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第1章 黒領主の婚約者
16 真実を知る
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「今までクローディアに言えずにいたことがある。お願いだから聞いてくれないか?」
涙をひとしきり拭われ、顎をクイと上げられた。
いつも丁寧に扱われてきたけれど、そんな喋り方をするユージーンが本当の貴方なの?
どうしてユージーンまで泣きそうな顔をしているの……?
こんな醜い顔を、そんなに綺麗な顔で見つめないで……。
不安定な自分の気持ちを落ち着かせるため、彼の金色の瞳を真っ直ぐ見つめる。私はこの人の言葉を信じられると思った。
涙はもう流さないで、今は彼の話を聞こう――
「俺とクローディアは、六年前に会っている。俺の家名はロシスター。ロシスター侯爵家の三男で、父のオリバーがクライヴ・ハイド伯爵、クローディアのお父君と親友だった」
「オリバー小父様がユージーンのお父様……?」
「ああ。父に連れられクローディアと初めて会った時、俺は君に一目惚れした。そして、クローディアと婚約させてほしいとクライヴ様に申し出たんだ」
昔そんなことがあったなんて知らなかった。一目惚れって……、まだお互い子どもだったのに……。
「だが、クライヴ様はクローディアが成人するまで待ってほしいと言ったんだ。だから俺は、その後四年間外国に留学した。クローディアに相応しい男になって、イスティリア王国に戻ってきたら、改めて婚約を申し込もうと考えていた」
「確かに父は、私が成人してから好きな人と婚約しなさいって言っていたわ」
ユージーンはずっと前から、私の婚約者になりたかったってこと……? にやけてしまいそうな顔に力を入れ、話の続きを待つ。
「帰国してハイド伯爵家の話を聞いた時は、怒りで我を忘れた。すぐにでも駆けつけたかったが、実権を叔父が握っていては分が悪かった。だからせめてもと、ロシスター騎士団のエリカをメイドとしてハイド伯爵領に送り込んだんだ」
「だから、エリカとユージーンは通じ合っている感じがしたのね」
エリカはロシスター侯爵家騎士団の騎士だったんだ。だから豊穣祭の時、あんなに動きが本格的だったのね。
素晴らしい腕の騎士をメイドにしていたなんて、申し訳ない。
申し訳なさと驚きと喜びで、表情がおかしなことになっているはず。
「通じ合っていないぞ? エリカとは犬猿の仲なんだ」
「ちょっとだけ分かるかも」
一人で百面相していた私を、ユージーンは笑わせてくれた。両手を取られ、彼の大きな手に包まれる。
「……。エリカから報告が届いた。――叔父夫妻が、クローディアが成人する少し前に君を害そうとしていることを知って、証拠を掴んだ俺は奴らを捕まえるため騎士を連れて伯爵領に行ったんだ。遠くから成長したクローディアを見て、君への想いは募るばかりだったよ」
「叔父夫婦が突然捕まったのは、ユージーンが私を助けてくれたからだったのね……。何も知らなくてごめんなさい」
「叔父夫妻のことを、クローディアに話すつもりはなかった。俺こそ嫌な思いをさせてごめん……」
彼の気遣いもあって、私は内容を知らされなかったんだ。ユージーンは私を傷つけないように、黙っていてくれた。確かに知って気分の良い話ではないもの。
「謝る必要はないわ。ユージーンのお陰で命が助かったんだもの」
だからこそ、貴方に恋することもできた。
「その後は、どうやってクローディアに好きになってもらい、婚約を申し込むかばかりを考えていた。だが、今度はヘイデンが横領していたんだ……」
「迷惑ばかりかけていたわね……」
ユージーンがゆっくりと左右に頭を振る。
「ヘイデンが横領した時、クローディアが直接話し合おうとしていることをエリカから聞いて、居ても立っても居られずハイド領に向かった。一度会って声を聴いてしまうと、もう、クローディアの側から離れたくはないと思った。ロシスター家にろくに説明もせず、そのままハイド伯爵領に居ついてしまったんだ」
「……ユージーン。私、本当に何も知らなかったのね……。ずっと想っていてくれたことも、私が大人になった貴方の存在を知る前から守っていてくれたことも……。貴方が助けてくれていなかったら私……ここに今いなかったかもしれないのね……」
ユージーンの想いの深さを感じ、心が幸福感で満たされていく。たった三ヶ月の恋で苦しくなっていた自分が恥ずかしい。
彼は六年も、私を想い続けてくれたのに――
「クローディア。俺を婚約者にしてくれないか? いや、順番が違うな。クライヴ様の意志を尊重して改めて聞きたい。クローディアは俺のことが好きか?」
「……ユージーン。私は貴方のことを想って、苦しくなっていたのよ? 貴方が王都に帰っている間、ずっと寂しかったよの? 気づかなかった?」
「と、いうことは?」
本当のユージーンはちょっと強引で意地悪なのかな? しっかり言葉にしないといけないみたい。
「私はユージーンが好き……。貴方の婚約者になりたいです……」
「っ! ありがとうクローディア。王都に滞在しているうちに、ロシスター家のタウンハウスに来てくれ。父も兄たちも喜ぶ。長年我慢し続け待った甲斐があった……。とうとうクローディアが俺の婚約者になるんだ!」
両脇に手を入れられたと思ったら、そのまま持ち上げられユージーンが軸となり、クルクルクルクルと回された!!
