを見つめる。
「さっきの理事長先生の話は、話半分にしようね。小さい頃はちょっとジャイアンだったけれど、いまは中間管理職で上からは潰され下からは突き上げられて悲鳴をあげてる。可哀相なんだよ。ほんとだよ」
文弥さんは、よよよ……としなった。
俺は笑った。
「あっ、そうだ。揚げたてカレーパンと、焼き立てカスタードアップルパイ。出来立てのプリン、ハンバーグ。ソフトクリームやジェラートはまだ寒いかなぁ。美味しいチーズもあるよ。ドーナッツ、ピロシキ。僕、おなかすいてきちゃった!」
「俺も」
別荘にたどり着いた。でも、散策は後回し。
キスをしながら、ニット帽を脱いだり、手袋を外したり、コートを脱いだり。
転がるように二階に駆け上がると、すぐにシャツや下も脱いで、裸になって、ベッド。
文弥さんは俺の胸を食べてる。俺は文弥さんの頭を抱えて、額を舐めたり、髪を食んだりする。
「んっんっ、文弥さんっ」
「あー、尚くんのここ本当に可愛い……」
可愛い可愛いと乳首をつまみながら肌のあちこちを滑るみたいに口付けられて、大きな手のひらであちこちをさすられて、とろとろ。文弥さんの潤んだ瞳と見つめ合う。
抱きしめると、熱くて汗ばんで、溶けそうだった。
「尚くん」
耳元でささやかれるたびに、このひとのもっと余裕のない声が聞きたいと思う。
足をあげさせられて、屈曲位。深く差し込まれて息ができない。
「っ、んん……」
「尚くん……」
文弥さんは俺の太ももの裏を押すようにして、上から、ペニスを根元まで挿入する。毛が当たり、恥骨ごと、こすりつけてくる。文弥さんは、ふぅ、と息を吐いた。
「尚くん、こことろとろ。こんなに深くて大丈夫?」
「きもちい、です」
「これ、好き?」
「好きです……あっ、なかで、大きく……」
「尚くんが可愛いせい」
そんなふうに甘く優しくいうくせに、すごく凶暴に、杭を打つみたいに奥を突いて、抉って、みだらな水音を立てる。
「いっ、あっ」
「ここ食らいついて離さないね。もう僕の形になったかな。誰のものでも満足できないように」
ぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅと、高速で突かれて、俺のペニスは勝手に射精。ピストンの強さに振り回されながら、精液を垂れ流してびくびく震えている。
「んあっ、あっ、ああっ」
覆いかぶさってきた文弥さんの胴体にしがみつく。にゅく、といちばん奥に達した文弥さんの先っぽを感じる。
「尚くんの、赤ちゃん作るところ」
「ひっ、あっあっ」
「でしょ?」
「うっ、あっ、は、はい、あっあっ」
「いきそう……」
根元の部分まで嵌められて、串刺し。身動きがとれない。
文弥さんは腰をこすりつけるみたいにして激しく動く。射精するみたいだ。夢中になってる。中で更に固く、大きくなった。俺は足首をきつく掴まれて、しっかり嵌められてる。
真っ赤になって汗だくの文弥さんを見ていると、俺もすごく熱い。
「あっ、締まる、尚くん」
「っ、んっ、好き……」
「尚くん……!」
ひとつになりながら、かき抱き合って、唇を押し付けあった。
文弥さんは、俺の頭を抱く。
心臓の音がすごい。叩くみたいに打つ鼓動、激しい息遣い、噴き出した汗、唇を離して、一センチの距離。
まつげ長いな。大きな瞳。
俺のこと見てる。
「尚くん、愛してる……」
「文弥さん……俺も……」
俺は文弥さんの広い背中に腕を回した。
〈寝室の壁と婚約指輪 終わり〉
と、教会の建物から誰かが出てきた。小柄なそのひとには見覚えがある。昨日、文弥さんと小箱を覗き込んでいたひとに違いない。
朝の光の中で見ると、ずいぶん年上のようだった。
文弥さんが頭をさげた。
「りじちょー先生。おはようございます」
「お、おはようございます」
俺も頭を下げる。
「おはようございます。よく眠れたかな」
「寝れなかったです。尚くん。理事長先生は、教会の神父様」
「宮下尚です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「近くの幼稚園の理事長をしてるんだ。僕もそこに通ってたの。りんごも作ってる。そしてうちの別荘の管理もしてくれてる、手広い守銭奴なんだ。婚約指輪を見つけた見返りに金銭を要求されてる。贖宥状もびっくりのお金儲け主義」
理事長先生は、呵々と笑った。
「はねっかえりの暴君文弥が一目惚れした尚くん」
「あっ! 僕の秘密を!」
「はねっかえりの暴君?」
「文弥はね、山を駆け回ったり、遊泳禁止の湖で遊んでは落ちて泳いだり。いまはすました顔してるけど、むかしは手がつけられない野生児のガキ大将だったんです」
