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set list.2―clear after rain
note.8 サラリーマンが徐に指したのはキングの左手指だった。
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「あの飛び入りバイト、キングっていうんだと。知ってる?」
「まあ、このあたりじゃギター弾いてんのなんか、この世の蟻よりうじゃうじゃいるからな」
それは言い過ぎ、とバーテンダーが嗤った。
(確かにそれは言い過ぎ。だって世界中の蟻の重さと人類の総体重は同じ、とか聞いたことあるし)
どこでその説を聞いたのか。あるいは見たのか。記憶は定かではないが、そういった人が喰いつき易そうな話題には”キング”こと萩原旭鳴は敏感だった。なぜなら作詞に使えるからだ。
「おーい、キングくん」
「はいっなんすか?」
「声デカ……」
キングは今週のスタジオ練習代のために、このライブハウスで皿洗いをしていた。もっとも、日雇いだが。
底辺ミュージシャンの生活は極貧の毎日から成り立っている。時間を切り売りしてでも、活動資金を稼がねばならない。
支給されたエプロンで手を拭いて、バイトの先輩の呼ぶ方へのこのこと歩いていく。
「君さ、無駄にタッパあんじゃん? 目立つからさ、裏方に入ってよ」
「は?」
昔の伝手でやっと急のシフトにねじ込んでもらった仕事だ。あまり文句は言えない立場だが。
「あの、ここのマスターにはミュージシャンのタマゴだったらっていうんで、ステージが見えるカウンターの皿洗いさせてもらえる話だったんですけど……」
「ハハッ、そんなのないない! マスターも急にスタッフ休んで困ってたみたいだからさ、口八丁で雇われたんだよ。残念だったね」
「……はあ、そっすか」
「しかもステージ見たいって……キングくんバリバリロック系でしょどーせ。今夜はシックなジャズ! シャンソン! ボサノヴァ! 見たところでねえ、君の身になるとは思えないんだけどねえ」
そんなわけはない。絶対に。
キングは、どこにでも音楽は存在すると信じている。
少なくとも、そこに音楽自体は目に見えなくとも、音楽の種はどこにでもあることを知っていた。
それを学んだのは、何もかも嫌になって、日本の音楽業界の底辺から逃げ出したくて、突発の思い付きで渡ったインドでだ。そこではすべてが刺激的だった。こんな地下に隠れるようにして作られた夜のダイニングバーのステージとはもっと違う空気。手を伸ばせば何でも手に入るような気分にさせてくれた。
そこでキングが出会ったのが、ラーガというものだった。
だが自分の意に反して、そのエピソードは何故かすべらない話にされてしまう。
笑い話にされて、面白可笑しい奴扱いされて、白い目で見られる。
「そんなもんすかねえ……」
今のキングに出来ることは愛想笑いだけだった。
プロのミュージシャンを目指しているのに、音楽の話をしてはいけない。そんな空気に、自分の現状に、嫌気がさした。
「まあ、そんなわけだからさ」
先輩は馴れ馴れしくキングの腕を引っ張る。
「ちょっとタバコ買いに行ってくれる? マスターのなんだけど、あの人タバコ無いとすーぐイライラするんだよね。大至急で! よろしく!」
取られた手に握らされたのは、千円札一枚。
「え? あの?」
「俺向こうの準備あるんだわ。じゃーいってらしゃーい」
ニヤニヤ顔の先輩は、シルバーリングを重ね着けした手をひらっと振って去って行った。
キングは喫煙者ではない。そもそも現代ではタバコは登録された人だけが買える仕組みになったはずで。初対面のマスター所望の銘柄もわからないし、言われてもわからないし。
(……ああー、もしやこれはいろいろ考えても無駄パターンか。たぶんあの人、俺がカウンターにいるの鬱陶しいから理由付けてテリトリーから追い出したいだけだな……まあ、かと言ってせっかく雇ってもらったんだから皿洗いは……いいや、一旦マスターに直接確認取るか)
皿を洗うだけで、こんなにも面倒くさいことが世の中にあるだろうか?
