3 / 5
Alcoholic Beauty
しおりを挟む
成人式を迎えた。
「ねぇ、菜乃花。この後バーに行かない?」
菜乃花は友人から誘いを受け、人生初のバーへ足を運ぶことにした。
バーは、ドラマなどでよく見ていたらしく、皆、小さく騒いだ。
友人は先輩のオススメのお店だと言う。
メジャーな酒から、癖のある酒、珍しい酒、そして、この店でしか取り扱ってない酒。
いかにも高級そうだが、メニューの値段は普通のカクテルと同じ料金だった。
カウンター席に腰をかけると、バーテン服を身につけたマスターが礼儀良く挨拶してきた。
友人は、「マスターの気まぐれで」と頼んだ。先輩に言われた通りにしているのだろうか。
菜乃花も他の友人も右に同じくと続けた。
マスターは、「承知致しました」と軽く頭を下げ、一人一人の顔を覗き見た。
お花は好きですか? 好きな動物は? 生まれはどこですか? などなど、よくわからない質問を一人一人にした。
マスターは少しの間考える素振りを見せ、その後、ブレンドした酒をシェイクした。
菜乃花を含め、皆小声で歓声をあげた。
最初に頼んだ友人のがきた。
今までにない美味しさに目を見開いていた。
皆それぞれ、味と風味に満足したようだ。
「皆様のお好みでブレンドされております。お楽しみいただけましたでしょうか?」
「おかわりいいですか?」
「承知致しました」
酔い始めた頃に、マスターは提案してきた。
「皆様、占いはお好きでしょうか?」
皆、「好きぃ!」と元気良く言い放つ。
「それは良かったです。私、手相占いを嗜んでおりまして、皆様いかがでしょうか?」
異口同音に「やるぅ!」と言葉が飛び交う。
マスターは頭を軽く下げた。
一人一人見てもらった。
「お客様は、電撃結婚なさる方のようです。子供は二人、女の子と男の子ですね。そして、お客様は現在、恋人がいらっしゃいますね」
「すごい、彼氏いるの当たってるぅ!」
笑いと驚きの連鎖だった。次々に見てもらうなか、菜乃花だけは時間がかかった。マスターは必要以上に手に触れ、腕まで隈なく舐めるように見た。
その日の帰り際に、菜乃花はマスターから手紙をもらった。
手紙の内容はバイトの誘いだった。時給もかなり高く、マスターは温厚な紳士、非の打ち所がないバーで働けるのは幸運だった。
次の日から菜乃花は早速バイト始めることにした。
マスターは満面の笑みで菜乃花を歓迎していた。
夜になると、友人たちが飲みに来てくれる。
菜乃花にとっては毎日が幸せだった。
バイトを続けて一年。
マスターに店が閉店した後で、マスターに呼び出された。
「なんですか? マスター」
「君に見せたいものがあるんだ」
そういってマスターは地下に続く階段へ、菜乃花を連れた。
布で覆われている大きな箱のようなものが十数箱あった。
「マスターこれなんですか?」
「菜乃花君、お酒は好きかい?」
話題を変えてきた。触れてはいけないことなのだろうか。
「はい、大好きですが」
「私もだ」
マスターは小ビンを取り出し、ガラスのコップに注いだ。
「これを飲んでみたまえ」
菜乃花は躊躇する素振りもなくそれを飲んだ。
「美味しいで……す…………」
菜乃花は目の前が霞み、足元がふらついた。
気がつくと、巨大な瓶の中にいた。
「マスター、これは!」
ガラス越しに立っていたマスターは、先ほど布を被っていた箱らしきものの正体をみせた。
酒に漬かった女性の数々。
菜乃花は声が出なかった。震えが止まらなかった。
「菜乃花君! 君を一目見たとき思ったよ。君は、美しい! 君の好きな動物は意外にも蛇で、好きな花はガーベラ。地元愛は人並み以上。何より君の透き通ったその肌!酒に漬けたらどんな美酒が生まれるのか、私は見たくてたまらないよ!」
マスターは狂い、不気味に笑い出した。
「ああ、そうそう。君と一緒につける蛇なんだけど、コブラなんてどうかな。外国でも人気なんだよ」
