上 下
13 / 18

13 攫われた婚約者

しおりを挟む



 結論を言うと、ロイクとクラリス嬢の結婚式の日程が早まった。本当は半年後の予定だったのだが、急遽3ヶ月後に式を挙げることとなったのである。
 結婚式にはもちろん俺もオリーヴも出席する。オリーヴはクラリス嬢から式の予定が突然早まった、その理由を聞いたらしく「まったく、クラリスったら!」と、少し怒っていた。オリーヴは親しい友人が婚姻前に、たとえ婚約者とであっても身体の関係を持ったことに憤慨しているようだ。

「オリーヴ、すまない。ロイクが悪いんだよ」
「いえ。ロイク様だけの責任ではございませんわ。クラリスの話では、ロイク様は決して強引なことをなさった訳ではないようですし」

 オリーヴはやっぱり真面目だな。オリーヴとの婚前交渉は諦めた方が良さそうだ。彼女に軽蔑されたくないし、嫌われたくない。あぁ、でも、ちょっとおっぱいを触るくらいは許してくれないだろうか?
「いや、やはり紳士なら決して結婚前にそのような事はすべきではない。こういう事は男の側の責任だ」
 キマった! 俺ってば、なんて紳士!

「まぁ。やっぱりルイゾン様は紳士のかがみですわ。ご立派です」
 オリーヴが俺を感嘆の目で見上げる。
 ヌハ、ヌハハハハ! やったぜ! 
 ロイクよ、お前は俺の踏み台となった。褒めてやるぞ!



 そんな、ある日。
 我が家にベルモン伯爵家からの使者が飛び込んで来た。物凄く急いでやって来たようだ。
「どうした? 何か、あったのか?」
 俺の問いに、使者は息を切らしながら言った。
「オリーヴお嬢様が王宮に連れて行かれました!」
「何? どういう事だ?」
「それが……旦那様も奥様もお留守の時に、先触れも何もなく突然、王宮から迎えが来たのです。オリーヴお嬢様に『至急、王宮に来るように』と。『王太子殿下の命である』と」
「アラン殿下の命だと?」
「はい。コラリーお嬢様と執事が『せめて当主と連絡がつくまで待って欲しい』と、必死に頼んだのですが、王宮からの使者は全く聞く耳を持たず、強引にオリーヴお嬢様を馬車に押し込み、連れ去ったのです!」
「何だよ、それ!? ただの人攫いじゃないか!?」
「コラリーお嬢様が、ブロンディ公爵家に助けを求めるしかないと判断されて、急ぎこちらに向かうよう私にお命じになりました。どうか、どうか、お願いします! オリーヴお嬢様を取り戻して下さい!」

 くそっ! アランのヤツ、何を考えてるんだ?!
 王太子アランは来月、同盟国の王女と結婚式を挙げる予定だ。来月だぞ! 来月! 国を挙げての式まで実質あと3週間もないのである。この時期にオリーヴを強引に連れ去るなんて、一体どういうつもりだ?!
 まさか――まさか、本気でオリーヴを側妃にするつもりか?
 アランは、学園時代からオリーヴへの想いを相当に拗らせているようだった。
 けれど、俺がはっきり引導を渡してやったはずだ。あれで、諦めたと思っていたのに――

「すぐに王宮へ向かう。オリーヴは必ず無事に取り戻すから心配するな。コラリー嬢にも、そう伝えてくれ」
 俺は、ベルモン伯爵家の使者の肩に手を置いて、そう言った。
 使者は涙ぐみながら、
「何卒、何卒よろしくお願い致します」
 と、何度も俺に頭を下げた。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

大陸一のボーイズグループ

緑谷めい
恋愛
 メロディは世話焼き気質の17歳の侯爵家令嬢だ。幼い頃から一つ年下の婚約者である第2王子パトリックの世話を焼きまくってきた。しかし、ある日とうとうパトリックから「うっとおしい」と言われてしまったのである。確かに自分は息子に纏わり付く過干渉な母親のようだった、と反省したメロディは、少しパトリックと距離を置くことにした。  そして彼女は決意した。そうだ! 大陸一のボーイズグループをプロデュースしよう! と。  メロディは、早速、自国の各地でオーディションを開催することにした――

この影から目を逸らす

豆狸
恋愛
愛してるよ、テレサ。これまでもこれからも、ずっと── なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

氷の騎士様は実は太陽の騎士様です。

りつ
恋愛
 イリスの婚約者は幼馴染のラファエルである。彼と結婚するまで遠い修道院の寄宿学校で過ごしていたが、十八歳になり、王都へ戻って来た彼女は彼と結婚できる事実に胸をときめかせていた。しかし両親はラファエル以外の男性にも目を向けるよう言い出し、イリスは戸惑ってしまう。  王女殿下や王太子殿下とも知り合い、ラファエルが「氷の騎士」と呼ばれていることを知ったイリス。離れている間の知らなかったラファエルのことを令嬢たちの口から聞かされるが、イリスは次第に違和感を抱き始めて…… 「小説家になろう」様にも掲載しています。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

あぁ、憧れのドアマットヒロイン

緑谷めい
恋愛
 バルサン伯爵家令嬢ヴィクトリアは、何を隠そう恋愛小説フリークである。  彼女はまだ10歳なのだが、年の離れた従姉の影響を受け、8歳の頃から恋愛小説漬けの日々を送ってきた。そのヴィクトリアが最近もっともハマっているのが【ドアマットからの溺愛】という流れのストーリーだ。ヒロインに感情移入しまくりながら読んでいるうちに、すっかり【憧れ】になってしまった。  ※ 全10話完結予定

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。

石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。 色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。 *この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

処理中です...