キングは受け取りたくなかった千円札をエプロンのポケットにくしゃっと突っ込んで、カウンターから出た。さっきのバーテンダーと一緒に尻目で先輩が小さく笑っていた。
「うわっ、蒸し暑い……東京は夏も冬もダメダメだな、ったく」
ビルにもセミがとまるんだなあ、と裏口から見上げた都会の隙間。狭い夜空。思わず口から跳び出た蒸し暑い、は居並ぶ室外機のせいだと気付く。
残念ながら、喫煙所にもなっている裏口にマスターはいなかった。
(開店まであと三十分くらいだし、事務所の方かな……ん?)
裏口から見える大通りで、タクシーと乗客らしき人がもめているのが目に入った。ライブハウスの真ん前だ。
(スーツだからサラリーマンかな? ……あ、シンバルのケースぶら下げてる。ひょっとして……)
キングはなんとなく気になって、細長い路地を大通りの方に進んだ。
「財布を会社に置いてきたって? 言い訳でも何でもいいけど、キミはね、無賃乗車したんだよ。わかる?」
タクシーの運転手は虫の居所が明らかに悪そうだった。
対してスーツのサラリーマンは、平身低頭謝罪を……していない。スッと伸びた背筋には、申し訳ない、という弱さは探しても見られなかった。
「何度も申し上げているのですが、これから二時間後にはお金が入ります。現金で。そちらでのお支払いということで手を打っていただけないでしょうか?」
「二時間後って、キミねえ。いい大人のクセに大概にしなよ! ていうか、二時間後にお金が手に入る前に、会社戻ったらいいじゃないの」
「それは無理です。私はこれから別の仕事があるので」
「会社員が夜の九時に社外で? フン……まーたまた。デマカセ言うなら警察呼ぶよ?」
「出任せではないです」
「ちょっ、オッサン!!!!」
キングは、内線に手を掛けようとしタクシー運転手とサラリーマンの間に、つかつかと入っていった。
「なっ何ですかアナタは、無駄に大きな声出して……あ、この人の知り合い?」
「そうそう! 知り合い知り合い! 金なら俺払うからさ」
「まー……乗車分頂ければ、それでいいんですよ。こちらはね」
キングは言ってからしまったと思う。自分の荷物は事務所のロッカーに入れっぱなしだ。
「あ」
いや、ポケットにちょうど使用予定の無い千円札があるではないか。
「オッサン、いくらだっけ?」
「八百四十円」
「ほぼ初乗りじゃんか!」
何で払えないんだよこの人……。と訝しみつつも、おつりも返って来たのでよしとする。
料金を受領したタクシーを見送り、キングは小銭をエプロンのポケットにしまった。
「誰だか知らないけど……ありがとう」
「いや、これ俺の金じゃねーから! 気にしないでくださいよ」
「……? それでも、ちょっと困っていたから、助かった」
安堵の色の見えるため息は、良いことをした、という気持ちをキングに芽生えさせる。
「うちで出演するドラマーさんじゃねえかと思ってさ、こら行ってやらねえと! って思ったんだよ。当たり?」
サラリーマンはきょと、とした顔でキングを見つめ返した。
「君は……?」
「俺はぁーえーと……」
自分は、ここではただの皿洗いだ。名乗るような名前など持っていない。
しかし、サラリーマンが徐に指したのはキングの左手指だった。
「ギタリストだろう?」
――そうだ。
何を着ていようが、今何をしているところだろうが、本質は何も変わらないのだ。
「俺の名前は――――――」
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キングの意識は薄ぼんやりとした乳白色な海を漂っていた。
(……あれ、俺何してたんだっけ? バイト中……?)