そういって巨大ビンに梯子をかけ、一段、また一段と菜乃花に迫って来る。
「いや……嫌だよマスター! 元の、私の知ってるマスターに戻って! お願い! マスター!」
「心配しなくていいよ菜乃花君、そこまで鬼ではないよ。ちゃんとコブラの毒液は抜いておいたから」
マスターはコブラを数匹投下した。
コブラは、容赦なく菜乃花に噛み付く。足、腕、腹、首に牙を刺し、何重にも巻きつく。
痛い。苦しい。
何かがまた投下された。
ーーーーアルコール。
冷たい液体が身体から体温を奪っていく。
唇が紫になり、震えだした。
「これで君はもう、私のものだ。愛してるよ菜乃花君」
マスターの狂気に満ちた笑い声が遠のいていく。
ーーーーなんて醜いんだろう。
「いらっしゃいませ」
菜乃花の友人だった。
「あんたの占い外れたじゃない」
菜乃花の友人はカウンターテーブルを叩いた。
「何が永遠に幸せになりますだよ。ふざけんなよ! 菜乃花をどこにやったのよ!」
バーに怒声が響く。
カウンターに座っていた別の女性が恐れている。
「お客様、他のお客様のご迷惑となりますので、どうぞおかえりください」
マスターはとぼけた顔で、菜乃花の友人に告げた。
菜乃花の友人は舌打ちを残してバーを出て行った。
「申し訳ありませんでした。お客様」
「いいえ。それより美味しいですね、これ」
女性は場の空気の換気に、話題を変えてきた。
「ありがとうございます。そちらの酒は私の新作でございます。お楽しみいただけて何よりです」
マスターはそう言って頭を軽く下げると、上目で彼女を見つめた。
「なんて美しいんだろう」
「何か言いました?」
「いいえ、何でもございません」
彼女が飲んだ美酒は、ほんわかにガーベラの風味がした。
「ねぇ、菜乃花。この後バーに行かない?」
菜乃花は友人から誘いを受け、人生初のバーへ足を運ぶことにした。
バーは、ドラマなどでよく見ていたらしく、皆、小さく騒いだ。
友人は先輩のオススメのお店だと言う。
メジャーな酒から、癖のある酒、珍しい酒、そして、この店でしか取り扱ってない酒。
いかにも高級そうだが、メニューの値段は普通のカクテルと同じ料金だった。
カウンター席に腰をかけると、バーテン服を身につけたマスターが礼儀良く挨拶してきた。
友人は、「マスターの気まぐれで」と頼んだ。先輩に言われた通りにしているのだろうか。
菜乃花も他の友人も右に同じくと続けた。
マスターは、「承知致しました」と軽く頭を下げ、一人一人の顔を覗き見た。
お花は好きですか? 好きな動物は? 生まれはどこですか? などなど、よくわからない質問を一人一人にした。
マスターは少しの間考える素振りを見せ、その後、ブレンドした酒をシェイクした。
菜乃花を含め、皆小声で歓声をあげた。
最初に頼んだ友人のがきた。
今までにない美味しさに目を見開いていた。
皆それぞれ、味と風味に満足したようだ。
「皆様のお好みでブレンドされております。お楽しみいただけましたでしょうか?」
「おかわりいいですか?」
「承知致しました」
酔い始めた頃に、マスターは提案してきた。
「皆様、占いはお好きでしょうか?」
皆、「好きぃ!」と元気良く言い放つ。
「それは良かったです。私、手相占いを嗜んでおりまして、皆様いかがでしょうか?」
異口同音に「やるぅ!」と言葉が飛び交う。
マスターは頭を軽く下げた。
一人一人見てもらった。
「お客様は、電撃結婚なさる方のようです。子供は二人、女の子と男の子ですね。そして、お客様は現在、恋人がいらっしゃいますね」
「すごい、彼氏いるの当たってるぅ!」
笑いと驚きの連鎖だった。次々に見てもらうなか、菜乃花だけは時間がかかった。マスターは必要以上に手に触れ、腕まで隈なく舐めるように見た。
その日の帰り際に、菜乃花はマスターから手紙をもらった。
手紙の内容はバイトの誘いだった。時給もかなり高く、マスターは温厚な紳士、非の打ち所がないバーで働けるのは幸運だった。
