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6 頑張れ! パトちゃん!
しおりを挟む☆王妃視点
王妃は影からの報告書を読んでいた。第2王子パトリックに付けている影である。
「ふむふむ。合宿初日は自己紹介の後、親睦会を兼ねたバーベキューパーティー? あら、楽しそうね。え? 3人部屋に放り込まれた? 平民と同じ部屋で寝泊まりしてるの? 王子のパトちゃんが?! ひょ~!? メロディちゃんてば容赦ないわね!?」
驚きを隠せない王妃。いくらこのオーディションが【クオリティファースト! クリエイティブファースト! アーティシズムファースト! 身分は一切関係なし!】と銘打たれていても、さすがにパトリックには一人部屋(それも別荘で一番良い部屋)が割り振られると思っていた。何なら侯爵家がパトリックにだけは身の回りの世話をする使用人を付けてくれるのでは、と期待していたのだ。
「う~ん。大丈夫かしら? パトちゃんは着替えすら一人でしたことないのに……」
王妃は不安になってきた。そこへ長男である王太子が現れた。
「母上。影からの報告ですか? どうです、パトリックは? 元気にやっているのですか?」
「それがね、お兄ちゃん。パトちゃんたら平民と一緒に3人部屋に放り込まれてるみたいなの。心配だわ」
「アハハハ。メロディ嬢は相変わらず豪胆ですね」
「お兄ちゃんったら。笑い事じゃないわよ」
「大丈夫ですよ、母上。パトリックだって使用人が付かないことくらい当然覚悟して合宿に行ってるんです。あいつは1次審査を通過して合宿に行くことが決まってから、最低限の身の回りの事が一人で出来るようにと一生懸命練習していました。何度も失敗して従者やメイド達に怒られながら、それでも腐らずに練習していましたよ」
「へ? そうなの?」
「そぉ~なんです。だから心配には及びませんよ。母上」
急にハンカチを取り出し目頭を押さえる王妃。焦る王太子。
「母上? どうされました?」
「知らなかった……。まさか、パトちゃんがそこまで本気でアーティストを目指していたなんて!」
「は?」
「だって、それだけこのオーディションに懸けてるってことでしょう? いえね。実を言えば、パトちゃんから『どうしても合宿に参加したいから、学園を1ヶ月休学させてください』ってお願いされた時に⦅あれっ?⦆とは思ったのよ。だけど王子のパトちゃんが、まさか本気でボーイズグループのメンバーとしてデビューを目指してるなんて……。でもでも、どうしても追いかけたい夢があるなら、王族としての義務は後回しにしてでも、夢を追って欲しいわ! だってパトちゃんは若人なのだから!」
「……えーとですね、母上。パトリックはおそらくメロディ嬢と一緒にいたいだけ――「ねぇ、お兄ちゃん!」」
「聞いてますか? 母上?」
「だからね。私は全面的にパトちゃんの夢を応援するわ! たとえダーリン(国王)がパトちゃんのデビューに反対したって負けないんだから! 絶対にダーリンを説得してみせるわ! 目指せ、大陸一のボーイズグループ! あ、やっぱりパトちゃんがセンターよね? だってルックス良いし、歌は上手だし、ほらパトちゃんて運動神経も良いからダンスだってもっともっと上手くなると思うのよ!」
王妃は眼を輝かせ、瞬きもせず息継ぎもせずにそう言った。
王太子はメンドクサくなった。
「そうですね~(放っとけばいっか。メロディ嬢はシビアだから、どうせパトリックは合宿審査で脱落するだろうし)」
王妃はパトリックに付ける影を増員し、1日も欠かさず日報を提出するよう命じた。親バカ全開である。
「さてさて昨日のパトちゃんは……と」
いつものように朝、届いたばかりの日報を広げ、読み始める王妃。
「ふぁー!?」
「どうしました、母上?」
「お兄ちゃん、大変! パトちゃんが、平民と掴み合いのケンカをしたんですって!」
「……あいつ、何やってんだ?」
2次審査はクリエイティブ審査なのだそうだ。15名の男子が5名ずつ、3つの(指定された)グループに分けられ、グループ毎にメンバー自身が曲を作り詞を書きコレオグラフを作って10日後にグループパフォーマンスを披露する――それがクリエイティブ審査の内容らしい。
パトリックのグループは楽曲作りの最初からメンバー同士の意見が合わず、揉めに揉めた。挙句に意見の対立からカッとなった平民がパトリックに掴み掛かり、怒ったパトリックが負けじと相手の胸倉を掴んで「やんのか! オラァァ!! 表へ出ろや!!」と応戦したのだという。(ちなみに同じグループの他の男子達が慌てて2人を引き離し、殴り合いには至らなかった)
日報を読み終えた王妃は叫んだ。
「熱いわ! 飛び出せ青春! 頑張れ!! パトちゃん!!」←え?
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