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二日目

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(まさか、あそこから……? ……いや、あり得ないか)

 すぐにかぶりを振ったリクと、たまたまそばを歩いていた高校生くらいの少女の目が、合った。
 
 ピンクのキャミソールと、黒のミニスカートを身に着けたその少女は、じっとリクを見つめたまま足を止めて、ふいに、柔らかく微笑む。

「……っ!」

 リクは、その少女の白い太腿の間に、幾筋か鮮血が流れて乾いた跡があるのに気づいて、眉を寄せた。

(どこかで怪我をしたのか……いや、ちがう。あれは、たぶん――)

 しかし、少女の満ち足りた笑みを見るかぎり、暴行された、というわけでもないようだ。

 事件でないのなら、とくに自分が騒ぐことでもない――そう思って、前方に視線を戻した時、

「っ!?」

 リクは驚愕し、思わず悲鳴にあげそうになった。

 これまで町へ向かって黙々と行進を続けてた島民たちが全員、立ち止まってこちらを振り返り、少女と同じ柔らかな笑みを浮かべて、リクのことを見つめている。

 振り返ると、やはり背後にいる者たちも皆、その場で立ち止まって、じっとこちらを見つめていた。

(なっ、なんなんだよ、こいつら……)

 リクは、背中に冷たい汗を流しながら、思わずその場から後退る。

 島民たちは皆、近づいて来ることも、話しかけてくるこもとなく、ただじっとリクのことを見つめて、そっくり同じ、柔らかな笑みを浮かべている。

 まるで、石像か何かのように――。

 頭に浮かんだその言葉が、ふいに昨日のレンとの会話を思い出させた。

(そういえば……あいつも、八神の笑顔が「石像のようだ」と言っていたな……)
(これは、ただの偶然か……?)

 自分の身体が小刻みに震えていることに気づいたリクは、そのまま数歩後退ったあと、その場から勢いよく駆け出した。
 これまで向かっていた町とは反対の方向、仲間たちのいる洋館へと向かって。

(くそっ……なんなんだよ、あいつら……!)

 背中に、無数の視線を痛いほど感じながら、無我夢中で全力疾走する。

(気味が悪いって、レベルじゃないぞ……)

 ふたたび岬を回ったところで一度背後を振り返り、誰も追ってきていないことを確認すると、ようやく少しスピードを落とした。

「くそっ、この島、なんなんだよっ……」

 昨日から少しずつ蓄積されてきた違和感が、いま、一気に巨大な恐怖へと姿を変えて、リクに襲いかかる。

 研究所のそばを通り過ぎる時、建物の中から何者かがこちらに暗い眼差しを向けているように感じて、リクは思わず叫び出しそうになった。

「くそっ、くそっ、くそっ!」

 ガタガタ震える身体に鞭打って、不格好に走り続けたレンは、洋館へと続く坂道を登り切ったところでついに力尽き、その場にドサリと倒れこんだ。
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