次の日から菜乃花は早速バイト始めることにした。
マスターは満面の笑みで菜乃花を歓迎していた。
夜になると、友人たちが飲みに来てくれる。
菜乃花にとっては毎日が幸せだった。
バイトを続けて一年。
マスターに店が閉店した後で、マスターに呼び出された。
「なんですか? マスター」
「君に見せたいものがあるんだ」
そういってマスターは地下に続く階段へ、菜乃花を連れた。
布で覆われている大きな箱のようなものが十数箱あった。
「マスターこれなんですか?」
「菜乃花君、お酒は好きかい?」
話題を変えてきた。触れてはいけないことなのだろうか。
「はい、大好きですが」
「私もだ」
マスターは小ビンを取り出し、ガラスのコップに注いだ。
「これを飲んでみたまえ」
菜乃花は躊躇する素振りもなくそれを飲んだ。
「美味しいで……す…………」
菜乃花は目の前が霞み、足元がふらついた。
気がつくと、巨大な瓶の中にいた。
「マスター、これは!」
ガラス越しに立っていたマスターは、先ほど布を被っていた箱らしきものの正体をみせた。
酒に漬かった女性の数々。
菜乃花は声が出なかった。震えが止まらなかった。
「菜乃花君! 君を一目見たとき思ったよ。君は、美しい! 君の好きな動物は意外にも蛇で、好きな花はガーベラ。地元愛は人並み以上。何より君の透き通ったその肌!酒に漬けたらどんな美酒が生まれるのか、私は見たくてたまらないよ!」
マスターは狂い、不気味に笑い出した。
「ああ、そうそう。君と一緒につける蛇なんだけど、コブラなんてどうかな。外国でも人気なんだよ」
そういって巨大ビンに梯子をかけ、一段、また一段と菜乃花に迫って来る。
「いや……嫌だよマスター! 元の、私の知ってるマスターに戻って! お願い! マスター!」
「心配しなくていいよ菜乃花君、そこまで鬼ではないよ。ちゃんとコブラの毒液は抜いておいたから」
マスターはコブラを数匹投下した。
コブラは、容赦なく菜乃花に噛み付く。足、腕、腹、首に牙を刺し、何重にも巻きつく。
痛い。苦しい。
何かがまた投下された。
ーーーーアルコール。
冷たい液体が身体から体温を奪っていく。
唇が紫になり、震えだした。
「これで君はもう、私のものだ。愛してるよ菜乃花君」
マスターの狂気に満ちた笑い声が遠のいていく。
ーーーーなんて醜いんだろう。
「いらっしゃいませ」
菜乃花の友人だった。
「あんたの占い外れたじゃない」
菜乃花の友人はカウンターテーブルを叩いた。
「何が永遠に幸せになりますだよ。ふざけんなよ! 菜乃花をどこにやったのよ!」
バーに怒声が響く。
カウンターに座っていた別の女性が恐れている。
「お客様、他のお客様のご迷惑となりますので、どうぞおかえりください」
マスターはとぼけた顔で、菜乃花の友人に告げた。
菜乃花の友人は舌打ちを残してバーを出て行った。
「申し訳ありませんでした。お客様」
「いいえ。それより美味しいですね、これ」
女性は場の空気の換気に、話題を変えてきた。
「ありがとうございます。そちらの酒は私の新作でございます。お楽しみいただけて何よりです」
マスターはそう言って頭を軽く下げると、上目で彼女を見つめた。
「なんて美しいんだろう」
「何か言いました?」
「いいえ、何でもございません」
彼女が飲んだ美酒は、ほんわかにガーベラの風味がした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
くのこは奇妙現象集
芋多可 石行
ホラー
ある組織の職員、競流 触司(せる ふれじ)が、あちこちから集めた変コワな話、奇妙でちょっとKOWAい話、コワイイ話などを、短編集形式でご紹介します。
勇気っぽいものがある方、創作奇譚でも構わない方はどうぞお気軽にお立ち寄り下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる