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こうきさん

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 タイマーを棚の上に置いたこうきさんは、床のマットに座った。
 私もどうしていいか分からず、床のマットに座った。
 ごそごそと何やらこうきさんが動き始めた。暗闇にまだ目が慣れないので何をしているのか、とっさには分からなかった。
 すると、こうきさんの肩が露になった。その時、刺青が見えてようやくこうきさんが背広とYシャツを脱いだことが分かった。刺青が入った人を見たのは、この時が初めてだった。
 私はその何やらよく分からない模様の刺青を見て、頭が真っ白になった。
 呼吸を整えようと息をする。
 その間もこうきさんは服を脱ぐ。
 やがて、全部の布という布を脱いだこうきさんがこう言った。
「ななみちゃんも脱ごうか」 
 心臓の脈がどうにかなってしまうのではないかと思った。それは本名ではない名前を呼ばれたからではないだろう。
 やはり、どうしていいか分からない私は床のマットの上で動けないままだった。
「大丈夫?」こうきさんが尋ねた。
 その声が耳に届いて、ようやく私の思考が動き出した。
「脱ぐって全部ですか?」
 声は震えていたような気がする。
「下の下着以外は脱ごうか。最初は下のお触りは無しだから」
「はい」
 私は意を決して、ブレザーのボタンに手をかけた。その手は震えていた。
 逃げてしまおうか。一瞬、弱音が過る。
 でも、ここで逃げてしまえば私はそれまでの人間なのだろう。
 こうきさんは何も言わずに待ってくれていた。
 私は、まだ何も始まってないじゃないか、と自分に暗示をかけてブレザーとシャツが一体となっている服を脱いだ。
 その下は下着だけなので、流石に心許なかった。だけど暖房が効いているせいか、寒さは感じなかった。
 次に、背中のホックに手をかけて下着を取る。
「服はここに入れようか」
 脱いだ服は棚の横の籠の中、こうきさんの服が入っている上に積み重ねて置いた。
 上半身が露になったけれど、暗闇のせいかこうきさんに見られているという意識はなく、不思議と恥ずかしさは感じなかった。
 スカートも脱ぎ、私は下の下着と靴下だけ履いた姿になってしまった。
「あの……靴下は……」
「靴下はどっちでもいいよ」
「……じゃあ履いておきます」
 流石に下の下着だけでは心許ないだろうと思ったので、靴下は履いておくことにした。目も暗闇に少し慣れてきたためか、少しだけ冷静になれる自分がいた。
 こうきさんの輪郭も先程よりもはっきり見えるなあと思っていたところ、こうきさんは床のマットに寝そべり始めた。
 予想外の行動に戸惑った。
「ななみちゃんも横になろうか」
 こうきさんは片腕を伸ばした状態で、寝そべりながらそう言った。
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