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第5章 神殿のダンジョン

25話

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「皆さん、こんにちは! 葵です。今日はこの神殿のダンジョンにやって来ました~」

 葵がドローンに向かって挨拶をすると、隣にいるセリナも同じように丁寧にお辞儀をする。

「セリナです。このダンジョンは葵さんと出会えた場所なのでよく覚えています。今日もよろしくお願いします!」


〈よっしゃ~ 一番乗りだ!〉
〈やった~ 今日も楽しみだ!〉
〈本当だ! このダンジョンって2人が出会った場所じゃん!〉
〈懐かしいダンジョンだな~〉
〈今日も楽しみです。頑張って下さい!〉
〈今日はどんな冒険が待ってるんだ?〉
〈魔王が何か仕掛けてる? 楽しみすぎる!〉
〈この2人を見ていると癒される~〉
〈今回も無双撃が見られるか?〉


「では、早速ダンジョンに挑んでいきますが、せっかくなので、質問に答えようと思います! どんどん質問して下さい!」

 突如始まった質問コーナーにも関わらず、コメント欄に2人に関する興味深い質問が流れる。葵とセリナはダンジョンに足を踏み入れると、雑魚敵を倒しながらコメント欄に目を通した。

「セリナちゃんに早速質問が来てるよ。えっと、好きな食べ物はなんですか? だって」

「好きな食べ物ですか? そうですね……葵さんの手料理ならなんでも好きです! 特に生姜焼きが美味しかったです!」


〈いいな~ 食べてみたいな~〉
〈生姜焼きって美味しいよね~〉
〈葵ちゃんお料理が上手だよね!〉
〈私も葵ちゃんの手料理が食べたい!〉
〈前回のローストビーフも食テロだったよね〉
〈葵ちゃん、いいお嫁さんになるだろうな〉


「生姜焼き、確かに私も好きだよ。さてと、次の質問が……私にだね。『今まで一番怖かった事はなんですか?』怖かったことね……」

 葵は正面から飛びかかってきたゴブリンを、銀の槍で一突きして倒すと、ぽつりと話し始めた。

「やっぱり、以前このダンジョンに来た時に、宝箱のトラップにかかって地下深くに飛ばされた時かな? あの時は本気で死んだと思ったよ」

 葵は当時のことを思い出すように目を細めると、じっとセリナの顔を見つめて微笑んだ。

「でも、そのおかげでセリナちゃんに会えたと思えば、よかったな~ って思うよ」

「葵さん……私も葵さんに出会えて本当によかったです!」

 セリナの目には優しい光が宿り、葵の表情も柔らかく和んでいる。2人はしばらく無言で見つめ合い、心の中で言葉にならない感謝の気持ちと絆を確かめ合っていた。


〈ねぇ、今聞いた? 2人の友情が素敵すぎる!〉
〈やばい、泣きそう……本当にいいコンビだね〉
〈もっと2人の話が聞きたい!〉
〈応援してます。ずっと2人を応援します!〉
〈何これ、尊すぎでしょ〉

 
 葵はコメント欄を見て視聴者の反応に気づき、少し照れくさそうに笑って次の質問に答えた。

「えっと何々?『2人は家ではどう過ごしていますか?』だって」

 セリナは目を閉じて唸ると、普段の家で過ごす時の様子を思い出しながら答えた。

「えっと、まず家に帰ってきたら、機材を片付けて、葵さんの作る夜ご飯をいただきます。これが本当にどれも絶品で……その後は2人で食器を片付けて、お風呂に入って、背中を洗い合って……」


