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第2章 黒領主の旦那様

32 黒い天使再臨

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 無事試練を終えた私とユージーンは、なぜかココとムムを肩に乗せ来た道を戻っていた。

「洞窟を出ちゃったけど……」
「完全に懐かれたな」

 人見知りをしない金色のココがユージーンの肩に乗り、内気なムムは私の肩で髪に潜っている。金と金、黒と黒の組み合わせだ。
 私とムムは、ユージーンやココみたいな行動的なタイプと相性がいいのかもしれない。

『ムー』
『ムムは、クローディアについて行くって言ってるよ。ムムが心配だから、僕も一緒に行くね』

「えっ? あなたたちのお役目って、試練の番人みたいなものでしょう? その場を離れちゃダメじゃない?」

 ついてくる気満々の二匹に、公国の試練の掟を崩していいのか不安になる。ただでさえ、公国内を掻き回している自覚はあるのに……。

『公の血族と気概のある姻族しか来ないから、五年前に生まれたクローディアの再従姉弟にあたるチャールズが大きくなるまで、お役御免だもん』
「ああ、コンラッドの息子とやらか」

 訳知り顔でユージーンがココに応じている。ユージーンは、ここにくる前ウォルトお兄様から経営学について学んでいる間も、到着して闇魔法の修得に励んでいる間も、公国に関して調べものを短期間でしてくれていたものね。
 まさかお母様が公と思っていなかった私は、事前に気候や風習を詰め込むので精一杯だったというのに……。
 本当に頼もしい。

「そのチャールズ君って子を、お母様は次の公にとお考えなんでしょう? でも、まだ五歳なんだよね……」

 コンラッドさんは母と年齢が近く見えるのに、私とチャールズ君の年齢差が大きい。
 コンラッドさんって、意外と若いのかな?
 私の疑問を、聞いてもいないのにココが晴らしてくれた。

『コンラッドはレイラのことが好きで、だいぶ拗らせてたんだよ。想い続けていれば、いつかレイラが振り向いて、自分を夫にしてくれると思っていたんだ』

 頭を抱えてしまった。そこにもまた、切ない恋の物語があったのだろう……。

「しつこい男だな」
『君もなかなかだったんだろう? コンラッドのことは言えなさそうだけど――ひゃっ!?』

 ユージーンに弱い顎の下を撫でられ、ココはダラリと気持ち良さそうになる。

『ゴホンゴホンッ――で、ようやく世継ぎが生まれたんだよ。でも、あいつって、ジイサンとレイラのどちらにも良い顔しようとしてるから、主体性がないんだよね。そんなんだから、クローディアのお父さんに負けたんだろうにさ』

 私たちへのあたりが強かった理由が分かった気がするけれど、そこまで暴露して良かったのかな?
 身内の内情を聞かされ押し黙る私の変わりに、ユージーンが口を開く。

「なんとなく予想はしていたけれど、コンラッドの奥さんはよく愛想をつかさなかったな。あっ、待てよ……。――前公クリフトン様のことで何か知っていることはあるか?」

 ユージーンがコンラッドさんとお祖父様のことで、なにかを閃いたらしい。

『う~ん。今はレイラの監視もだいぶ弱めて、愛人のグレースに入れこんでいるらしいよ~』
『ムームームー』

『えっ、なになに? レイラは父親の恋愛を否定はしてないけれど、そんなところも自分とは相いれないって感じてるんだってさ~』
「俺はレイラ様と同じタイプだな」
「私もそうかも。きっと、オリバー小父様もね」

 ユージーンも私も、お母様の気持ちをよく理解できた。

 とりとめもなく、そんな話をしながら来た道を戻っていると、なんと、お母様とニナさんが私たちを迎えに来てくれていた。私はすぐに走り出す。

「お母様! もうお身体はよろしいのですか!?」
「大丈夫よ、クローディア。ニナから聞かなかった? 私はロシスターの騎士に混じって訓練していたのよ? 体力だけはあるんだから」

 細腕に力瘤を作るマネをしたお母様に安堵する。私は無事試練を終えたことを報告し、ついてきたココとムムを紹介した。

「まあ、聖獣の子どもたちね。試練の谷の伝承で、実在する生き物とは知ってはいたけれど、まさか会うことになるなんて」
『レイラの闇魔法もえげつなかったけど、クローディアのも強烈だったよ。僕たちすっかり魅了されちゃった。二週間そこそこで、よくここまで叩き込んだね』

「あら、そうかしら? ほほほほほ」

 お母様……、満更でもなさそう。でも、どうやら二匹を連れて帰ったのは、軽い話ではないのかも。
 ウィンドラの公でさえ知らない生き物たちは伝承上の存在ですって……。

「さて、レイラ様。これでクソジジイと堅物粘着朴念仁をこらしめてやりましょうか!」
「そうね、ニナ。人生の半分は真面目に公をしてきたんだもの、ここらで反撃して立場を分からせてやりましょう!」

 ニナさんも、お母様の影響を受け続けた弊害があるみたい。でも、乙女の様にキャアキャアと楽しそうなのでよしとする。
 って、二人の様子に目を細めている場合ではなかった。公国の聖獣を洞窟に返してこないと――


「ココとムムは、しばらくクローディアと行動を共にするそうです。チャールズ殿が成長するまで、数年はついてくると言っています」

 やっぱりココとムムを洞窟に連れていくため相談しようかと悩んでいたら、ユージーンが先手を打って報告してしまった。

「すごいわ! これで完璧に飛竜はこちら側についたじゃない!」
「えっ!? それはどういうことでしょうか?」


 信じられないけれど、飛竜たちはこの二匹の命令を最優先で聞くらしい。なんでも、生き物としての格がこのチビちゃんたちの方が上だからとか。
 私が明らかに不信感を抱いていたからか、ムムが飛竜に命じたらしい。

『ムー!』

 一頭の飛竜が私たちの目の前に降り立ち、ココとムムにかしずいた。

「なるほど、素晴らしい……。この聖獣たちの姿を見た者はいないのですよね。――レイラ様。私によい考えがあります――」
「あら? ユージーン君、いい顔をしてるわ。ソフィアにそっくり過ぎて昔を思い出しニヤケちゃうじゃない。当然乗るわよ」

 そしてまた、黒天使ユージーンの悪巧みが始まった。お母様とニナさんまで加わって――
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