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2 コいよ! がんがんコいよ!

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 ヴィクトリアは困っていた。
 一緒に暮らし始めた継母が一向にヴィクトリアを苛めてこないのだ……何故? 
 そしてヴィクトリアと一つ違いの9歳の異母妹ミアも、全然ヴィクトリアの物を欲しがらない。定番であるはずの「お姉様ばかりズルい!」という台詞も一度も聞いた事がない……ホワイ?

 とりあえず、父に相談してみた。
「お父様。お義母様もミアも私に遠慮し過ぎではないでしょうか?」
「ヴィクトリア。急にどうした?」
「いえ。お義母様とミアがこの屋敷にやって来て、もうそろそろ1ヶ月になると言うのに、二人とも私に遠慮ばかりして、ちっとも距離が縮まりませんの」
「う~ん。エイダは平民出身だし、ミアも市井で育っているから、お前のような真の貴族令嬢を前にすると気後れしてしまうのかも知れんな」
「気後れ……」
 何という事……苛める側がドアマットヒロインに気後れなんかしちゃダメじゃん!
 ヴィクトリアは焦った。
⦅何とかして、あの二人に覚醒してもらわないと!⦆

 ヴィクトリアは頑張った。
「お義母様~。相変わらず地味でパッとしませんわね~。伯爵夫人になったのですから、もう少し何とかなりませんこと? あ、やっぱり平民あがりにはムリかしら?」
 継母を怒らせようと煽る。
「ご、ごめんなさい。ヴィクトリア様」
 縮こまって謝る継母。
 いくら義理とはいえ娘を「様」付けで呼び、頭を下げるだなんて。これだから平民出身は!
「お義母様。何度も言ってるでしょう? 私の事は『ヴィクトリア』と呼び捨てにして下さいませ。私に向かって言いたいことも沢山あるのではないですか? 私のこと、憎いでしょう? 恨んでいるでしょう? 苛めたくなっちゃいますよね?」
「そ、そんな……そんな事はありません」
 無理しちゃって。

「お義母様。いいのです。私は分かっています。亡くなったお母様と私の所為で、お義母様とミアはずっと日陰の身だったのですから。私達母子は、お義母様とミアから恨まれても仕方ありませんわ」
「わ、私は平民で、旦那様の愛人だったのですから、正妻である奥様と御子様を恨むなんて、滅相もございません。そんな厚かましい感情を抱いたことは決してありません」
 今にも泣き出しそうな表情で弁明をする継母。
 継母は亡くなった母と一つ違い(実母が1つ上ね)と聞いているが、タレ目で童顔だ。親しみやすいというか庶民的というか、簡単に言うとやっすい顔立ちをしている。ちなみに異母妹のミアも母親にそっくりのやっすい顔をしている。もちろんタレ目だ。キンキンに冷えた氷の美少女ヴィクトリアの整った高貴極まりない顔とは対照的である。継母エイダがヴィクトリアを苛めるなど、絵面的にも無理があり過ぎるのだが、ヴィクトリアは気付いていない。



 父が再婚してから3ヶ月が経った。
 相変わらず継母エイダはヴィクトリアを苛めてこない。どころか、嫌味の一つすら言わないってどういうこと? あー、イライラするわ~。
 ヴィクトリアは早くドアマットになりたくて⦅コいよ! がんがんコいよ!⦆と心の中で叫びつつ、毎度毎度エイダを煽るのだが、エイダは小さな声で「ごめんなさい。ヴィクトリア様」と繰り返すばかりで埒が明かない。だから「様」付けすんじゃねぇよ! タレ目が泣きそうな顔すんなよ! これじゃどっちが苛めてるのか分からんだろぉが!?(どう見てもヴィクトリアの方がアウトな状態である)

 だが、継母エイダと異母妹ミアと同じ屋敷で曲がりなりにも3ヶ月間一緒に暮らし、ヴィクトリアも二人の”人となり”というものを少しずつではあるが理解し始めた。
 エイダはもともと少し気の弱い所のある、控え目な性格の女性のようだ。
 ヴィクトリアの父が市井で見初め、おとなしいエイダを言いくるめて愛人にしたらしい。道理でエイダから「貴族の家を乗っ取ってやるぜ」的な野心や意気込みが感じられないはずである。
 平民のエイダからしてみれば、突然貴族の男(父です)に言い寄られ、断り切れないでいるうちにあれよあれよと愛人になってしまい、すぐに妊娠して出産し、目の前の育児に追われているうちに男(父です)の正妻が亡くなり、やがて男(父です)の屋敷に娘と共に連れて来られた――そして何故か正妻の娘である氷の美少女ヴィクトリア(10歳)に煽られ、苛めを期待されている←イマココ。という感じだろうか?

 ヴィクトリアは独り呟いた。
「……もしかして、ここから私がドアマットに上り詰める(※解説しよう――【ドアマット】は決して上り詰めた先の栄光ではないはずだが、ヴィクトリアの中では【憧れ】なので、こういう言い方なのである)のって、すごく難しくない?」







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