「ハハハハ!! さぁ、そうと決まれば、最後にしておくべきことをさっさと片付けるか!」
あれ? 目が回っているからか、ユージーンが悪い顔をしている気がする。気のせい? じゃなさそうだ……。
ユージーンは時々、腹黒堕天使に変わるのね――
涙をひとしきり拭われ、顎をクイと上げられた。
いつも丁寧に扱われてきたけれど、そんな喋り方をするユージーンが本当の貴方なの?
どうしてユージーンまで泣きそうな顔をしているの……?
こんな醜い顔を、そんなに綺麗な顔で見つめないで……。
不安定な自分の気持ちを落ち着かせるため、彼の金色の瞳を真っ直ぐ見つめる。私はこの人の言葉を信じられると思った。
涙はもう流さないで、今は彼の話を聞こう――
「俺とクローディアは、六年前に会っている。俺の家名はロシスター。ロシスター侯爵家の三男で、父のオリバーがクライヴ・ハイド伯爵、クローディアのお父君と親友だった」
「オリバー小父様がユージーンのお父様……?」
「ああ。父に連れられクローディアと初めて会った時、俺は君に一目惚れした。そして、クローディアと婚約させてほしいとクライヴ様に申し出たんだ」
昔そんなことがあったなんて知らなかった。一目惚れって……、まだお互い子どもだったのに……。
「だが、クライヴ様はクローディアが成人するまで待ってほしいと言ったんだ。だから俺は、その後四年間外国に留学した。クローディアに相応しい男になって、イスティリア王国に戻ってきたら、改めて婚約を申し込もうと考えていた」
「確かに父は、私が成人してから好きな人と婚約しなさいって言っていたわ」
ユージーンはずっと前から、私の婚約者になりたかったってこと……? にやけてしまいそうな顔に力を入れ、話の続きを待つ。
「帰国してハイド伯爵家の話を聞いた時は、怒りで我を忘れた。すぐにでも駆けつけたかったが、実権を叔父が握っていては分が悪かった。だからせめてもと、ロシスター騎士団のエリカをメイドとしてハイド伯爵領に送り込んだんだ」
「だから、エリカとユージーンは通じ合っている感じがしたのね」
エリカはロシスター侯爵家騎士団の騎士だったんだ。だから豊穣祭の時、あんなに動きが本格的だったのね。
素晴らしい腕の騎士をメイドにしていたなんて、申し訳ない。
申し訳なさと驚きと喜びで、表情がおかしなことになっているはず。
「通じ合っていないぞ? エリカとは犬猿の仲なんだ」
「ちょっとだけ分かるかも」
一人で百面相していた私を、ユージーンは笑わせてくれた。両手を取られ、彼の大きな手に包まれる。
「……。エリカから報告が届いた。――叔父夫妻が、クローディアが成人する少し前に君を害そうとしていることを知って、証拠を掴んだ俺は奴らを捕まえるため騎士を連れて伯爵領に行ったんだ。遠くから成長したクローディアを見て、君への想いは募るばかりだったよ」
「叔父夫婦が突然捕まったのは、ユージーンが私を助けてくれたからだったのね……。何も知らなくてごめんなさい」
「叔父夫妻のことを、クローディアに話すつもりはなかった。俺こそ嫌な思いをさせてごめん……」
彼の気遣いもあって、私は内容を知らされなかったんだ。ユージーンは私を傷つけないように、黙っていてくれた。確かに知って気分の良い話ではないもの。
「謝る必要はないわ。ユージーンのお陰で命が助かったんだもの」
だからこそ、貴方に恋することもできた。
「その後は、どうやってクローディアに好きになってもらい、婚約を申し込むかばかりを考えていた。だが、今度はヘイデンが横領していたんだ……」
「迷惑ばかりかけていたわね……」
ユージーンがゆっくりと左右に頭を振る。
「ヘイデンが横領した時、クローディアが直接話し合おうとしていることをエリカから聞いて、居ても立っても居られずハイド領に向かった。一度会って声を聴いてしまうと、もう、クローディアの側から離れたくはないと思った。ロシスター家にろくに説明もせず、そのままハイド伯爵領に居ついてしまったんだ」
「……ユージーン。私、本当に何も知らなかったのね……。ずっと想っていてくれたことも、私が大人になった貴方の存在を知る前から守っていてくれたことも……。貴方が助けてくれていなかったら私……ここに今いなかったかもしれないのね……」
ユージーンの想いの深さを感じ、心が幸福感で満たされていく。たった三ヶ月の恋で苦しくなっていた自分が恥ずかしい。
彼は六年も、私を想い続けてくれたのに――
「クローディア。俺を婚約者にしてくれないか? いや、順番が違うな。クライヴ様の意志を尊重して改めて聞きたい。クローディアは俺のことが好きか?」
「……ユージーン。私は貴方のことを想って、苦しくなっていたのよ? 貴方が王都に帰っている間、ずっと寂しかったよの? 気づかなかった?」
「と、いうことは?」
本当のユージーンはちょっと強引で意地悪なのかな? しっかり言葉にしないといけないみたい。
「私はユージーンが好き……。貴方の婚約者になりたいです……」
「っ! ありがとうクローディア。王都に滞在しているうちに、ロシスター家のタウンハウスに来てくれ。父も兄たちも喜ぶ。長年我慢し続け待った甲斐があった……。とうとうクローディアが俺の婚約者になるんだ!」
両脇に手を入れられたと思ったら、そのまま持ち上げられユージーンが軸となり、クルクルクルクルと回された!!
「ハハハハ!! さぁ、そうと決まれば、最後にしておくべきことをさっさと片付けるか!」
あれ? 目が回っているからか、ユージーンが悪い顔をしている気がする。気のせい? じゃなさそうだ……。
ユージーンは時々、腹黒堕天使に変わるのね――
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