上 下
34 / 70

新人のあみちゃん

しおりを挟む
 この頃、あみちゃんという新人の女の子が放課後クラブに入店した。
 この頃の私は毎日の寝かしつけの後に、放課後クラブのホームページをチェックするのが日課になっていた。この日も私は、自分の布団の中でスマートフォンを弄っていた。
 私が4月の始めに入店して以来、新人の女の子の入店はなかった。しかし、私が新人で入店したように、新人の女の子はいつか入店するだろうと思っていた。
 遂にこの時がやってきた。私は動揺するわけでも、高揚するわけでもなく、その事実を淡々と受け止めていた。
 入店初日の日、彼女は既に日記も始めていた。顔はハートのスタンプで鼻から上を隠していて、口元ははっきりと出している写真だった。髪型は金髪のボブだった。
 日記の写真の隅に、Yシャツとベージュの制服の襟が写っていて、何だか嫌な予感がした。その日記の写真だけでは、私がいつも着ているベージュのブレザーかどうかは判断出来なかった。
 その頃掲示板では、久しぶりの新人の登場に祭りのような騒ぎになっていた。

〈女の子からのメッセージ〉
放課後クラブに入店しました。
一緒にイチャイチャしましょう♥️

〈店長コメント〉
ついに入店、金髪が似合うスレンダー女の子

モデル体型のあみちゃんは、イチャイチャが大好き♥️

店長オススメです。

 プロフィールの写真は自宅の部屋のようなものが背景にあり、目の部分だけ線上のスタンプで隠されていた。
 このプロフィールを最初に見た時は、何だかあっさりした文章だなと思ってしまった。
 だけど確かに、あみちゃんは金髪の似合う女の子だった。
 あみちゃんに初めて会った時、彼女は控え室で煙草を吸っていた。
 その日接客が終わり、控え室に行くと、15時から出勤だったあみちゃんが控え室のソファーに居た。その時は他の女の子も控え室のソファーに座っていたので、空いているのはあみちゃんの隣だけだった。
 私はその時、同じ制服をあみちゃんが着ていることに気が付いた。ベージュのブレザーと紺色のスカートの制服だ。それは、更衣室の様々な制服がかかっているハンガーラックに1着しかなかったはずだ。どうしてだろう。
「おはようございます」私はなるべく女の子に自分から挨拶をするようにしていた。
「おはようございます」かなり小さい声だったが、あみちゃんから返事があった。毎回顔を合わす度に挨拶しても返してくれない女の子もいたので、返事が返ってくるだけでも嬉しかった。
 私はあみちゃんの隣に座った。
 暫くして、床に突然黒いものが這っているのが見えた。私は驚いて、その見たことない形の虫を、机の上に置いてあるティッシュで摘まんでしまおうと思った。だけど、そのティッシュはお店のものなのか、女の子の私物か分からなかったので、とっさにティッシュに手が出なかった。
 すると、あみちゃんがさっとティッシュに手を伸ばし、ティッシュで虫を摘まんでくれた。
 とっさの出来事で私はお礼も言えなかった。
「ななみちゃん、お客さんねー」控え室の入り口からはまちゃんの声が聞こえた。
「あ、はい!」
 私は事務所に移動し、モニターでお客さんを確認しながら、はまちゃんに尋ねた。
「あのー、この制服って1着しかなかったですよね?」
「ああ、それねー。高崎さんがこの前、細い子が増えたからって色々制服を業者に注文したんだよ」確かにあみちゃんは細かった。
「そうだったんですね。今日あみちゃんが同じ制服を着ていて、ちょっとびっくりしました」
「ごめんね、言ってなくて」
「いえいえ」
「高崎さんがこれ着てって渡しちゃったみたいでさー。ちょっと嫌だよね?」
「いえ!大丈夫です!あみちゃん細いから、たぶん他の制服だと大きいはずですし」私はそう言ってみせたけれど、“ちょっと”ではなく“だいぶ”嫌だった。それは女の嫌な部分だと思う。
「そう言ってくれると助かるよ。まあ、お客さんは制服なんて、見ているようで見ていないと思うしね。目的はそこじゃないから」
「ですよね!あのー、私の新人割ってまだ続きますか?」私は新人のあみちゃんが入ったことにより、私の新人割がなくなって、収入が減ってしまうのが心配だった。ホームページでは、私の新人の表記が消えていたからだ。
「予約のお客さんが増えてきたら、たぶんなくすけど、まだ続けるつもりだよ」
「助かります。ありがとうございます」
「ななみちゃん、お客さんこの右側の人ね。じゃあ、準備お願いします」
「はい」
 その後も、私があみちゃんと仲良くなることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...