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新人のあみちゃん
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この頃、あみちゃんという新人の女の子が放課後クラブに入店した。
この頃の私は毎日の寝かしつけの後に、放課後クラブのホームページをチェックするのが日課になっていた。この日も私は、自分の布団の中でスマートフォンを弄っていた。
私が4月の始めに入店して以来、新人の女の子の入店はなかった。しかし、私が新人で入店したように、新人の女の子はいつか入店するだろうと思っていた。
遂にこの時がやってきた。私は動揺するわけでも、高揚するわけでもなく、その事実を淡々と受け止めていた。
入店初日の日、彼女は既に日記も始めていた。顔はハートのスタンプで鼻から上を隠していて、口元ははっきりと出している写真だった。髪型は金髪のボブだった。
日記の写真の隅に、Yシャツとベージュの制服の襟が写っていて、何だか嫌な予感がした。その日記の写真だけでは、私がいつも着ているベージュのブレザーかどうかは判断出来なかった。
その頃掲示板では、久しぶりの新人の登場に祭りのような騒ぎになっていた。
〈女の子からのメッセージ〉
放課後クラブに入店しました。
一緒にイチャイチャしましょう♥️
〈店長コメント〉
ついに入店、金髪が似合うスレンダー女の子
モデル体型のあみちゃんは、イチャイチャが大好き♥️
店長オススメです。
プロフィールの写真は自宅の部屋のようなものが背景にあり、目の部分だけ線上のスタンプで隠されていた。
このプロフィールを最初に見た時は、何だかあっさりした文章だなと思ってしまった。
だけど確かに、あみちゃんは金髪の似合う女の子だった。
あみちゃんに初めて会った時、彼女は控え室で煙草を吸っていた。
その日接客が終わり、控え室に行くと、15時から出勤だったあみちゃんが控え室のソファーに居た。その時は他の女の子も控え室のソファーに座っていたので、空いているのはあみちゃんの隣だけだった。
私はその時、同じ制服をあみちゃんが着ていることに気が付いた。ベージュのブレザーと紺色のスカートの制服だ。それは、更衣室の様々な制服がかかっているハンガーラックに1着しかなかったはずだ。どうしてだろう。
「おはようございます」私はなるべく女の子に自分から挨拶をするようにしていた。
「おはようございます」かなり小さい声だったが、あみちゃんから返事があった。毎回顔を合わす度に挨拶しても返してくれない女の子もいたので、返事が返ってくるだけでも嬉しかった。
私はあみちゃんの隣に座った。
暫くして、床に突然黒いものが這っているのが見えた。私は驚いて、その見たことない形の虫を、机の上に置いてあるティッシュで摘まんでしまおうと思った。だけど、そのティッシュはお店のものなのか、女の子の私物か分からなかったので、とっさにティッシュに手が出なかった。
すると、あみちゃんがさっとティッシュに手を伸ばし、ティッシュで虫を摘まんでくれた。
とっさの出来事で私はお礼も言えなかった。
「ななみちゃん、お客さんねー」控え室の入り口からはまちゃんの声が聞こえた。
「あ、はい!」
私は事務所に移動し、モニターでお客さんを確認しながら、はまちゃんに尋ねた。
「あのー、この制服って1着しかなかったですよね?」
「ああ、それねー。高崎さんがこの前、細い子が増えたからって色々制服を業者に注文したんだよ」確かにあみちゃんは細かった。
「そうだったんですね。今日あみちゃんが同じ制服を着ていて、ちょっとびっくりしました」
「ごめんね、言ってなくて」
「いえいえ」
「高崎さんがこれ着てって渡しちゃったみたいでさー。ちょっと嫌だよね?」
「いえ!大丈夫です!あみちゃん細いから、たぶん他の制服だと大きいはずですし」私はそう言ってみせたけれど、“ちょっと”ではなく“だいぶ”嫌だった。それは女の嫌な部分だと思う。
「そう言ってくれると助かるよ。まあ、お客さんは制服なんて、見ているようで見ていないと思うしね。目的はそこじゃないから」
「ですよね!あのー、私の新人割ってまだ続きますか?」私は新人のあみちゃんが入ったことにより、私の新人割がなくなって、収入が減ってしまうのが心配だった。ホームページでは、私の新人の表記が消えていたからだ。
「予約のお客さんが増えてきたら、たぶんなくすけど、まだ続けるつもりだよ」
「助かります。ありがとうございます」
「ななみちゃん、お客さんこの右側の人ね。じゃあ、準備お願いします」
