上 下
9 / 10

9話

しおりを挟む
全て片付いたのを確認したグレイシアはすぐにアレンの方へと視線を遣った。
大丈夫だとは思ってはいたが、いつも使い慣れている剣ではなくナイフだ。
数で来られたら厳しい筈だ。
だが、アレンの周りには6体のゾンビが沈んでいた。


流石だわ。
黒の燕尾服は全く乱れていない。


アレンはグレイシアの側まで駆け寄ってくる。

「グレイシア、大丈夫か?見ていたから大丈夫だとは思うが….」

「見ていたから」その言葉になんだか次の言葉が聞きたくないななんて思ってしまった。
元々ちゃんと言うつもりではあったけれどいざ、見らるとなるとこんな令嬢は他にはいないのだから幻滅されてもおかしくない。
幻滅なんて、して欲しくない。


「えぇ、大丈夫ですわ。アレン様こそ、いつもの使い慣れた剣ではなくナイフだったのですから…大丈夫でしたか?」
「あぁ、大丈夫だ。私の方はすぐに片付いたからね。君の元に向かおうと思っていたんだが…」


言い淀むアレンに胸が痛む。
やはり、受け入れらなかったのだろう。
続きの言葉なんて聞きたくない。
思わず顔を俯けた。

「君が闘う姿が的確で綺麗だったから思わず見惚れてしまった」
「え…」


アレンは頬をポリポリと掻きながら少し頬を染めて視線を下に彷徨わせた。
その仕草の可愛いこと可愛いこと…
クールな見た目からは想像の出来ない可愛らしい表情にグレイシアは一瞬息が止まった。
ついでに心臓も止まってしまったかもしれない。


「アレン様…そんな風に言って頂けて嬉しいです…私みたいな貴族令嬢からかけ離れた様なものなのに…」


自分の生き方を変えるつもりもないのについそんな可愛くない事を言ってしまう。
自分でも可愛くないとわかっている。
でも、殿方は好きでしょう?お花のようにふわふわした女性が。
こんな苛烈な女、殿方は見向きもしない事、十分わかっているわ。


「グレイシア、そんな風に言わないでくれ。君は貴族としての令嬢も素晴らしい。でもそれ以上にと闘う君が何より美しくて見惚れてしまったんだ」


とろりと青い瞳を蕩けさせて甘い言葉を吐く。
ずるいわ。
そんな事言われた事ないもの。
こんなの絶対嫌われると思っていたもの。
でも、貴方はそんな私を美しいと言ってくれるのね。


「アレン様。ありがとうございます。ユール家の事をお話しますね。元々話すつもりではありましたが…まず、夜会での帯刀が許されているのは私達、ユール家が王家の剣だからです」
「王家の剣とは?」

王家の剣。
それは一般には公開されていない。


「元々は王家に仇名す輩を秘密裏に処理する事を目的としています。今はゾンビもいるので公にも守っていますが。その為、何があっても王家を守れるようにユール家だけは帯刀を特別に許されています」
「そうだったのか。なら尚更君は辺境に来てもいいのかな?」
「えぇ、ゾンビも本来なら中央には出て来ない筈ですし問題はなかったんですが…何故今回、ゾンビが出たのか…それが解決出来たなら辺境に喜んで行かせていただきます」


そう、中央に本来ならば出る事のないゾンビが出たのだ。
アレンが守っている所が突破されたのならまだしも、そうでなければ事態は深刻だ。


「そうだな。砦に早馬を出して状況をまず聞こう。あの橋が突破された訳ではないのなら事態は深刻だろうし。この中央で誰かがゾンビにする事が出来ると言うことにもなる。どっちにしろ最悪だ」


アレンはグレイシアの危惧をわかっていた。
突破されただけならまだいい。
だが、中央だけに起こっている騒ぎならば、誰かがそういう騒ぎを起こした事になる。
アレンとグレイシアは嫌な胸騒ぎを覚えた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

【本編完結】番って便利な言葉ね

朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。 召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。 しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・ 本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。 ぜひ読んで下さい。 「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます 短編から長編へ変更しました。 62話で完結しました。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。

田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。 結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。 だからもう離婚を考えてもいいと思う。 夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。

処理中です...