〈えっ、何? 2人でお風呂に入っているの?〉
〈仲良しだね!〉
〈羨ましいな~〉
〈証拠の動画はありませんか(笑〉
〈なんかもう、カップルじゃん!〉


 セリナはコメント欄の反応に気づいていないのか、さらに視聴者が喜びそうな返答をする。

「それでお風呂に入った後は、髪を手入れしてもらって、今日の反省会をしながら一緒のベッドで寝ています」


〈完全にカップルじゃん(笑〉
〈もう、付き合っちまえよ!〉
〈いいな~ 羨ましい!〉
〈証拠画像はありませんか(2回目〉
〈家でもイチャコラしてるのか~〉
〈甘えん坊なセリナちゃん、見てみたいな〉


 コメント欄は2人の私生活を想像しながら、どんどん盛り上がっていく。葵はコメントを見ると、顔を赤らめながら微笑んだ。

「みんな、誤解しないでよ!」

「そっそうですよ!」

 隣にいるセリナも照れくさそうに頬を赤く染める。葵は気を取り直すように咳払いすると、質問コーナーを再開した。

「さとて、次が……『今後2人で一緒にやりたい事はなんですか?』だって」

「2人でやりたい事ですか……そうですね~ 朝も少し話してましたが、葵さんと一緒にショッピングモールに行ってみたいです!」

「そうだったね、じゃあ、今度の休みに行ってみようか」

「はい!」

 セリナはパァッと明るい笑みを浮かべると、子供のようにぴょんぴょんと跳ねる。その動きに合わせて長い髪も元気よく跳ねた。


〈喜んでいるセリナちゃん可愛い!〉
〈なるほど、次はショッピングデートか~〉
〈もう完全にカップルじゃん!〉
〈いいな~ それ動画配信してほしい!〉
〈羨ましいな~〉
〈ショッピングモールっていいよね〉



「さてと、次が最後くらいかな? えっと……『葵さんが動画配信を始めたきっかけはなんですか』そういえばまだ話していなかったかな?」

「私も気になります! どうして葵さんはダンジョン配信を始めたのですか?」

 セリナも興味深そうに目を輝かせる。葵は小さく唸ると、ぽつり、ぽつりと話し始めた。

「実は私のお母さんもダンジョン配信をしていたの。まぁ、あまり人気は出なかったけどね……」

 葵は苦笑いを浮かべながらも懐かしむように続きを語る。

「でもね、すごく楽しそうだったの。ダンジョンにはいろんな発見があってどれも魅力的で……」

 一瞬、葵の言葉が途切れる。彼女は視線を落として手元の銀の槍をじっと見つめた。

「でも……ある日、お母さんが事故で死んじゃったの。魔物に襲われてる人を助けようとしたらそのまま……」

 葵の表情は徐々に曇り、セリナは心配そうに葵の顔を覗き込む。

「大丈夫です、私が側にいるので葵さんは1人じゃありません! それに天国にいるお母様も見ていると思いますよ!」

 気がつくと葵はセリナに抱きしめられていた。不思議な安心感に包まれて暗くなりかけた気持ちが暖かくなる。

「私ね……お母さん目指して登録者数100万人を叶えてあげたいの。だから代わりにダンジョン配信を初めて……」

「きっと葵さんなら叶えられます! 私も協力しますね」

「うん、ありがとう、セリナちゃん!」

 葵はニコッと微笑んでセリナを見つめる。もうその表情にはいつもの明るい雰囲気が戻っていた。


【5000円】〈葵ちゃん、真面目だな~(泣〉
【4000円】〈俺たちはいつまでもついていきます!〉
【12000円】〈2人なら絶対に100万人いけます!〉
【10000円】〈これからも応援します!〉
【15000円】〈きっと天国のお母さんも見てるよ!〉
【3000円】〈セリナちゃんいいこと言うな~(涙〉
【6000円】〈2人の会話が尊い。これからも応援し続けます!〉


 その後も視聴者とのやり取りをして、気がつくと魔王が待っている大広間までたどり着いた。明らかに道中とは違って強そうな魔物の気配を感じる。

 葵とセリナは小さく頷くと、質問コーナーをやめて気を引き締めた。すると、大広間に魔王の笑い声が響いた。
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