「はい」
その後も、私があみちゃんと仲良くなることはなかった。
この頃の私は毎日の寝かしつけの後に、放課後クラブのホームページをチェックするのが日課になっていた。この日も私は、自分の布団の中でスマートフォンを弄っていた。
私が4月の始めに入店して以来、新人の女の子の入店はなかった。しかし、私が新人で入店したように、新人の女の子はいつか入店するだろうと思っていた。
遂にこの時がやってきた。私は動揺するわけでも、高揚するわけでもなく、その事実を淡々と受け止めていた。
入店初日の日、彼女は既に日記も始めていた。顔はハートのスタンプで鼻から上を隠していて、口元ははっきりと出している写真だった。髪型は金髪のボブだった。
日記の写真の隅に、Yシャツとベージュの制服の襟が写っていて、何だか嫌な予感がした。その日記の写真だけでは、私がいつも着ているベージュのブレザーかどうかは判断出来なかった。
その頃掲示板では、久しぶりの新人の登場に祭りのような騒ぎになっていた。
〈女の子からのメッセージ〉
放課後クラブに入店しました。
一緒にイチャイチャしましょう♥️
〈店長コメント〉
ついに入店、金髪が似合うスレンダー女の子
モデル体型のあみちゃんは、イチャイチャが大好き♥️
店長オススメです。
プロフィールの写真は自宅の部屋のようなものが背景にあり、目の部分だけ線上のスタンプで隠されていた。
このプロフィールを最初に見た時は、何だかあっさりした文章だなと思ってしまった。
だけど確かに、あみちゃんは金髪の似合う女の子だった。
あみちゃんに初めて会った時、彼女は控え室で煙草を吸っていた。
その日接客が終わり、控え室に行くと、15時から出勤だったあみちゃんが控え室のソファーに居た。その時は他の女の子も控え室のソファーに座っていたので、空いているのはあみちゃんの隣だけだった。
私はその時、同じ制服をあみちゃんが着ていることに気が付いた。ベージュのブレザーと紺色のスカートの制服だ。それは、更衣室の様々な制服がかかっているハンガーラックに1着しかなかったはずだ。どうしてだろう。
「おはようございます」私はなるべく女の子に自分から挨拶をするようにしていた。
「おはようございます」かなり小さい声だったが、あみちゃんから返事があった。毎回顔を合わす度に挨拶しても返してくれない女の子もいたので、返事が返ってくるだけでも嬉しかった。
私はあみちゃんの隣に座った。
暫くして、床に突然黒いものが這っているのが見えた。私は驚いて、その見たことない形の虫を、机の上に置いてあるティッシュで摘まんでしまおうと思った。だけど、そのティッシュはお店のものなのか、女の子の私物か分からなかったので、とっさにティッシュに手が出なかった。
すると、あみちゃんがさっとティッシュに手を伸ばし、ティッシュで虫を摘まんでくれた。
とっさの出来事で私はお礼も言えなかった。
「ななみちゃん、お客さんねー」控え室の入り口からはまちゃんの声が聞こえた。
「あ、はい!」
私は事務所に移動し、モニターでお客さんを確認しながら、はまちゃんに尋ねた。
「あのー、この制服って1着しかなかったですよね?」
「ああ、それねー。高崎さんがこの前、細い子が増えたからって色々制服を業者に注文したんだよ」確かにあみちゃんは細かった。
「そうだったんですね。今日あみちゃんが同じ制服を着ていて、ちょっとびっくりしました」
「ごめんね、言ってなくて」
「いえいえ」
「高崎さんがこれ着てって渡しちゃったみたいでさー。ちょっと嫌だよね?」
「いえ!大丈夫です!あみちゃん細いから、たぶん他の制服だと大きいはずですし」私はそう言ってみせたけれど、“ちょっと”ではなく“だいぶ”嫌だった。それは女の嫌な部分だと思う。
「そう言ってくれると助かるよ。まあ、お客さんは制服なんて、見ているようで見ていないと思うしね。目的はそこじゃないから」
「ですよね!あのー、私の新人割ってまだ続きますか?」私は新人のあみちゃんが入ったことにより、私の新人割がなくなって、収入が減ってしまうのが心配だった。ホームページでは、私の新人の表記が消えていたからだ。
「予約のお客さんが増えてきたら、たぶんなくすけど、まだ続けるつもりだよ」
「助かります。ありがとうございます」
「ななみちゃん、お客さんこの右側の人ね。じゃあ、準備お願いします」
「はい」
その後も、私があみちゃんと仲良くなることはなかった。
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