「――――――キング! 起きて!」
(誰だ……? 俺のこと呼んでる……俺のことか、キングって……)
「――――――キング……」
呼んでいるのは、少年の声。
「あの飛び入りバイト、キングっていうんだと。知ってる?」
「まあ、このあたりじゃギター弾いてんのなんか、この世の蟻よりうじゃうじゃいるからな」
それは言い過ぎ、とバーテンダーが嗤った。
(確かにそれは言い過ぎ。だって世界中の蟻の重さと人類の総体重は同じ、とか聞いたことあるし)
どこでその説を聞いたのか。あるいは見たのか。記憶は定かではないが、そういった人が喰いつき易そうな話題には”キング”こと萩原旭鳴は敏感だった。なぜなら作詞に使えるからだ。
「おーい、キングくん」
「はいっなんすか?」
「声デカ……」
キングは今週のスタジオ練習代のために、このライブハウスで皿洗いをしていた。もっとも、日雇いだが。
底辺ミュージシャンの生活は極貧の毎日から成り立っている。時間を切り売りしてでも、活動資金を稼がねばならない。
支給されたエプロンで手を拭いて、バイトの先輩の呼ぶ方へのこのこと歩いていく。
「君さ、無駄にタッパあんじゃん? 目立つからさ、裏方に入ってよ」
「は?」
昔の伝手でやっと急のシフトにねじ込んでもらった仕事だ。あまり文句は言えない立場だが。
「あの、ここのマスターにはミュージシャンのタマゴだったらっていうんで、ステージが見えるカウンターの皿洗いさせてもらえる話だったんですけど……」
「ハハッ、そんなのないない! マスターも急にスタッフ休んで困ってたみたいだからさ、口八丁で雇われたんだよ。残念だったね」
「……はあ、そっすか」
「しかもステージ見たいって……キングくんバリバリロック系でしょどーせ。今夜はシックなジャズ! シャンソン! ボサノヴァ! 見たところでねえ、君の身になるとは思えないんだけどねえ」
そんなわけはない。絶対に。
キングは、どこにでも音楽は存在すると信じている。
少なくとも、そこに音楽自体は目に見えなくとも、音楽の種はどこにでもあることを知っていた。
それを学んだのは、何もかも嫌になって、日本の音楽業界の底辺から逃げ出したくて、突発の思い付きで渡ったインドでだ。そこではすべてが刺激的だった。こんな地下に隠れるようにして作られた夜のダイニングバーのステージとはもっと違う空気。手を伸ばせば何でも手に入るような気分にさせてくれた。
そこでキングが出会ったのが、ラーガというものだった。
だが自分の意に反して、そのエピソードは何故かすべらない話にされてしまう。
笑い話にされて、面白可笑しい奴扱いされて、白い目で見られる。
「そんなもんすかねえ……」
今のキングに出来ることは愛想笑いだけだった。
プロのミュージシャンを目指しているのに、音楽の話をしてはいけない。そんな空気に、自分の現状に、嫌気がさした。
「まあ、そんなわけだからさ」
先輩は馴れ馴れしくキングの腕を引っ張る。
「ちょっとタバコ買いに行ってくれる? マスターのなんだけど、あの人タバコ無いとすーぐイライラするんだよね。大至急で! よろしく!」
取られた手に握らされたのは、千円札一枚。
「え? あの?」
「俺向こうの準備あるんだわ。じゃーいってらしゃーい」
ニヤニヤ顔の先輩は、シルバーリングを重ね着けした手をひらっと振って去って行った。
キングは喫煙者ではない。そもそも現代ではタバコは登録された人だけが買える仕組みになったはずで。初対面のマスター所望の銘柄もわからないし、言われてもわからないし。
(……ああー、もしやこれはいろいろ考えても無駄パターンか。たぶんあの人、俺がカウンターにいるの鬱陶しいから理由付けてテリトリーから追い出したいだけだな……まあ、かと言ってせっかく雇ってもらったんだから皿洗いは……いいや、一旦マスターに直接確認取るか)
皿を洗うだけで、こんなにも面倒くさいことが世の中にあるだろうか?