「えっ」
「しかも文弥ときたら昔から頭がいいせいで妙に姑息で、裏工作にも余念がない」
俺が見ている文弥さんからは考えられない。そういう、俺の知らない顔を、俺が仰いだ横顔に少し滲ませながら、文弥さんは俺の手を取った。
「さぁて、ご挨拶は終わり。帰ろ帰ろ~」
理事長先生は手を振ってくる。先を歩く文弥さんに強く引かれながら、俺は理事長先生に頭を下げた。
「あのっ、りんご、ありがとうございました! 美味しかったです!」
「おぉ。今度たくさん送ってあげよう。代引きで」
「えっ!?」
「送りつけ商法だよ」
湖畔の教会から遠ざかるように、遊歩道を歩いていく。朝の空気は冷たく、気持ちいい。
文弥さんは何事もなかったかのように振り返ってにっこり笑った。
「今日は街のほうに散策にいこうか。すごくおいしいフルーツジャムのお店があって、尚くんに食べてもらいたいな」
俺は文弥さんを見つめる。
「さっきの理事長先生の話は、話半分にしようね。小さい頃はちょっとジャイアンだったけれど、いまは中間管理職で上からは潰され下からは突き上げられて悲鳴をあげてる。可哀相なんだよ。ほんとだよ」
文弥さんは、よよよ……としなった。
俺は笑った。
「あっ、そうだ。揚げたてカレーパンと、焼き立てカスタードアップルパイ。出来立てのプリン、ハンバーグ。ソフトクリームやジェラートはまだ寒いかなぁ。美味しいチーズもあるよ。ドーナッツ、ピロシキ。僕、おなかすいてきちゃった!」
「俺も」
別荘にたどり着いた。でも、散策は後回し。
キスをしながら、ニット帽を脱いだり、手袋を外したり、コートを脱いだり。
転がるように二階に駆け上がると、すぐにシャツや下も脱いで、裸になって、ベッド。
文弥さんは俺の胸を食べてる。俺は文弥さんの頭を抱えて、額を舐めたり、髪を食んだりする。
「んっんっ、文弥さんっ」
「あー、尚くんのここ本当に可愛い……」
可愛い可愛いと乳首をつまみながら肌のあちこちを滑るみたいに口付けられて、大きな手のひらであちこちをさすられて、とろとろ。文弥さんの潤んだ瞳と見つめ合う。
抱きしめると、熱くて汗ばんで、溶けそうだった。
「尚くん」
耳元でささやかれるたびに、このひとのもっと余裕のない声が聞きたいと思う。
足をあげさせられて、屈曲位。深く差し込まれて息ができない。
「っ、んん……」
「尚くん……」
文弥さんは俺の太ももの裏を押すようにして、上から、ペニスを根元まで挿入する。毛が当たり、恥骨ごと、こすりつけてくる。文弥さんは、ふぅ、と息を吐いた。
「尚くん、こことろとろ。こんなに深くて大丈夫?」
「きもちい、です」
「これ、好き?」
「好きです……あっ、なかで、大きく……」
「尚くんが可愛いせい」
そんなふうに甘く優しくいうくせに、すごく凶暴に、杭を打つみたいに奥を突いて、抉って、みだらな水音を立てる。
「いっ、あっ」
「ここ食らいついて離さないね。もう僕の形になったかな。誰のものでも満足できないように」
ぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅと、高速で突かれて、俺のペニスは勝手に射精。ピストンの強さに振り回されながら、精液を垂れ流してびくびく震えている。
「んあっ、あっ、ああっ」
覆いかぶさってきた文弥さんの胴体にしがみつく。にゅく、といちばん奥に達した文弥さんの先っぽを感じる。
「尚くんの、赤ちゃん作るところ」
「ひっ、あっあっ」
「でしょ?」
「うっ、あっ、は、はい、あっあっ」
「いきそう……」
根元の部分まで嵌められて、串刺し。身動きがとれない。
文弥さんは腰をこすりつけるみたいにして激しく動く。射精するみたいだ。夢中になってる。中で更に固く、大きくなった。俺は足首をきつく掴まれて、しっかり嵌められてる。
真っ赤になって汗だくの文弥さんを見ていると、俺もすごく熱い。
「あっ、締まる、尚くん」
「っ、んっ、好き……」
「尚くん……!」
ひとつになりながら、かき抱き合って、唇を押し付けあった。
文弥さんは、俺の頭を抱く。
心臓の音がすごい。叩くみたいに打つ鼓動、激しい息遣い、噴き出した汗、唇を離して、一センチの距離。
まつげ長いな。大きな瞳。
俺のこと見てる。
「尚くん、愛してる……」
「文弥さん……俺も……」
俺は文弥さんの広い背中に腕を回した。
〈寝室の壁と婚約指輪 終わり〉
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