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6 父と母

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「私を助けてくれたベアトリスは、本当に格好良くてキラキラと輝いていた。この人こそ私の王子様だ♡と、その時思ったんだよ」
「は?」
 いや、何故そうなる? 
 父よ。アンタ、男じゃん? 
 アンタ、白馬の王子様を待っとったんか?

「私はベアトリスに『助けてくれて、ありがとう。ぜひお礼をさせて欲しい。私に出来る事なら何だってするよ』と申し出た」
「へ~(薄目)」
「すると、ベアトリスはしばらく思案してから、こう言ったんだよ。『だったら私と婚約してくれないか』とね」
 まさかの展開である。
「そ、それで?」
「私はベアトリスを男だと思っていた訳だから、急に『婚約』だなんて言われてビックリしたよ。『出来る事なら君の嫁になりたいけれど、残念ながら我が国では同性婚は認められていないよ』って返したら、ベアトリスが吹き出したんだ」
「……(何も言えねぇ)」
「ベアトリスは笑いながら『私は女だよ。君を嫁に欲しいと言ってるんじゃない。私を嫁にしないかと言ってるんだ』と私の肩をポンポンと叩いた。驚いた私は『え? 嘘だ! 君が男じゃないなら誰が男なんだ?!』と訳の分からない事を口走って、ベアトリスはますます大笑いさ」
「やだ。お父様ったら、お茶目さん♡(ヤケクソ)」
「その後、トントン拍子に婚約が調った。あちらの侯爵家にとっても、もちろん我がバルサン伯爵家にとっても益のある縁組だったから、周囲は政略の婚約だと思ったようだがね」
 摩訶不思議な両親の馴れ初めを聞かされたヴィクトリア。謎だらけである。

「で、お母様は何故、男装して学園に通っていたんですの?」
「どうしても王族の婚約者になりたくなかったらしい。ベアトリスは当時、年齢の釣り合う第2王子、もしくは第3王子の婚約者に選ばれる可能性があった。名門侯爵家の令嬢だし、あの美貌だったからね。でも、彼女は絶対に選ばれたくなかった。だから男装して学園に通い、皆の前で徹底して男言葉を遣い、男らしく振る舞っていたんだそうだ。王家に、王子妃となるに相応しくない令嬢だと思わせる【ダメだこりゃ大作戦】だと言っていた」
 何だ、そのダサい作戦名は……ヴィクトリアは母のセンスを疑った。

「ただ、王族と婚約したくないからと言って、どうして私なんかに婚約話を持ち掛けたのか不思議でね。だって、何も私と婚約しなくても、ベアトリスなら他の侯爵家や公爵家の令息とだって、いくらでも縁を結べたはずだから。私がそう疑問を投げかけると、ベアトリスは『モブと結婚するのが私の望みなんだ』と、意味の分からない事を言っていた。どうやら『モブ』と言うのは私のような特段目立つことの無い平凡な者を指す言葉らしい。その事に気付いた私は少し傷付いたけれど、でも私を助けてくれた格好良い【王子様】と婚約出来たのだから、やっぱり幸せだと思ったんだ」
 父も父だが、母も母だ、とヴィクトリアは感じた。
 「モブ」と言うのは初めて聞く言葉だが、そういう意味があるのなら、何も父本人に向かって「モブと結婚するのが望み」なんて言わなくてもいいのに……デリカシーが無さ過ぎでは? サバサバした人にありがちな傾向かも知れない。自分が細かい事を気にしないから他人もそうだと思ってしまうのだろう。

「私と婚約してからも、ベアトリスは『念には念を入れたい』と学園を卒業するまで結局4年間も男装を続けた。最終学年を終え、卒業パーティーが終了した瞬間に、本当にホッとした表情をしていたな。そうそう、その卒業パーティーでは、第3王子が突然ピンク髪の男爵家令嬢との婚約を宣言してね。慌てた従者や護衛に引き摺られて会場から出されるというハプニングがあったんだ。第3王子が隣国の王家に婿入り予定であることは周知の事実だったから、皆驚いていたよ。もちろん私もビックリしたけれど、ベアトリスは『やっぱそう来たか』と呟いていた。もしかしたら、侯爵家は事前に何かしらの情報を掴んでいたのかも知れない。とにもかくにも、卒業パーティーを最後に、ベアトリスは男装をやめて女性に戻ったんだ」
 なるほど~。もしかすると、母は第3王子のヤバさに早くから気付いていて、だから王族に関わりたくなかったのかもね。

「で、学園卒業後すぐに、お父様とお母様は結婚式を挙げたのですね?」
「ああ、そうだ。ウェディングドレス姿の【私の王子様】は最高に輝いていた。本当に本当に素敵だったよ」
「……(オッサンオカシイゾ)」

 そうして、せっかく素敵な【王子様】と夫婦になったにもかかわらず、父は結婚後(異母妹ミアの年齢から逆算すると)1年半の内には愛人を囲ったのである。エイダに惹かれる気持ちはまぁ分からなくはないが、それにしても、いくら何でも早過ぎないか? 結婚生活僅か1年半で愛人、ってさぁ~……
 「何でや? 怒らんから言うてみ」と父を問い質したいのはやまやまだが、止めておこう。
 それはあくまで夫婦の問題であって、ヴィクトリアが口を挟む事ではないような気がするからだ。
 人生いろいろ。愛の形だって、夫婦の形だって、きっと色々なのだ。
 おそらくだが、父が母に寄せた想いは【憧憬】や【敬愛】に近いのではなかろうか? 
 だが、それも所詮ヴィクトリアの推測に過ぎない。
 父と母の関係は、結局、父と母にしか分からないのである……




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