キングは受け取りたくなかった千円札をエプロンのポケットにくしゃっと突っ込んで、カウンターから出た。さっきのバーテンダーと一緒に尻目で先輩が小さく笑っていた。
「うわっ、蒸し暑い……東京は夏も冬もダメダメだな、ったく」
ビルにもセミがとまるんだなあ、と裏口から見上げた都会の隙間。狭い夜空。思わず口から跳び出た蒸し暑い、は居並ぶ室外機のせいだと気付く。
残念ながら、喫煙所にもなっている裏口にマスターはいなかった。
(開店まであと三十分くらいだし、事務所の方かな……ん?)
裏口から見える大通りで、タクシーと乗客らしき人がもめているのが目に入った。ライブハウスの真ん前だ。
(スーツだからサラリーマンかな? ……あ、シンバルのケースぶら下げてる。ひょっとして……)
キングはなんとなく気になって、細長い路地を大通りの方に進んだ。
「財布を会社に置いてきたって? 言い訳でも何でもいいけど、キミはね、無賃乗車したんだよ。わかる?」
タクシーの運転手は虫の居所が明らかに悪そうだった。
対してスーツのサラリーマンは、平身低頭謝罪を……していない。スッと伸びた背筋には、申し訳ない、という弱さは探しても見られなかった。
「何度も申し上げているのですが、これから二時間後にはお金が入ります。現金で。そちらでのお支払いということで手を打っていただけないでしょうか?」
「二時間後って、キミねえ。いい大人のクセに大概にしなよ! ていうか、二時間後にお金が手に入る前に、会社戻ったらいいじゃないの」
「それは無理です。私はこれから別の仕事があるので」
「会社員が夜の九時に社外で? フン……まーたまた。デマカセ言うなら警察呼ぶよ?」
「出任せではないです」
「ちょっ、オッサン!!!!」
キングは、内線に手を掛けようとしタクシー運転手とサラリーマンの間に、つかつかと入っていった。
「なっ何ですかアナタは、無駄に大きな声出して……あ、この人の知り合い?」
「そうそう! 知り合い知り合い! 金なら俺払うからさ」
「まー……乗車分頂ければ、それでいいんですよ。こちらはね」
キングは言ってからしまったと思う。自分の荷物は事務所のロッカーに入れっぱなしだ。
「あ」
いや、ポケットにちょうど使用予定の無い千円札があるではないか。
「オッサン、いくらだっけ?」
「八百四十円」
「ほぼ初乗りじゃんか!」
何で払えないんだよこの人……。と訝しみつつも、おつりも返って来たのでよしとする。
料金を受領したタクシーを見送り、キングは小銭をエプロンのポケットにしまった。
「誰だか知らないけど……ありがとう」
「いや、これ俺の金じゃねーから! 気にしないでくださいよ」
「……? それでも、ちょっと困っていたから、助かった」
安堵の色の見えるため息は、良いことをした、という気持ちをキングに芽生えさせる。
「うちで出演するドラマーさんじゃねえかと思ってさ、こら行ってやらねえと! って思ったんだよ。当たり?」
サラリーマンはきょと、とした顔でキングを見つめ返した。
「君は……?」
「俺はぁーえーと……」
自分は、ここではただの皿洗いだ。名乗るような名前など持っていない。
しかし、サラリーマンが徐に指したのはキングの左手指だった。
「ギタリストだろう?」
――そうだ。
何を着ていようが、今何をしているところだろうが、本質は何も変わらないのだ。
「俺の名前は――――――」
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キングの意識は薄ぼんやりとした乳白色な海を漂っていた。
(……あれ、俺何してたんだっけ? バイト中……?)
「――――――キング! 起きて!」
(誰だ……? 俺のこと呼んでる……俺のことか、キングって……)
「――――――キング……」
呼んでいるのは、少年の声。
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