上 下
20 / 70

熊本出身のお客さん

しおりを挟む
 私は出勤2回目のその日、2人のお客さんの接客をした。
 1人目のお客さんは出張で四郷街を訪れていたサラリーマンの方で、2人目は熊本出身で四郷街の隣の鈴市の工場で働く方だった。
 1人目のサラリーマンのお客さんは優しく、会話も体験入店の時よりスムーズに出来たと思う。その人は私が好きなアイドルの派生ユニットのプロデューサーが、伝説を作ったバンドの元メンバーだということを教えてくれた。まさかそこまでコアな会話を出来ると思ってなかったので少し嬉しかった。帰り際、階段の下から「大変だろうけど頑張ってね」と声をかけてくれたのも、嬉しかった。
 ただ、心残りはサラリーマンのお客さんが果てた時、口を離してしまったことだ。
 こうきさんからは受け止めてねとは言われていなかったけれど、受け止めた場合はティッシュに吐き出してもいい、但しお客さんには背を向けながらね、と助言を受けていた。つまりそれは、出来れば受け止めた方が良いということなのだろうと私は解釈していた。
 2人目の熊本出身のお客さんの接客の時は、初めてこの仕事を楽しめていた。
 この日熊本出身のお客さんは、放課後クラブに初めて来店したらしく、ブースに入る前に靴を脱ぐ際、靴を何処に置けばいいのか戸惑っていた姿が何だか可愛らしかった。熊本出身のお客さんがソファーに座ったので、私もそれに続いた。
 放課後クラブに来店するのは初めてだったみたいだが、こういうお店の雰囲気には慣れているみたいで会話もリードしてくれた。早い段階で熊本出身のお客さんということを知れた。
 服を脱ぐ時に熊本出身のお客さんは「毛深いから恥ずかしい」と言った。確かに平均の人よりも毛深いのかなと感じたが、おばあちゃんが「毛深い人は愛情深いんだよ」と言っていたことを思い出し、そのことを告げた。すると、熊本出身のお客さんは「初めて知ったよ。嬉しいな」と言った。
 歳を聞いた際、熊本出身のお客さんは34歳と答えた。Uちゃんと同じ歳だったので嬉しくなり、「友達と同じ歳です」と言ってしまった。余りプライベートなことは喋らないように言われていたので、しまったと思った。
 しかし、その会話から話題が広がり、まるで付き合いたてのお互いをまだよく知らない恋人同士の雰囲気の中で接客することが出来た。あれほど苦痛に感じていたフェラチオも、初めて自分の中で受け入れて出来た気がした。
「あまり訛りが出ないですね」私は言った。熊本の方言は分からなかったけれど、熊本出身のお客さんが訛っていないのは確かだった。
「緊張すると標準語になるんだよね」
「リラックスしてくださいよー」
 すると、熊本出身のお客さんはソファーに座ったまま膝を大きく広げ、私にその上に乗るように言った。私達は抱き合った。
「重くない?」と聞いたら、大丈夫と言ってくれた。
 そして、眼鏡が邪魔だと言って、熊本出身のお客さんは眼鏡を取った。
 眼鏡を取ると、歌舞伎役者の名前が思い出せないけど格好良い人に似ていた。
 そのことを告げると「それってどうやって受け止めればいいの?」と言われた。
 私が「誉め言葉!」と言うと、熊本出身のお客さんは笑ってくれた。
 その時、ブースにキングヌーの「白日」が流れた。Uちゃんが教えてくれた曲で、私の好きな曲だった。
 そのことを告げると「あんな高い声出ないよ」と言った。二人で笑い合った。
 私達は抱き合いながら何度もキスをした。気持ちが高揚するのを感じた。
 55分の終了時間はあっという間にやってきた。名残惜しいなと思っていると、熊本出身のお客さんは「延長って出来る?」と私に尋ねた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...